第14話 バトル
大男にのしかかられ、身動きのとれないメイ。目をまんまるに見開き、恐怖に打ち震えている。
「......今、助けるから」
大男はその言葉が癇に障ったのか、「ああ!?ガキ!?てめえ、コラァざけてんなよ!?ぶちころすぞオマエ!!」と大声で威圧してくる。
けど、いくら圧をかけられても僕は平常心だ。なぜなら本当に怖い人はこうして威嚇なんかしない事を知っているから。
そう、ジヴェルのように――。
「へえ、そっか。それじゃあ、やってみなよ」
「ッッ......この!!てめェ、マジでぶちころしてや......――ブごッアッ!!?」
何か言いかけていたが、とりあえずメイが重くて苦しそうだったの大男の顔面を蹴り飛ばす。
「やってみなよ」とか言っておきながら先制攻撃しちゃった......けど、メイが可哀想だったから仕方ないよね?
――ドゴアッ......ガシャアン!!
後方にある店の扉を巻き込み、大男は外へ転がっていった。飛び散る硝子片、真っ二つに折れた扉。
「メイ、怪我は?」
「ぼ、ボニタが......」
涙でぐしゃぐしゃの顔。視線の先には馬の首が転がる。
(......大切な馬だったのか)
「僕が仇をとるよ」
ハッとした表情になり、首を振るメイ。
「大丈夫。とりあえずここは危ないから、お母さんと一緒に物陰に隠れていて」
メイのお母さん。額が割れて出血してる......暴行されたのか、頬も腫れ上がっている。これ、ジヴェルかアスタさんに診せたほうが良いな。
額の出血、頬の腫れ、口も切ってるし意識も無い......危険な状態にあるならまずい。止めとくか。
「【
(これでよし......メイのお母さんの時間を止めた。あとは......)
――その時、壊れたカウンターから先程蹴り飛ばした金髪が飛び出してきた。ナイフを振り、僕の首を狙う。
――ヒュン、ヒュオッ、シュッ!!
(!、狙いが正確、それでいて体を纏う魔力にはムラがない......やるね)
「メイ!お母さんを連れて隠れて!」
チッ、と金髪は舌打ちをし「......ただのガキじゃない......!!」と睨みつけてくる。
男の体から魔力が溢れ出した。その時、外に吹き飛ばした大男が壊れた扉の残りを蹴り飛ばし、店に帰ってくる。
(こいつも......あの一瞬で魔力によるガードを成功させたのか。この二人、ちょっと強いかも)
「キヤキの兄貴ィ!!コイツは俺にやらせてくれえッッ!!久しぶりに頭にきたぜェ!!」
金髪の名前はキヤキっていうのか。
「マレドッチ......殺れるのですか?このガキはどこかおかしい......能力も得体が知れませんよ?」
「わかってるよォ!!ケド、俺がこんなガキに負ける訳ねえぜえ!!」
「......わかりました」
この大男の名前はマレドッチ。
(こいつは頭に血が上ると止められないと見た)
マレドッチは魔力を全身から湯気のように噴出させた。この色......属性魔法を使う。多分、【風】かな。みるからに練度も高め。
「オラアアッ!!!」
僕めがけ突風を巻き起こす。槍のように放たれた風魔法による高速の突き。魔力が練り込まれ途轍もない破壊力になっていた......が、しかし僕には止まって見える。
ドガァァァンン!!!とけたたましい音を立て、壁に大穴があく。商品として陳列されていた花々を巻き込み、花弁が舞い散る。
「なっ、かわしただとッ!?」
「のろま」
訓練でのジヴェルの攻撃速度......その三分の一、いや五分の一以下だな。
「てめえ!誰がのろまだッッ」
風魔法をかわした僕はタンッと床を蹴り一瞬で接近する。それにタイミングをあわせマレドッチは殴りかかってきたが、それもまた最小限の動きでかわす。
「お前だよ」
「な、コイツ......ッ!!」
僕はマレドッチの腕に触れる。(【
ビダッと動けなくなるマレドッチ。顔面にハイキックを打ち込む。魔力の乗った蹴りを食らったマレドッチはぐらつき、既のところでとどまる。
「ぶ、ぶふっ、っでえ......な、なンだ今のは!!?が、がらだがッ!?」
――解除。
「!!、動く!?......でめえ、クソがあああッ!!!」
マレドッチが拳を振り下ろしてきた。魔力を漲らせたそれは破壊力だけであれば、僕がどう防御しようともガードを弾き飛ばし潰せるだけのパワーがある。
(まあ、当たればだけどね)
マレドッチの拳が僕に到達するよりも早く、手を伸ばし彼の胸へ触れる。【
「――!!!、ま、また!?何で止まるんだ!?」
「さあ、何ででしょー?」
僕は固まり困惑するマレドッチの腹部に
――ドゴオオッ!!
「ごッッッはアッっ――ぶふっ、あ!!!」
魔力を集中させた拳を沈めた。
ぐりん、と白目を剥くマレドッチ。多分肋骨が何本かイッたんじゃないかな。
「――解除」
ドォォンッ!とマレドッチは前のめりに倒れ、そのまま動か無くなった。
目を見開き驚くキヤキ。メイはあ然と口をあけ呆けている。
(......近接で使用してないところを見ると、風魔法は飛び道具としてしか使えない縛りなのかな)
ま、とりあえずこの状態ならしばらくは起きない。って事で次......後はキヤキってやつだけだ。
――キヤキは思考する。
(......このガキの能力、おそらくフツーの魔法ではないな)
得体のしれない能力を目の当たりにした彼は、シオンの能力を先ず知ることを重視する。
キヤキは感情的になり怒りに支配され、制御不能のマレドッチを捨て駒とすることで、情報収集を行っていた。
そして、キヤキの出した答えは――
(......今わかっていることは、こいつに触れられたら動きを止められてしまうという事。それにより近接で戦うのはマズい。止められ一方的に攻撃されるリスクを抱える為、極力近づかないほうがいい)
床に伏すマレドッチを眺め、シオンの力の異様さを認識する。
(そして、あのパワー。鍛え上げたマレドッチの肉体をああも容易く......あの魔力を込めた攻撃を喰らえば、私の持てる全ての魔力でガードしたとしても、致命傷を負う可能性は高い)
――マレドッチは百戦錬磨といっても良いほどの戦闘に長けた男だった。大きな体躯からは想像も出来ない俊敏な動き、打たれ強い鋼の肉体、殆どの敵を一撃で粉砕してきた膂力。
現にこの男は凶悪犯罪者とされ国の騎士団に狙われ、戦闘になることも多々あったが、その全てを退けてきた。
そのマレドッチが負けた。それも一方的に。攻撃を一切貰わずに、完膚無きまでに。
「......ふーっ。わかりました......あなたには敵わない。私達は手を引きましょう」
正面から行けば負ける......ならば、油断させて殺す。
(......動きを止める能力を一々解除しているのは、魔力消費が大きいから、か?)
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