魔女 空を飛ぶ

蒼機 純

魔女、大空へ!

「ノノさん。では準備お願いします」

「は、はい!」

 急いで先生の側に行こうとしていた私を友達のミーちゃんが呼ぶ。

「ノノ。箒忘れてるっ」

「あ、ああ。ありがとう」

「ガンバ。絶対にあんたなら出来るから」

 箒を手渡されて、私は頷いた。ありがとう、ミーちゃん。

 両手で箒を抱え、先生の前に立つ。

「ノノ・バーミリオン。じゅ、準備できましたっ」

「・・・・・・よろしい。今度は箒としっかりと意思疎通できているようですね」

 ギロリ、と先生が私と箒を確認する。そのとき、試験を見学していた数人の魔女がクスクス笑う声が聞こえ、顔が熱くなる。

 私がこの魔女技能試験を受けるのはこれで三回目。今回合格できなければ魔女になる資格を失ってしまう。

「これで最後の試験です。魔女とは地上に縛られない存在。空に愛され、魔法と共に生きる者。空を飛べない魔女は魔女に非ず。今回失敗したら分かっていますね?」

「は、はい」

「では箒に跨がってーーーー魔女技能試験、開始!」

 先生の声で私は箒に跨がる。するとブルル、と箒が暴れるのを感じる。

「お、お願い。暴れないでっ」

 お願い、と願っても箒は私の意思とは反対に激しい抵抗の意思を示す。

 この箒の元々、私の箒ではなかった。手違いで私の箒ははぐれドラゴンに焼かれてしまったのだ。

 困り果てた私は箒屋で売れ残っていたこの箒と出会う。箒屋の店主さん曰く、この箒は人を選ぶと言われた。

 どちらにしても箒での飛行を成功させたことのない私にとって、大差ないと思ったし、試験まで時間がなかったのだ。

「っ! つっ!?」

 箒に振り落とされそうになり、私は悲鳴を上げる。両足で地面を踏みしめ、何とか転ぶのだけは回避する。

 聞こえる失笑の声に私は両目をぎゅっと瞑る。下唇を噛み、体が震えてしまう。

 このまま魔女になれなかったら私はーーーー。

「ノノ! 上!」

「え?」

 ミーちゃんの声に私は空を見た。

 そこには大きな、巨大な鯨が飛んでいた。優雅に雲海を泳ぐ鯨に感嘆の声が上がる。

 両目を見開き、私は気持ちよさそうに泳ぐ鯨を見続けた。

 ーーーーその景色を見たらどんな気持ちなのだろう?

 ふと、私は思ってしまう。私は何のために魔女になりたいと願ったのか。

 魔法を扱うため? 有名になるため?

 違う。

 最初は幼き頃に見たあの遠く、遙か遠くの世界に見たいと思ったからだ。

 自らの目で、体で、飛んでみたいと思ったからだ。

「あ、あれ?」

 浮遊感を感じ、私の体が揺れる。あれほど固く踏みしめていた両足が地面を離れていたのだ。あれほど抵抗していた箒の震えがなくなっていたのだ。

「と、飛んでる。私、飛べてる・・・・・・そうか。君も同じだったんだね」

 箒の柄を撫でると、応えるように更に高度が上がる。

 ミーちゃんが泣きながら両手を振るのが見える。私は力強く頷いて、更に高度を上げる。

「見よう。私も見たいんだ」

 高く。

 もっと高く。

 空に手が届くまで、高く!

 箒の柄に捕まり、加速していく。

 雲海をくぐり抜け、視界が白に染まる。ひんやりした空気をいっぱい吸い込み。

 視界が開けた。

「うわぁ・・・・・・綺麗」

 朝と夜が溶け込んだような空には無数の流れ星が落ちては、昇る。そして、頭上には金色に輝く満月があった。

 空を飛ぶ鯨が嬉しそうに鳴き、私は旋回しながら空に手を伸ばす。

「うん。もっともっと見ていこうね」

 箒の柄を撫で、私は空を駆ける。


 1人の空を愛する魔女が生まれたのだ。

 



 

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魔女 空を飛ぶ 蒼機 純 @nazonohito1215

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