第11話 聖桜
いくつかの大岩と山を越え、目的地である大池に辿り着く。この場所はここら辺で一番標高が高く、気温が低い。
「ごめん、ついたから目を開けて大丈夫だよ」
「......っ」
ぶるぶると震えている少女はゆっくりと瞼を開けた。するとまたしても彼女が「きゃあーっ!」と叫んだ。先程の恐怖からくる絶叫とは違い、今のは歓喜の叫び声だ。
「すごい!!
ぴょんぴょんと跳び跳ねる少女。大池を囲むようにして自生している大量の
やっぱり。この子、花が大好きなんだな。大方この裏山に入ってしまったのもそれ関係なんだろう。
「
「そうなんですかっ!?わあああ〜!!」
目がキラッキラしてる。これだけ喜んでくれたら魔力を消費して連れてきたかいがあったというものだ。
先程までおどおどとした態度とは正反対に、鼻歌を歌う彼女に僕は問いかける。
「花、好きなんだね」
「はい!とっても大好きです!特にこうした山岳地帯に咲く花は力強くて好きですねっ」
彼女はにんまりとこちらに笑顔を見せる。どうやらあまりの嬉しさに僕への恐怖心が消失したらしいな。すげーな花。
けど、ちょっと強引だったけど、案内した場所の景色にこうして喜んでくれるのはすげー嬉しい。
「......あのさ、君はどうしてこの山に入ったの?」
立ち入り禁止なのに、という蛇足は切って僕は気になっていた事を聞く。
すると、彼女はちらっとこちらを一瞥して答えた。
「......どうしても、欲しい花の種があって」
「欲しい、花の種?」
「はい。
「あー、それなら前に見かけたことあるな。紫の花のやつだろ?バカでかい葉っぱの」
「そうです!......ど、どこで見たんですか!?」
僕は頬を少し掻きながら言いづらい事を言った。
「......あの、君が流されかけた泉あたりかな。今はもう大きな川と化しているけど」
「そうですよね。私もあそこにならあると思って......探してたんです」
「ちょっとタイミングが悪かったね」
「......ですね」
しゅんとしている彼女が居た堪れなく、僕は言葉をかけた。
「ちなみにどうして
「えっと......それは、ですね。あの大きな葉っぱが魅力的なんです」
「魅力的?たくさん水を蓄えるってところが?」
「!、すごい。よく知ってますね......」
「まあ、手当たり次第に本をたくさん読んでるからね。それでどう魅力的なの?」
「はい。あの蓄えた水って、ふつーの水ではないんですよ」
「え、そうなの」
「吸水された水は、
「そうなの!?すげえ、知らなかった......」
「以前、お父さんに連れて行って貰った大図書館で読んだ植物図鑑にあって......そこに詳細が書かれていました」
「大図書館!いいなあ〜!行ってみたいなー!!」
やべえ、本が大好きな僕の今一番行ってみたい場所!涎たれちゃう!
「ふふっ」
お、笑った。やっぱり笑顔が似合うな、この子。
「あ、ごめん。それで、その
「......えっと、それは......家で栽培しようかと」
僕は驚いた。
「もしかして売り物にしようとしてる.......?」
「はい」
「でも、これ、栽培するとなるとかなり難しいとおもうけど......」
「難しくても、やります.......!」
ギュッとスカートの裾を握りしめる少女。
「訳ありな感じ?」
僕がきくと彼女はこくりと頷く。
「はい。その......花が、売れなくて」
その一言で理解した。ここ数年、闇のエルフであるデクアルヴが戦闘の準備らしき動きを見せているらしい。そのせいか、交戦準備に多額の費用が必要となり、国民から金品の徴収が多く、貧困状態となっているらしい。
「このままだと、家は廃業してしまいます。だから、戦いに役立つ吸水仙アルパズアなら売れるかと思って......」
同い年なのにしっかりしているな。国を俯瞰で見て的確な手を考えている。おそらく栽培できるといったのは本当なんだろうな。この子は頭が良い。
「でも花に拘らなければ手段は他にもあるんじゃない?」
「......ないかも」
思い詰めた横顔。
「......お父さん数年前の紛争で死んじゃったし。お母さんは最近体調が良くない......だから私一人でできる事をしないと」
できる事......それが花や薬草の栽培か。
「けど命あっての人生だよ。こんな無茶して死んじゃったら......元も子も」
ここの山岳地帯には危険な魔獣も生息している。だからジヴェルは町民が立ち入れないよう禁止区域にしているんだ。けど、それはこの子も承知なわけで......。
「はい。でも、やらなきゃお母さん助けれないし。それに、私......」
――初めて彼女は僕の目を真っ直ぐに見た。
「花が好きなんです」
どくん、と心臓が鳴る。
......なんだ、これ。頭が痛い。
『ああ、懐かしいな。この子は彼女と同じだ......』
幻聴が......!
「――だ、大丈夫ですか!」
僕の顔色が悪く見えたのか、彼女が慌ててよってくる。
「......大丈夫」
「すみません、私が......変な話をしたから」
「いや、そんなことない」
――彼女の後ろに、亡霊の様な男が立っていた。
『......俺は、また救えないのか......』
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