第23話 ごめん
「アイカちゃん、シオン様にあやまろっか」
「え、でも、あたし別に」
にっこりとアイカへ微笑むメイ。
「ひっ、......ご、ごめんなさい」
「はい、偉い子」
なでなでとメイがアイカの頭を撫でている。しかし、メイの見えないところで睨んでくるアイカが少し怖い。
一応の結末をみた僕とアイカの手合わせに、ジヴェルが声を上げる。
「さて、今宵の集会はそろそろお開きとしようか。皆、忙しい中集まってくれて感謝する。帰りは気をつけてな」
それを皮切りにぞろぞろと皆が帰り支度を初め、アイカはご両親に頭を引っ叩かれていた。
(うおっ、ちょっと可哀想だな)
「あの、アイカさん」
「......?」
ジト目でこちらを見るアイカ。しょんぼりとしていて僕と戦っていた時の覇気が消え失せている。横にいるメイの圧があるからかもしれないけど。
「また手合わせお願い出来るかな?」
「......は?」
ポカーンとするアイカ。
「さっきはごめん。でも、君が凄いって思ったのは本当で......だからまた出来ないかな」
アイカがじろりとこちらを睨む。
「......あなた、あれだけ敵意を向けられてよくまだそんなこと言えるわね」
「それは、僕が悪いからで......気に障ること言ってごめんね。強さに、男も女も関係ない。それは実際に君と戦った僕がわかるよ。君は強い」
「......!」
アイカの脳裏に蘇る記憶――
『女のくせに戦おうとするな』『おてんばが過ぎるぞ』『女のお前に【雷神】が宿らなければ』『一族の恥だ』『お前など生まれてこなければ――』
これまで、女である事で存在の全てを否定され続けてきたアイカ。しかし、彼女はこの時初めてその力を肯定してくれる存在に出会えた。
「どうかな?別に手合わせじゃなくても良い。一緒に訓練とか......君のその才能はもっと磨くべきだよ」
「.......」
真っ直ぐに、アイカを見るその瞳は嘘偽りのない、本心だとわかるほどに澄んでいた。
「ふん、別に良いわよ。そこまで言うなら来てあげても。ま、メイの事も心配だしね?」
「メイ?なんで?」
アイカがシオンへジト目を向ける。
「あんたみたいな女たらしが側にいたら心配だって言ったのよ」
「え!?」
「ふふんっ」
思わぬ言われように困惑するシオン。メイがまたアイカを嗜めるかと思いきや、彼女はすでに食事の片付けに取り掛かっていてこの場には居なかった。
「じゃ、またね。シオン様」
ひらひらと手を振るアイカ。
「シオンで良いよ。様は要らない」
「そ。ならあたしもアイカで良いわよ、シオン」
「うん、またね。アイカ」
彼女の背を見送ると次にキノがこちらに来た。
「あ、あの......シオン様」
「キノ、様は要らないよ」
「そ、そういう訳にも、いかないよ。シオン様はジヴェル様のご子息だから......」
「んー。でも僕たちってもう友達じゃん?友達に様はつけないでしょ」
「......友達」
シオンは言いながらも自分の言葉に驚く。「友達」という自分には必要ないと思っていた存在。それを求めるように自然と作っている自分に内心苦笑する。
「......わかった。が、がんばってみるよ、シオン」
「うん、ありがとうキノ。......ところで、なにか用事があったんじゃないの?」
シオンの問いかけにおどおどと挙動不審になるキノ。しかし、ギュッと両の拳を握りしめると、意を決したように顔をあげた。
「......ぼ、僕も、シオンと訓練、したいんだけど」
「!」
「さっき、シオンとアイカちゃんの手合わせ凄かった......僕も二人みたいに、強くなりたくて、それで......ダメ、かな?」
話していくうちにみるみる縮こまるキノ。けれど、その気持ちはシオンに伝わっていた。
「ううん。良いよ、一緒にやろう!」
「ほ、ほんと?」
「勿論!キノが居たらもっと楽しいだろうし!」
「......やったあ。ありがとう!」
見送り終えたジヴェルとシオン。
「......あのアイカという娘。手合わせをしてみてどうだった?」
ジヴェルがシオンへ問いかける。
「かなり強かったよ。多分、この間戦ったキヤキとマレドッチよりも......もしかしたら裏庭の危険な魔獣とも戦えるかも。あの魔力操作と格闘センスはそれくらい凄かった」
ジヴェルは「うん」とひとつ頷く。
「......そうだな。まあ、大人も出場するような大きな武闘会で優勝してしまう奴だからな」
「......え、そうなの?」
「ああ。......それに、お前は気がついていなかったが、周囲の人間は驚き固まっていたぞ。まさかお前が彼女と互角以上に渡り合えるだなんて誰も思わなかったのだろうよ」
「そうなんだ......どうりで強いはずだ。っていうか、ジヴェルそれやるまえに言ってよ」
「言ったところでどの道やっただろう」
「まあ、そーだけど」
「しかし、私は鼻が高いぞ。雷撃姫と謳われる彼女を返り討ちにするとは。流石は我が息子だ」
「......どーも」
ジヴェルはシオンの頭を撫でながら続ける。
「それにな」
「ん?」
「私が思うに、彼女にはお前のような存在が必要なのだ」
「どういう意味?」
「彼女は符術士の一族で、代々頭首が決められる。その頭首がどう決まるかといえば、遺伝する能力でだれがその座につくかが決まるのだ」
「......遺伝する能力」
「お前も見ただろう。あの紅い雷を」
「!、あれがそうなの?」
「ああ。彼女の宿すあの紅い雷は【雷神】と呼ばれ、彼女ら一族の最も才がある者に発現する......いわば認められし証だ」
「それがアイカに......」
「しかし、アイカはそれ故に一族から否定される」
「!?、なんで!?」
「あの一族の頭首は男と決まっているのだ。だから、本来であれば男に宿るはずの【雷神】を宿すアイカを、一族の人間は忌まわしく思っている」
「けど、そんなの......生まれ持ったものなのに」
「そうだな。だからこそ、シオン。お前のように柵を気にせず越える奴が必要なんだよ、彼女には」
あれだけ強くても、女というだけで否定される。シオンは世界の歪みを感じていた。
「......力があるだけじゃ駄目なんだね」
「凝り固まった思想や理念はいつの時代も厄介で、面倒なものだ。そしてそれはいつも未来ある子供達の枷になる......まあ、それは子供だけに限ったことではないが。お前はメイとアイカ、キノの拠り所になってやれ」
どこか寂しげなジヴェルの表情に、シオンは自分の知らない彼女の陰を見た。
「うん、わかったよ」
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