第3話 “かっこいい”を知った日
学校までの通学路の途中、いつもの待ち合わせ場所で合流した親友の
クラスに入ると、みんなが一つの方向を見ていて、なんだかピリピリした雰囲気が漂っている。視線が集まる中心地にいる人たちを確認すると、私は舞香ちゃんと二人で不安に顔を見合わせた。
「ほんとうざいんだけど」
「みーなに謝りなよ」
「気持ち悪いんですけどぉ」
『みーな』と呼ばれているのは、クラスのカースト上位の女の子、
「え……。でも、これは私が好きで買ったものだし。それがちょっと似てたってだけで……」
そう答えたのは私と同じくカースト下位の女の子、
(ええ……? ただ似た服着てただけでしょ? こんなふうにみんなの前で責められることかな?)
絶対違う。そう思ったけれど、私にはそれを口に出す勇気はなかった。全力で歌を歌って『きもい』と言われてしまった過去が頭をよぎったから。
(私がなにかを言って、またあんなこと言われたら、立ち直れない気がする)
結局、私は自分が一番大切なのだ。自分と関係のない誰かのために傷つきたくないし、カースト上位の未唯奈ちゃんに目をつけられるのも
(こんな私、大嫌い)
そう思ったけれど、どうしても足がすくんでそこから動けなかった。自分じゃない誰かが助けてくれないか、と
「みんな集まって何やってんの?」
クラスの誰よりも長身の彼は、近くで見ると迫力があった。
(
(ゆいゆいゆいゆいゆいゆいーー! や、やばいよぉぉー! 結城くんがかつてないほど近いぃーー!)
私の隣で同じ景色を見ていた舞香ちゃんが、私の腕をぐいぐい引っ張りながら
舞香ちゃんとは保育園の頃から仲良くしてもらっているのだが、彼女はとても“
その彼女が小学校に入学して、
確かに誰が見ても目を見張るほどのかっこよさがあるので、学校一の人気者だ。さらにスポーツ
(舞香ちゃん、落ち着いて……!)
私が自分の腕を守っている間に、結城くんは
「そっか。でも、関さんはその服、自分の名前にちなんで選んだんじゃないかと思ったんだけど。違う?」
そう言われてよく見てみると、関さんが着ているワンピースの柄は桜だった。
“
(本当だ。気づかなかった……。よく見てるなぁ)
結城くんに「違う?」と尋ねられた関さんは、頬を赤くしながらもぶんぶんと頭を
「だよね、似合ってるし。……で、篠崎はその桜柄が春らしくて気に入って買ったんだろう?」
未唯奈ちゃんも少し恥ずかしそうにしながら頷いている。
「うん。二人とも別ルートで同じ柄の服にたどり着いたってことだね」
結城くんはにっこり笑って言った。
「それをさ、同じ日に着てくるなんてどんな
彼の一言で、空気が変わった。未唯奈ちゃんと関さんが顔を見合わせて何かを言おうとしたところで、ガラガラと音を立てて教室の扉が開き、担任が登場した。
「ホームルーム始めるぞー、みんな席座れー」
その声がけを合図に、クラスのみんなは席についた。
それから座っている席も近かった未唯奈ちゃんと関さんは、ホームルーム中や授業中も手紙のやりとりをしているのを観測した。どうやら、仲直りをしたようだった。
(結城くんって、すごいな。一瞬で解決しちゃった。しかも超絶穏便に)
私がどうしてもできなかったことをさらりとやってしまった。誰か助けてくれないかとは思っていたが、その対象は先生とか、大人を想定していたと思う。それなのに、実際解決してくれたのは同級生の男の子だった。私はそのことに、静かに衝撃を受けていた。舞香ちゃんの「ね! かっこいいでしょ⁉︎」という興奮気味のセリフが今にも聞こえてきそうだ。
(かっこいい……。ああいう人を“かっこいい”って言うんだ)
あんな姿を見せられてしまうと、女の子人気が抜群なのも簡単に納得できる。
(やっぱり、人から“好かれる”のには
そんな当たり前のことに、改めて気づいた私だった。
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