第15話『島の子どもたちと、缶蹴り大会 その2』
かくして、あたしは島の子どもたちと缶蹴りをすることになった。
そのルールはかくれんぼと鬼ごっこを混ぜたようなもので、最初にじゃんけんで鬼を決め、鬼以外の子が缶を蹴る。鬼がその缶を拾ってくるまでに他の皆が隠れる……といったものだ。
かくれんぼと違うのは、鬼が隠れている子を見つけた場合、そこから鬼との競争が始まる点だ。
鬼より先に缶のもとへたどり着き、それを倒した場合、それまで捕まっていた子も逃げていい決まりになっている。
缶から離れているスキに隠れていた子が出てきて缶を蹴ってしまう……なんてこともしょっちゅうだし、鬼は最後の最後まで気が抜けないのだ。
この島は子どもが少ないので、遊ぶ時は年齢を問わず皆で遊ぶ決まりだし、中には小さな子もいるので、あたしたち年長者は当然手加減をする。加えて、小学校低学年の子が鬼をする場合、続けて2回までという島ルールもある。
「いくぜー、じゃーんけーん!」
「ぽん!」
あたしたちを含め、その場に集まった十人でじゃんけんをする。その結果、最初の鬼は
「やったー! 新也兄ちゃんが鬼だー!」
「やーい!」
「くっそー、絶対捕まえてやるからなー!」
小さな子たちが
「それじゃ、誰が缶蹴る?」
「裕二にーちゃん……は体力なさそうだから、ここは
「うんうん、小夜おねえちゃんがいいと思う!」
「ちょっと、それどういう意味よー!」
思わず大きな声を出しつつも、満場一致で缶蹴り役はあたしに決まった。
こうなったら、思いっきり蹴り飛ばしてやろうじゃないの。
「小夜、いちおう針を刺しとくけど、猫を使って缶を倒すのは禁止だからな」
地面にセットされた缶に向かう途中、新也があたしの耳元でそう口にする。
「わ、わかってるわよ。ちなみにそれ、針じゃなくて釘だから」
反射的に指摘するも、彼は「もしやったら、すぐさま鬼を交代してもらうからな」と、聞く耳をもたなかった。
「それじゃ、飛ばすわよー。うりゃー!」
助走をつけて、あたしは思いっきり缶を蹴り飛ばす。
カーン、と心地よい音を響かせつつ、缶は放物線を描いて路地の向こうへと飛んでいく。
あの調子だと、郵便局近くの空き地まで飛んでいったんじゃないかしら。
「くっそー、飛ばしすぎだぞ!」
直後にそう声を上げて駆けていく新也の背を見送ってから、あたしたちは各々の場所に隠れたのだった。
「ぜぇ、はぁ……探すのに時間かかっちまった」
しばらくして、新也が缶を手に戻ってくる。
「あ、戻ってきました」
「ヒナ、しーっ」
あたしとヒナは、缶の設置場所からそれほど離れていない茂みの中に隠れている。
ここからなら鬼の動きもある程度見えるし、隙を見て飛び出すことも可能なはずだ。
「よーし、誰がどこに隠れてるんだろーな。一人残らず見つけてやるぞー」
小さな子たちに向けてだろうか、新也はわざとらしく言う。
やがて、じりじりと缶から離れていき……あたしの視界から消えた。
「あ」
それから少し時間があって、小さな声がした。
「
すぐさま新也が駆け戻ってきて、そう言いながら缶を踏む。少し遅れて、意気消沈したなっちゃんがやってきた。
「サヨ、ポコペン……とは、なんですか」
「あたしたちもよく知らないけど、缶を踏む時は名前と一緒にそれを言うのがルールなの」
小声でそう説明してあげると、ヒナはこくこくと頷いていた。
……今更だけど、ポコペンって何なのかしら。当然のように使ってたけどさ。
その後も、新也は順調に子どもたちを見つけ、捕まえていく。
中には、「夏海ねーちゃんを助けるぞー!」と、数人がかりで捨て身の戦法を仕掛けた子たちもいたけれど、まとめて捕まってしまっていた。
そうこうしているうちに、隠れているのはあたしとヒナ、そして裕二の三人だけになっていた。
「なんだかんだ言って、新也も男の子。強いわねー」
思わずそんなことを口走りながら、茂みの中からその様子をうかがう。
そろそろタイミングを見て勝負に出るべきかしら……なんて考えていると、一匹の黒猫がトテトテと缶に近寄っていくのが見えた。
缶の周りにいる皆も、一様に不思議そうな顔でその猫を見ている。見慣れない黒猫だった。
……はっ。あの猫ってもしかして、クロとスズのお母さんだったりするのかも。
「ねぇ、そこの子!」
そんな考えに至ったあたしは、思わず茂みから飛び出して黒猫に声をかける。
するとその声に驚いたのか、黒猫は身を翻し、缶を倒しながらいずこへと逃げ去っていった。
「なんだ、今の音は!?」
その直後、缶の倒れた音を聞きつけたらしい新也がダッシュで戻ってきた。
「あれ? 夏海、その缶、誰が倒したんだ?」
缶が倒れているにもかかわらず、誰一人として逃げていないのを不思議に思ったのか、新也はなっちゃんにそう尋ねる。
「えっと、黒猫がね……倒しちゃったんだけど」
「こら、小夜ー!」
「あたしじゃなーい!」
なっちゃんが見たままを口にし、新也が叫ぶ。
あたしは必死に弁解するも、猫が倒したという事実は変わらず。先の取り決めによって、あたしはそのまま鬼をやることになってしまった。
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