第2話

全てを包み込む月光の代わりに闇に包まれた森の奥。


フクロウでさえ何も見えない程暗い森の奥から、一人の人間が出てきた。

マントとフードで完全に覆われているが、その隙間から見える張りのある肌やフードから覗く意志の固そうな瞳から、利発な少年であろうことがうかがい知れる。


少年はひとつ小さく息を吐く。その音すらもよく聞こえるほど辺りは静まり返っていた。

瞬間、少年はその丈夫そうな足で夜の中へ駆け出した。約束の場所を目指して。



風すらも追い越す速度で野原を横切り、小川を飛び越え、少年は小高い丘に登った。深呼吸を二度程すれば乱れた呼吸も整う。


まだ、待ち望む相手は来ていないようだった。少年はふんわりと照らす月によって生まれた己の影を見つめ、静かにたたずんでいた。




***



かさり、と小さな音を聞き、少年は顔を上げた。そこには己と同じようにマントに身を包んだ少年より大分小柄な人物が立っていた。少年は顔をほころばせその人物に駆け寄る。その人物がまだ少し荒く呼吸をしているのが聞こえた。


そっと手を伸ばし、フードを取ってしまおうとする前にその人物が少年に抱き着いた。その勢いでフードは外れ、金の髪が現れる。今夜の月明かりを受け、よく輝いているそれは大層美しく、少年の目を奪った。


ゆっくりと少女の肩と頭に触れると、少女はより強く少年に縋った。


「やっと、会えました……」

静寂の広がる丘で、鈴の音のような声が一つ。

「ああ、やっとだ」

それに答える凛とした芯の通った声が一つ。


「お顔を見せてほしい、と言ったらお困りになるでしょうね?」


少女にはフードの影と逆光のために少年の顔が見えていないのだ。その影に潜む少年の素顔を見たいという健気な願いなのだ。そっとこちらを窺うように呟かれたそれに少年は、少女に気取られない程度、ほんの僅かに迷いを見せたがすぐに微笑み、「かまわないよ」と答えた。


少女は顔を上げ、少し背伸びをし、少年を覆い隠すフードを取り払った。現れる灰色の髪に、少女の髪と同じ金の瞳。少女はその目を見つめ、幸せそうに微笑んだ。少年も、少女のワイン色の瞳をまっすぐに見つめ返した。

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