第四章 七瀬大地の憤怒

 俺、七瀬は24歳の新米警察官だ。おととし警察学校を主席で卒業して、管内でも最も忙しい交番に配属された。しかし、酔っ払いを殴ってしまったことが原因で、昨年の4月に田舎の交番に飛ばされることになった。

 新しい交番で俺の上司になったのが、堂島さんだった。堂島さんの仕事のできなさは警察署内でも有名であったため、俺は田舎の交番で堂島さんの下で働くと知った時は警察官を辞めようかと思うほど落ち込んだ。

 しかし、実際に堂島さんと仕事をすると、彼はただ器用さに欠け、出世に興味がないだけで、仕事に対する真剣さは他の人に負けていなかった。堂島さんには、人の話を相手が納得するまで聞き続ける忍耐強さと優しさがあった。それは短気な俺に欠けている部分であり尊敬できる部分でもあった。俺が堂島さんに教えてもらったことは多く、早く仕事を覚えて恩返しがしたいと思っていた。

 しかし、2日前、勤務中に堂島さんは殺された。

 堂島さんが殺された後、警察のメンツをかけて警察本部が総出となって犯人の捜索を行っているが、犯人はいまだに見つかっていない。警察署内では、警察官でありながら一般人に殺された堂島さんを情けないと蔑む声があり、俺は怒りを抑えるのに必死であった。

「あんなクズたちに堂島さんを殺した男は捕まえさせない。俺が絶対に捕まえる。」

 堂島さんが男に襲われ命を奪われるという悲劇が起きてから2日がたった。あの日から俺は一睡もしていないし、ほとんど何も食べていない。俺は地域課長に無理せず休むように言われたが、何とか説得して今日は警察署の電話番をしている。本当は堂島さんを殺した男の捜索班に加えてほしいと強く志願していたが、冷静さを欠いていると言われ、それは叶わなかった。

 いつもなら警察署の電話は鳴りっぱなしであったが、その日は退屈であった。俺は相変わらず腹が減らなかったが、抑えられないイライラを誤魔化すために何か口に入れたくなった。何か食べるものがないか探したところ、警察署の自販機にカップラーメンがあるのを発見した。堂島さんがよく食べていたやつだ。俺は電子ケトルに水を注ぎお湯が沸くのを待った。

 そのとき、警察本部からの無線が警察署に入ってきた。待ちに待った知らせであった。

 無線の内容は、女性からの通報で、友人と廃病院で肝試しをしていたところ、フードを被った謎の男に襲われてケガをしたとのことであった。堂島さんを殺した男の特徴と完全に一致していた。

 警察本部からは複数名で対応するように指示があったが、俺は上司の止める声を無視して一人でパトカーに飛び乗り現地へ急行した。こうなることを予測し、あらかじめパトカーの鍵をポケットに忍ばせていたのだ。

 俺は、闇夜に覆われた田舎道を、パトカーで走った。スピードメーターが振り切れそうになるほどの速度だった。最初に現場に到着したい。元々負けず嫌いな性格であったが、この時ほど一番になりたいと思ったことはない。

 その望みは叶い、俺が現場に到着したとき、他のパトカーはまだ来ていないようであった。

 現場に着いて、まず視界に入ったのは、赤い車、そしてすぐに車の近くに男が倒れているのが分かった。

 倒れている男に近づこうとしたとき、もう一人の男が、赤い車の奥の方から、ナイフを持って男が満面の笑みでこちらに近づいてきた。彼の片方の手で、明らかに死んでいるように見える女の腕を掴み引きずっていた。犯人の服装とは違ったが、俺は、このいかれた男が堂島さんを殺した犯人であると確信した。

 俺は、拳銃をホルスターから抜き、予告も威嚇射撃もせずに男の胸元を撃ち抜いた。銃声が響くと同時に、彼の体は木を切り倒したように地面に倒れた。

 俺は、男が引きずっていた女と倒れていた男に救命措置を施そうとしたが、既に手遅れだった。現場に充満する血の匂いが、絶望感に香りをつけていた。

 何はともあれ、これで堂島さんの敵討ちは終わった。そのはずなのに、まだ俺の怒りの炎は俺の心臓を強く焼きつけていた。

 そうか、俺が1番許せなかったのは堂島さんを守れなかった俺自身だったのだ。俺は自分の人生を終わらせることにした。

 しかし、その前に、堂島さんを馬鹿にしたやつらにも罰を与えなければならない。

 他のパトカーのサイレンの音が近づいてくる。喉がひどく乾いている。

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