第16話 君にとっての
ピクリとも動かないキヤキ。
「......メイ。ごめん、仇をとるなんて言ったけど、殺せはしない」
人の命を奪う事。それだけは僕には出きない。
「わ、私も......シオンくんに人を殺してほしくない」
震える声でそう言ったメイ。僕は赦された気がして胸を撫で下ろした。
「とりあえず、こいつらを拘束しとかなきゃ。しばらく目を覚まさないとは思うけど、万が一起きたら面倒だ」
まあ、ジヴェルとアスタさんが今の戦闘を察知しただろうし、そろそろ来るだろうから万が一があっても問題ないんだけど。
「少し待っててね」
僕はキヤキの襟を引っ張りずりずりと連れて行く。
「な、なんで」
メイが僕を呼び止めた。
「......シオンくん、は、なんで助けに来てくれたの......?」
「!、ああ......そーだった」
彼女の問いかけで僕はここに来た理由を思い出す。それはポケットにしまっていた彼女の髪飾り。
「これ、僕の家に忘れていってたよ」
「......あ」
「大切な髪飾りなんでしょ?すぐに届けた方がいいと思ってさ」
「ありがとう」
ぎゅっ、と両手で包み込むよう握りしめる髪飾り。そして、掠れるような声で、「お父さん」と呟いた。
(......もう少し、僕が来るのが遅ければ危ない所だった。あの時のキヤキの殺気は、本気でメイのお母さんを......)
「お父さんが、メイとお母さんを護ってくれたのかもね」
はっ、とした表情のメイ。再び彼女の目元から涙が溢れ落ちた。
――ズキン
「......ッ!」
メイの泣いている姿。それが誰かに重なると同時に鋭い痛みが頭の中を走った。
『......護れた?本当に?』
また、幻聴が聴こえだす。
声のする方へ視線を向けると、そこには黒い人の影が立っていた。その足元には、馬の首。
『お前は何も護れない......救えない......』
ズキン、ズキンと痛みが激しさを増していく。
『......浜辺、との約束を......家族、母親......』
(......か、家族?くそ、頭が......痛みで割れそうだ......!!)
この黒い幻影、幻聴を視る頻度が多くなってきている。何を訴えているのかはまるでわからないけど、これが出てくるたびに、何かに近づいているような感覚になる。
......浜辺って、誰......だ?
「だ、だいじょうぶ?シオンくん」
頭痛に顔を歪ませていた僕を心配したメイが声をかけてくれる。
(......)
「......だ、大丈夫」
キヤキとマレドッチを縛らなきゃ。何かロープのような物は無いかと、店内を見回す。
すると先程の戦闘で、店内にあるテーブルや椅子、植物の展示されていたショーウィンドウも破壊されめちゃくちゃな状態であることに気がついた。
それは、もはや花屋の営業を続ける事が困難であるように見え、彼女のこれから先を思うと胸が締め付けられる。
(......メイの家は、これからどうなるんだ)
ふと見れば彼女はボニタの頭を抱きしめていた。
「ごめんね、ごめんね......」となんども謝りながら。
家族、なんだよな。
(......)
.......ジヴェルは本当の母親じゃない。それは10歳の誕生日に聞かされた。僕は拾われた子で、実の子ではないと。
聞かされた時はやっぱりショックだった。けれど、それまでに受けたジヴェルからの母としての愛情に嘘はなくて、だからこそ教えてくれた真実なのかもしれないと理解したとき......僕は、ジヴェルとの想いの繋がりを感じた。
家族の繋がりってそいうものなのかも。
(......何故だろう、メイの悲しみが他人事ではなく......胸を打つのは)
――......お願い......ね、相棒。
脳裏を過るこの言葉は、きっと幻聴じゃない。理由はわからないけど、多分......大切な人だった。そんな気がする。
『......救えよ、今度こそ......』
幻影が冷たく言った。それに対し、僕は頷く。
(......わかった)
メイに、同じ思いはさせない。
「......メイ、ごめん。ボニタを」
「え」
「大切な子なんだよね」
頷き涙を流すメイ。
「......ずっと一緒だったの。お父さんがいなくなって......お母さんが倒れて、でも......ボニタが居たから、励ましてくれたから......わ、私」
ぽろぽろと溢れ出す涙。僕はそれを指拭い、彼女の抱えていたボニタの頭を預かる。
「大丈夫」
外へ向かい歩き出す。「......え?」とメイが困惑しているが、構わず僕は壊れた扉をまたいだ。
外へ出ると、ボニタの体があった。草原に飛び散る黒い跡が生きようと足掻いていたであろうボニタの戦いと無念をあらわしている。
「なにをしてるの、シオンくん......」
今の僕は家族の大切さを知っている。
「メイ、お願いがあるんだけど」
「......?」
「もうすぐジヴェルがここに来る。謝っといて......あとアスタさんにも」
「え?」
僕はボニタの頭を胴体に合わせる。魔力残量は少ない......おそらく生命力も削る事になるだろうな。
でも、僕の本能が言っている。
彼女を救えと。
「【
――ズズズッッ!!
風が巻き起こり、集約される。僕の魔力がボニタへと流れ込み、あまりの魔力量で周囲の物を巻き込み始める。
メイが何かを叫んでいたけど、風のせいで聞こえない。
視界が闇に侵食され、月の青さも侵され始めた頃。
空に一筋の流れ星が見えた。
それが直感でジヴェルだと理解したその時
僕の意識は、白い世界へと落ちるように消えた
『......ありがとう』
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