第40話 再会(5)
月曜日、お父さん・お母さん・陸兄さんの三人は、日本へ帰った。
その後も、毎日のようにお母さんとは、SNSでやりとりをしていたため、寂しくはなかった。
日に日に家族との絆が強くなっていく気がする。
会社での日々も、日常に戻っていた。
当初、私の生い立ちに驚いた桜木社長や許さんも、何も変わらぬ私を見て、次第に普段の応対と変わらぬようになった。
吉岡さんや建華は、逆に揺れ動く私の心を知っているだけに、どのようにするのか、気を使っている気がする。
二人とも、私が出す結論がどのようなものであれ応援する、と言ってくれている。
その気持ちが余計に心を決め兼ねていた。
そのようにして、あっと言う間に三か月が過ぎた。
そして、再び家族が上海へ来ることになった。
今回は、お父さんとお母さんの二人である。
二度目の対面は、日々オンラインで顔を会していたこともあり、初めての時のような緊張感はなかった。
純粋に会えることがうれしかった。
今回は、上海の新南地区へ行った。
以前、家族で住んでいた地域だ。
昔の私たち家族の行動を、お父さん・お母さんは熱心に教えてくれる。
私は、小さすぎてほとんど覚えてないが、時々、懐かしい光景に出会った気がした。
その合間、時々、お父さんとお母さんは、二人で話し込んでいた。
時に、お父さんが、感情的になっている場面もあった。
そんな二人を見ると気になったが、来栖さんが、私に気遣わせないように話しかけてくる。
夕食の時、日本で留守番をしている陸兄さんのドジ話に会話は盛り上がった。
陸兄さんは、ドジらしいけど、人の好さが伝わるエピソードばかりで、少しうらやましくなった。
小さい頃からの話を聞いているうちに、育ての親であり、韓国へ行った母さんを思い出して、うるっときた。
私の涙に二人は心配そうにたずねてくる。
「どうした、何か変なこと言ったかな」
お父さんは、娘に泣かれた経験がないため、おろおろしている。
「あなた、美南は色んなことを思い出してるのよ。美南、いいのよ。落ち着くまで待ってるから」
すべてを見透かしたようにお母さんは言ってくれた。
「東中川さん、一気に多くの事実を聞いて、色んなことが押し寄せて来てるのよ。だから、あせらないで!」
来栖さんも助け船を出してくれる。
予め、お母さんと来栖さんとで、打ち合わせたようにも思える。
恐らく、女性同士、気持ちがわかるのだろう。
「す、すまん。どうも男ってやつは、気持ちの機微に鈍感でダメだな」
そう言って、お父さんは、ただたどしい口調で謝った。
「ううん、ごめんなさい。陸兄さんのことを幸せそうに話すおとうさんとおかあさんを見てるうちに、韓国にいる育ててくれた母さんを思い出して、つい……」
「美南、あたりまえよ。長い間、美南を育ててくれた李今姫さんには、私も本当に感謝しています。今のあなたがあるのは、韓国のお母さんのおかげなのだから、絶対に忘れてはダメ」
いつものやさしい目から、強い意志の入った目に変わった。
それは慈愛の目であり、お母さんの寛容な心が見てとれた。
「ありがとう。私、中国でのことを全て忘れなくてもいいのかな?」
「何を言ってるんだ、あたりまえじゃないか。お母さんの言う通り、感謝してもしきれないぐらいさ。美南をこんなにやさしい子に育ててくれたんだから」
初めて、二人が、私に対して感情を見せた気がする。
でもそれは、私や韓国にいる母さんのことを考えてくれているからだとわかるため、熱く込み上げるものであふれた。
隣で来栖さんは、ただひたすらうなずいていた。
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