第2話 旅立ち(2)

 初めて、私が日本の音楽やアニメに興味を持ったのは、中学に入学してできた最初の友達、表(ビャオ)建(ジエン)華(ホア)の影響が大きい。


 建華は大の日本好き。

私は、日本のことなど何も知らなかったが、色んな日本のアイドルを建華から教えてもらった。

さらに、アニメ動画も見せてくれ、今までにない世界を知った。

今でも、その頃見たアニメは、私のお気に入りである。


 そう考えると、建華は私に日本文化のいいところだけを切りとって教えてくれたと思う。

それに両親の日本嫌いへの反発心もあったのだろう。

それ以来、私も建華にならって、日本の歌とアニメを見聞きする日々を過ごすようになった。

いや、ただの好きではない。日本流にいうと、〈おたく〉と言うのだろう。


 建華に誘われたことから、中学の第二外国語では、迷わず日本語を選んだ。

当然、両親は大反対したが、それまで反抗したことのなかった私が、突然大声でキレたので、二人は驚いて押しだまった。

それ以後、両親に対しての反発心が、表面にでるようになった。

今では、子供の頃よりも、自分の意見を親に言えるようになったと思う。

それはひとつの進歩なのだろう。

建華との出会いが、私を変えてくれた。感謝の一言につきる。


「おねえちゃん、またパパとケンカしたの?」

 弟の賢友が、おずおずと聞いてきた。

「うん、まただね。ごめん、うるさかったよね」

「ううん、でも日本のアニメってそんなに面白いの?」

 賢友に日本の音楽やアニメについて教えると、両親が嫌がると思ったので、敢えてすすめるようなことは言ってこなかった。


「どうかな、人によると思うよ。中国や韓国にも、いいものはたくさんあるし、自分に合うものを皆持ってるの」

「僕に合うのもある?」

「賢友にも、きっとあると思うよ。韓国のアイドルとか好きでしょう?」

「うん、大好き!」

 賢友は、元気よくこたえた。


 あの嫌味な父さんから、こんな素直な息子が生まれるなんて信じがたい。

賢友には、ヘタに日本のものに興味を持たれるより、二人が薦めている韓国系のエンタメに興味を持ってもらう方がいい。

そうでもしないと、私への風当たりがいっそう強くなるにちがいない。

そう考える自分に気づくと、打算的な考えで賢友に答えてる自分に対して、軽い嫌悪感をおぼえた。


 この一連の話を親友の建華に話すと、

「昔の人は、皆そうだよね。戦争の頃の嫌な思いを受け継いでるもんね」

「ほんと、そう思う」

「でも、静のお母さんは、そんな年でもないのにね。まあ、韓国人のお父さんは、わかるけど。ひと回り以上、年が上なら仕方ないよね」

 健華は、すべてを悟ったように言う。

「母さんは、元々、日本のことは好きではなかったけど、再婚する前はあそこまで否定的なこと言わなかったんだ。完全に父さんに合わせてるよね」

 私は、顔を伏せ、沈んだトーンで言った。


「確かに、日本のやったことは悪いけど、今の日本の若い人たちにそれをつぐない続けろ、と言うのも違うよね」

「そう、政府同士がもっと平和的に話し合えばいいのに、と思うよ」

「政治的な利用もやめてほしいよね。人気取り目的の反日はバレバレなんだから」

 私も首を大きくたてにふる。


「私たち、日本の歌やアニメを愛する者たちにとっては迷惑だよね!」

 建華の言うことはもっともだ。


 政治的な話はわからないが、歌もアニメも好きなんだから、もっと自由に見たり聞いたりしたい。

父さんが、韓国人のせいか私は中国人としての見方だけにはなりきらない。

中国のメディアが言ってることと、韓国で言われてることは違うらしい。

父さんがいつも「中国は勝手なことばかり言ってる」とぶつぶつ言っている。


 どちらが正しいのかはわからないが、それは唯一、父さんに感謝することかもしれない。

二つの立場から物事を見ることを学べた。

中国人でありつつも、朝鮮民族としての私。

だからこそ、いつの日か、もっと近隣の国同士が仲良くできる日がくればいいのにと思う。


 建華と毎日のように話す日本の歌やアニメの話は、家庭でのもやもやを吹き飛ばしてくれる。

建華との話が楽しくて学校に来てるようなものだ。

中学・高校と続いたが、それも近く終りをつげる。


 私たちは、もうすぐ卒業式を迎えるからだ!

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