第14話『島の子どもたちと、缶蹴り大会 その1』
祭りに続いてお盆が終わると、島の海にはクラゲが出るようになる。
そうなると海水浴客はいなくなり、代わりにやってくるのがキャンパーや釣り人さんたちだ。
灯台の近くにキャンプ場や良い釣り場があるので、彼らは島に着くとまっすぐにそっちに行ってしまう。
つまり、住宅地にあるカフェや飲食店はスルーされることが多くなり、あたしたちは暇を持て余すことになる。
「あふ……」
昼食を食べてお腹も膨れた昼下がり、あたしはしまねこカフェの和室の壁にもたれ、あくびを噛み殺していた。
お昼時に数人のお客さんが来たものの、それ以後はばったり客足が途絶えてしまった。
島の中でも少し奥まったところにあるとはいえ、ここまでお客さんが来ないとは。
まさに開店休業状態。ネネとココアも相手をしてくれる人がいないせいか、いつしか姿を消していた。
「
畳の上に寝っ転がって退屈そうにしているヒナを見ながら、おじーちゃんがそう口にした。
「そうねー。ヒナ、コンビニヨシ子でも行く?」
「行きます!」
ヒナは弾かれたように体を起こすと、その瞳を輝かせる。よほど暇だったのだろう。
いそいそと靴を履くヒナに苦笑しつつ、あたしも外出の準備にとりかかった。
「それじゃ、いってきまーす」
「いってきます!」
「ああ、気をつけてね」
おじーちゃんに見送られつつ、あたしたちはコンビニヨシ子へ向かう。
ちなみにコンビニヨシ子というのは港の近くにあり、日用品から駄菓子まで何でも揃っている商店だ。そんな店内の様子を見た誰かが、島のコンビニと呼んだのがその由来だったりする。
なんにしても、普段から子どもたちの社交場となっているわけで。この時間でも誰かいるかもしれない。
「……あれ?」
ヒナと手を繋ぎながら港まで降りてきた時、炎天下の中で熱心にカメラを構える
「こんにちはー。今日も写真撮影ですかー?」
カメラを下げた瞬間を見計らって、あたしは声をかけてみる。
「ああ、小夜ちゃんにヒナちゃん。こんにちは。最近人出が落ち着いてきたから、ミナの撮影会をしているんだよ」
どこか嬉しそうに言う青柳さんの視線の先には、後ろ足を横に投げ出して横座りをしているミナがいた。
「島の風景と一緒にミナを撮る絶好の機会なんだ。人が少ないから、ミナもああしてリラックスしてくれているしね」
「……リラックスはしてるけど、暑いから長時間の撮影はやめてほしいかな」
青柳さんが満面の笑みを浮かべる一方、ミナはそんな言葉を漏らしていた。
いくら建物の陰になっているとはいえ、真夏の真っ昼間だ。さすがに暑いと思う。
「どんな写真を撮ったですか!?」
「見るかい? これなんてベストショットだよ」
とびつくように青柳さんに尋ねるヒナに対し、彼はカメラを操作して、これまで撮りためた写真を見せてくれた。
ヒナの肩越しに見えた画面には、縞模様の連絡船とミナのツーショット写真や、夕日に染まる浜辺とミナの写真などがあった。
見慣れた島の風景のはずなのに、この人が撮ると全く違う場所のように思えるのが不思議だった。
「……もういい? 撮影終わったなら、帰りたいんだけど」
その写真に思わず見入っていると、ミナがしっぽをぴょこぴょこと動かしながら呟いた。
彼の言葉を直接伝えるわけにもいかず、あたしは「今の時間は猫には厳しい暑さですから、無理をさせないでくださいねー」と言うにとどめ、ヒナを連れて港をあとにしたのだった。
やがてたどり着いたコンビニヨシ子には、予想通り数人の子どもたちがいた。
驚いたのは、その中に
「お、小夜とヒナも来たのか? ちょうどいいや」
そしてあたしたちの姿を見つけると、新也は意味深な顔で笑う。
「何がちょうどいいのよ?」
「これだよこれ」
あたしとヒナが揃って首を傾げると、新也は表情を変えぬまま、手元の空き缶を見せてくる。
「皆で缶蹴りしようと思ってさ。人数は多いほうが盛り上がるし、小夜たちも参加しよーぜ」
一瞬だけ、子どもっぽい表情に戻って彼は言い、あたしは呆気にとられてしまう。
「あの、カンケリってなんですか?」
「かくれんぼと鬼ごっこを混ぜたような遊びなんだけど……ヒナちゃん、知らない?」
「知らないです」
その言葉を受けて、なっちゃんが説明してくれるも……ヒナは再び首を傾げていた。
「こういう時は、学ぶより慣れろって言うしな。ヒナも一緒に缶蹴りやろーぜ」
それを言うなら、習うより慣れろだよ……なんて裕二のツッコミを聞き流し、新也はヒナを誘う。
「はい! カンケリ、やってみたいです! サヨも一緒にやりましょう!」
「え、あたしも?」
ヒナはしっかりと頷いたあと、キラキラの瞳であたしを見てくる。
「でも、こんな大人数で騒いだら、お店の迷惑になるんじゃ……?」
たまたま店先に出てきていたヨシ子さんに視線を送りながら、あたしはそう口にする。
「子どもは元々、騒ぐもんさ。あたしゃ気にしないよ」
彼女はそれだけ言って、お店の中に引っ込んでしまった。
……これは、逃げられそうにない。
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