第12話 暗部


それから僕は彼女を連れ山を降りた。ジヴェルとアスタさんに事情を話したところ、今回の件は不問にしてくれた。それどころか、ジヴェルもアスタさんも彼女の事を気に入って、今度改めて遊びにくると良いと言ってくれた。


人と接するのが苦手な彼女だったが、夕方あたりには慣れ始めたみたいで会話がスムーズにできるようになっていた。


「夕食はいかがいたしますか」とアスタさんが聞くと、彼女は「......有り難いお話ですが、そこまで迷惑はかけられません。すみません」と玄関へ向かった。多分、帰って仕事をするんだろう。


(まじでホントに同い年か?ってくらいしっかりしてるなぁ)


帰り際。


「......あ、あの」


そういってチラチラと彼女は僕を見る。


「ん?」


何か顔についてるのかな?そう思って頭や頬を触る僕だったが、そうでは無かった。


「名前、教えて貰えませんか」


「え、あー!名前!」


そういやお互い自己紹介もしてなかった。


「僕はシオン、12歳」


「シオンくん......私はメイって言います。私も12。同い年だね」


「あ、やっぱり同い年だったんだ!メイ、いい名前だね!」


「!、ありがとう。シオンくんも素敵な名前......」


お?敬語が外れかけてる?それに表情にも強張りが無くて、年相応に愛らしい。若干頬が赤い気がするけど......熱でもあるのか?帰り大丈夫かな?


「それじゃあ......シオンくん、今日は助けてくれてありがとう」


「ううん、遊べて楽しかったよ。また遊ぼーね!」


「......うんっ」


花がほころぶと笑顔とはこの事か。今までみたどんな花よりも美しい、そう思わされるメイの笑みだった。


彼女は手を振り、帰路へつく。屋敷の扉が閉まり、アスタさんが彼女の家へと連絡をしに通信魔石の置いてある所へ行った。


そしてジヴェルはというと、勝手に彼女を裏山で連れ回したことを咎められるかと思いきや、「良くやった。偉いぞ」と褒めてくれた。


「......勝手なことしたのに?」


不思議に思い、問いかける僕。


「彼女はシオンの友達だろう。友達を助けるのは良いことだよ。それに友達と遊ぶ事も......これからも好きに遊ぶといい」


ポンポンと僕の頭を撫でるジヴェル。相変わらず母さんの表情は読みづらいけど、声色と雰囲気でそれが本当の気持ちだということがわかった。


(......けど、どうしてだろう)


気のせいかもしれないけど、ジヴェルの瞳はどこか遠くを映しているようにも見えた。もしかすると昔のことを思い出しているのかもしれない。


(なんだか寂しそうだ......)


リビングを横切り自室へ戻ろうとしたとき、テーブルの上に花の髪飾りがあることに気がついた。


「あ、メイの髪飾り」


しっかりしてるけど、意外とおっちょこちょいなところもあるんだな。


さっき外して見せた時か。確かお父さんがくれた形見のような物だって言ってた。宝物だとも。


(......今度、いつ配達に来るって行ってたっけ)


大切に預かっておこう。


僕は髪飾りを手に持ち、部屋に戻った。次にメイと遊ぶ事を想像して。






◇◆◇◆◇◆





......最近は学校にも行けてない。通学路を眺めながら私は思った。


家の借金が膨れ上がり、お母さんが無理をして倒れてしまってから行ってない。


「家のことは気にしないで、メイは勉強に励みなさい」って言ってくれたのを、私が鵜呑みにしてしまったから。


だから、私のせいだ。


だってそうだ。私がもっとお母さんの事を気にしていれば倒れる事も無かったのに。


だから、今度は私が頑張らないと行けない。


もうすぐ......あと二日後には取り立ての人が来る予定だ。軌道に乗ってきた馬車での配達で、その時の返済は間に合うず。


ジヴェル様がいつも沢山買ってくださっているのが大きい。シオンくんのお家にはすごく助けられてる。


(......シオンくん)


帰り道、日が落ちかけ青い月が薄っすらと空に浮かぶ。その月がとても綺麗で、今日の事が思い浮かぶ。


こんなに楽しかったのは久々だった。


あの聖桜コズメリアの群生は......あの美しい幻想的な光景は、瞼を閉じれば今も鮮明に思い浮かぶほどの素敵な景色だった。


(また、二人でみたいな)


気づけば自然と頬が緩み、笑っている。そういえば、最近笑って無かった。


家へ辿り着くと、明かりがついていないことに気がつく。シオンくんが私を連れて下山してくれてから、すぐにジヴェル様の通信魔石でお母さんに連絡させてもらった。だからお母さんは家で待っているはずだけど。


疲れて寝てしまったのかな。お母さん病気の体なのに、私、また無理させて.....ごめんなさい。


「......お母さん、ただいまぁ」


ギィ、と扉を開ける。


月明かりが微かに映し出す店内。そこで出迎えたのは――


「あ、やっと帰ってきましたかぁ、メイちゃん。お帰りなさい。遅いから心配しましたよ」


「......え」



――お母さんの頭を踏みつけ、椅子に座る借金取りだった。






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