第22話 決着
僕の名前はキノ。アグラム家の四男であり、末っ子です。今日は美味しいものを食べに行けるとお父さんの弟夫婦に連れてこられ、ジヴェル様のお屋敷へと来ています。
聞いてません。ジヴェル様のお屋敷に連れてこられるなんて、僕は聞いてませんでした。こんな貴族の集まりなんていつもはお父様とお母様、それとお兄様二人が出席していたのに。
(騙された......これはちょっと悪意を感じる)
ただでさえ人見知りの僕がこの空間で食事なんて出来るはずもなく。なので僕はこの集会が終わるまで隅っこの方で観葉植物の如くじっとしてます。あ、観葉植物に失礼かな、僕が観葉植物と同列の存在なわけないし。ごめんなさい、観葉植物さん。
(はあ、本当なら家で弓の練習していたのに......まあ、騙された僕が悪いんだけど)
僕も弓を沢山練習して、早く強くなりたい。そして、お父様やお兄様二人のようにこの国を護っていけるような、そんな弓士になりたい。
だから、こんなところで時間を使っている暇ないのに。
.......すみません、こんなところとか言って。ジヴェル様のお屋敷でした。土下座します。許してください。
(ってか、あれヴェルゼネ家のアイカちゃんだ......目を合わせないようにしないと。殺されたくないし)
って、ん?何か視線を感じる......こっちを見てるあの同い年くらいの子って、あれだよね、ジヴェル様のご子息。シオン様。なんで僕を見ているんだろう......え、近づいてくる。やめて、こないで!僕は観葉植物だよ!話しかけないで!怖い!やめてえええ!
「君、アグラム家の人だよね?こんなところで何してるの?」
(いやあああああ!!!)
そんなこんなで僕なんかに声をかけてくださいましたシオン様は意外とお優しく、にこにことこんな僕なんかを相手におしゃべりをしてくださいました。
はっ!意外とお優しく!?失礼すぎないか僕!?ど、土下座します許してださい!!
......ていうか、初めてかも。親も親戚も兄弟、友達も、僕とこんな風に話してくれることなんてないからなぁ。まあ、僕が期待に応えられない落ちこぼれだから仕方ないんだけど。
(弓士の家系なのに、才能ないし)
......って、おおおおあ!?アイカちゃんが来るっ!?あ、目的はシオン様か、良かったあ。いや、ホッとしてすみません!土下座します!
そんなこんな思考が慌ただしく巡り、アイカちゃんとシオン様の会話が聞こえないなか、彼女の言った一言だけが引っかかった。
「あたしとひとつ、手合わせ願えませんか?」
え、手合わせ?シオン様をボコすってこと?はは、そんなことするわけないよね。だって、相手はあのジヴェル様のご子息だよ?怪我なんかさせたら大変......いや、そういえばアイカちゃんって前にも別の貴族の息子と同じような事して大怪我させていた気が。
(と、とめないと......シオン様の命がヤバい)
僕が止めたなんてアイカちゃんにしれたら僕がかわりにボコられかねないけど、シオン様はこんな僕にもお優しくしてくれる良い人だ。殺される前に止めないと。
「あの、シオン様......アイカちゃんと戦うのは止めたほうが」
「なんで?」
「手加減を知らないんだ。前にも同じように手合わせした人が失神させられて......しかも大人の人だったんだけど。だから危ないです」
「へえ」
失神てか骨折とかなんかヤバいことになってたはずだけど。怖がらせたらあれなので黙っておくけど。
てか、シオン様なんでそんな笑ってるの?楽しくないよ?ボコられるんだよ?って、ああ、シオン様はアイカちゃんの強さを知らないから......って、今シオン様手合わせやるって言わなかった?
こ、殺されるぞ......!?
そして、中庭で始まった二人の手合わせ。僕はこの勝負、すぐにアイカちゃんの勝ちで終わると思っていた。勝負の結果は決まっていて、あとはシオン様の怪我の度合いが大きいか小さいかの違いだとふんでいた。
(シオン様のお見舞いこなきゃな)
と、そう思っていた......んだけど、信じられない事が起きていた。
シオン様はあのアイカちゃんと互角に......いや、互角以上の戦いを見せていた。
(す、すごい.......シオン様、強かったんだ)
アイカちゃんの魔力フェイントにもかからない。全てを即座に理解して、カウンターを当てている。
(しかもシオン様は魔力をほとんど纏っていない......)
それに、最初アイカちゃんの脚を掴んだとき、シオン様が手段を選ばなければもう勝負はついていた。
ぞわり、と体の芯が震えるのを僕は感じていた。
僕はこの時、シオン様の強さに......魅了されていたのだ。
――ヒュオッ
幾度となく攻撃を仕掛けるアイカ。しかし、シオンはもう既に彼女の動きの癖を見切り、最早アイカに勝ち目は無くなっていた。
「くそっ!なんで当たらないのよ!?」
「それは君の動きに偏りがあるからだよ」
「偏り!?そんなの......」
「君は優秀だ。攻撃が的確で、最後には必ず急所を狙ってくる」
「!」
「どれだけフェイントを混ぜても最終的にくる攻撃がわかれば対処もそう難しいことはない」
「な、けど」
けど、とアイカは思う。これまで大人とも手合わせを重ねわかった事。それは自分の攻撃速度が恐ろしく速い事。
そのスピードについてこられる人間は少なく、仮についてこられたとしてもフェイントを織り交ぜることで簡単に倒せた。
(――あたしの体外に纏う魔力の流れは大人でも目に追えないはず......なのに!こいつには、シオンには見えているの!?)
――ビュオッッ!!
シオンの眼前をアイカの拳が過ぎ、前髪をかすめた。
(ここだ!)
シオンは伸び切ったアイカの腕を掴む。
「!!、あたしに触るなッ!」
するとアイカが掴んだ手を振り払うために魔力を腕に集中した。その時、僕は掴んでいた手をすぐに放す。
そして彼女の体勢が僅かに崩れたのを見計らいシオンは後ろを取る。
――トンとシオンはアイカの膝裏を膝でつき、カクンと崩れ落ちる彼女をまた抱きかかえた。そして再び手刀をアイカの喉元へ突きつける。
「......クソッ」
シオンを睨みつけるアイカ。この時、アイカは「絶対に勝てない」と格の違いを痛感していた。それに対してシオンはアイカの予想以上の腕前に惜しみ無き賞賛の念を抱く。
「君、女の子なのに凄いね」
「!!」
シオンは純粋に褒めたつもりだったが、アイカは「女の子なのに」と言う部分に激昂する。それは彼女が一番触れられたくない場所であった。
シオンを押し退けると同時に顔めがけハイキックを放つ。
「女だからなに!?女で悪かったわね!!」
「え!?ちょ、ごめん!!言い方が悪か......」
その時。アイカの魔力が大きく揺らぎ全身から稲妻が発せられた。
(あ、紅い電撃!?)
「もう手合わせなんてどうでも良い!!本気で行くッ!!」
バチバチと放電するアイカ。その目は鋭くシオンを見据える。
しかし――
その時、ふわりと冷たい風が辺に広がった。瞬間、アイカの足を止めるように氷の花が現れ巻き付き固まる。
「な、これって......!?」
驚くアイカ。そしてその魔法の使用者が彼女へ声をかけた。
「アイカちゃん、何してるの」
「メイ!?え、なんであなたがここに......!?」
――メイには氷結系魔法の才があった。その氷の花は攻撃力を持たず、普段の生活において店の花から鼠や虫などを駆除するために使っていたらしい。
そしてあの事件後、せめて自身の身を護れるようにと同じ系統であるジヴェルがメイに訓練をつけ、こうして人の動きを止められるくらいまでに成長したのだった。
「私はジヴェル様のお屋敷で使用人として働かさせていただいてるの。アイカちゃん、それ以上暴れるなら私、怒るよ」
「ぐっ!!」
睨みをきかせるメイと、青ざめるアイカ。手合わせはこうしてメイの勝利で終わった。
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