第6話『男子たちと、豊村村長の家へ』
あたしたちは一時間ほどかけて、しまねこカフェに帰り着く。
その頃にはどっぷりと日が暮れていて、辺りは夜の闇に包まれていた。
「つ、着いたあぁぁ……」
カフェのウッドデッキに女の子を慎重に横たえた直後、男子二人は声を揃えてその場に倒れ込んだ。
「こりゃ、明日は筋肉痛なんてもんじゃないよ……せっかくの日曜日なのに」
「人助けしたんだからぶつくさ言わないの。二人とも、本当にありがと」
「……
そうお礼を言ったとき、カフェの中から懐中電灯を持ったおじーちゃんが姿を現した。
「ごめんなさい。その、女の子を見つけちゃって……」
「……女の子?」
心配かけたことを謝り、その理由を説明すると、おじーちゃんは持っていた明かりをデッキの上へと走らせる。
そして横たえられた少女を見つけ、言葉を失った。
「これは……お医者さんも呼んだほうがよさそうだね。
ややあって、おじーちゃんは電話を手に取る。
「トシオ、心配してたんだよー?」
もしかして大事になっているのでは……と、男子たちと顔を見合わせたとき、近くに寄ってきたココアがそう言う。
女の子を追いかけるのに必死でカフェに戻る余裕なんてなかったけど、一言かけておくべきだった。
「……三人とも、豊村さんが話を聞きたいそうだ。落ち着いたら、一緒に村長の家に行っておいで」
おじーちゃんはそう言うと、また電話をかけ始める。その内容からして、今度は島の診療所のようだ。
この島にお医者さんは常駐していないので、隣の大きな島から来てもらうのだろう。
「……
やがて電話を切ると、おじーちゃんは的確な指示をくれる。
その頼もしさに安堵しつつ、あたしたちはそれに従ったのだった。
◇
女の子を無事に寝かせたあと、あたしたちは三人で村長さんの家に向かう。
佐苗島の代表を務める豊村村長の家は、しまねこカフェから徒歩数分。通学路の途中にあって、立派な庭のある大きな家だった。
「いやー、小夜ちゃんたち、心配したんだぞー。無事で何よりだ。まー、上がってくれ」
玄関に入ってすぐ、男子たちと並んで頭を下げるも、村長さんは朗らかな口調で言い、あたしたちを家の中へと招き入れてくれた。
「……サヨたち、なにやらかしたの?」
廊下を通って居間へと進んでいると、村長さんの家に出入りする猫、みゅーちゃんが声をかけてくる。
さすがに返事をするわけにもいかなかったので、他の皆には見えないように口元に指を立てた。
やがて通された部屋で、座卓を挟んで村長さんと向かい合う。
「まー、そう固くなりなさんな。ほれ、ジュースでも飲め」
緊張した面持ちで並ぶあたしたちに、彼は缶ジュースを出してくれる。
お礼を言ってそれを受け取り、一口飲む。
炭酸が喉を通り抜けるのを感じ、思わず大きく息を吐いた。
……思えば、灯台からここまで一滴の水も口にしていなかった。それほど気が動転していたのだろう。
「
おもむろに缶ビールを手に取りながら、村長さんが言う。その声とは裏腹に、その表情は真剣そのものだった。
そこであたしたちは、船のない時間に灯台へ向かう見知らぬ女の子を見つけ、そのあとを追いかけたことや、灯台でその子が倒れているのを見つけて介抱し、男子二人に手伝ってもらってカフェまで運んだことなど、代わる代わる説明した。
「……そういうことだったのかぁ。三人に言いたいことはゴマンとあるが、まぁ、人助けなら仕方がない」
たどたどしくも説明を終えると、村長さんは納得したように頷いてから、缶ビールをあおる。
「しかし……猫島の宿命か、捨て猫は時々見るが……捨て子は初めてじゃなぁ。島始まって以来かもしれん。その子が無事に目を覚ましたら、わしも話を聞きに行こうかな」
続いて頬杖をつきながらそう言う。
捨て猫はともかく、この時代に捨て子はさすがにないと思うけど。
「……夜分にすみません。
会話が途切れたタイミングを見計らったように、玄関から声がした。
「もう診察が終わったのか。案外早かったなぁ」
村長さんはそう言って立ち上がる。どうやらおじーちゃんが呼んだお医者さんが診察を終え、報告に来たようだ。
「せっかくだ。その子の容態は三人も気になっているだろうから、話を聞いておくといい」
立ち上がった村長さんからそう言われ、あたしたちも玄関へと向かう。
そこでお医者さんから聞いた話によると、女の子には特に目立った外傷や異常はなく、そのうち目を覚ますだろうとのことだった。
「それならよかった。夜遅くに悪かったねぇ」
「いえいえ。それでは私はこれで失礼します」
あたしが胸をなでおろしていると、彼はそうお礼を言ってお医者さんを見送る。
……そんな二人の脇を抜けるように、みゅーちゃんが家の中に入ってきた。
「……サヨ、ココアから伝言。女の子が目を覚ましたらしいよ」
それを聞いたあたしはこっそりとお礼を言って、その背中を撫でる。
「村長さん、なんなら今からカフェに来ませんか? あの女の子、そろそろ目を覚ますかもしれないので」
「んん? もしかしてみゅーちゃんが伝えに来たのか? 小夜ちゃんは猫の言葉がわかるのかい?」
できるだけ自然を装ってそう伝えてみると、そんな言葉が返ってきた。
あたしはそれを適当にはぐらかし、男子二人にどうするか尋ねてみる。
「あの子のことは気になるけど、俺は帰るよ。これ以上遅くなったら、さすがに母ちゃんに怒られるしさ」
「僕も今日のところはお暇するよ。また明日、詳しい話を聞かせて」
二人はそれぞれ言って、玄関先に置いていた釣り道具を手にすると、疲れた顔で去っていった。
そんな彼らを見送ったあと、あたしと村長さんは一緒にしまねこカフェへと向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます