第10話 初戦闘

「えーと、こっちだね!」

「気を付けて行こうか」


 ルビーが主に痕跡を辿り、大宮は周囲を警戒しながらさらに森の奥へと歩みを進める。


 木々が鬱蒼としており、まだ昼間だというのにこの辺りには殆ど光が届かず、見えない事もないが非常に薄暗くなっている。

 所々に藪もあり、どこかに潜んでいてもおかしくはないだろう。


「ジン、気を付けて」

「ん、どうした?」

「囲まれてるよ」


 耳を澄ませてみると、微かにではあるが草を踏みしめるような音が聞こえる。

 大宮は銃を構え、ルビーと背中を合わせる。


「一斉に仕掛けられても困るし、こっちから仕掛けるよ」

「分かった、タイミングは任せる」

「それじゃ……燃えろ!」


 ルビーはバレーボールほどの火の玉を手に作り出し、それを投げつけるようにして放った。

 近くの藪に火の玉は命中し、藪を焼き払う。


「来やがった!」


 大宮へと飛びかかろうとするウルフは4匹。大宮は反射的に狙いをつけ、引き金を引く。

 銃声とともにスライドが動き、金色の薬莢が宙へと舞う。


「うおっ!?」

「ジン!?」


 3頭のウルフは銃弾によって撃ち落されたが、1頭のウルフの勢いは殺しきれずに大宮の体へと直撃する。


「このっ! 貫け!」


 ルビーの両手から炎の渦が現れ、ルビーへと飛び掛かったウルフを挟み込むようにして焼き貫く。


「ジン!」

「大丈夫だ……ってて」


 ジンはウルフの体を押しのけて立ち上がる。

 勢いこそ殺せていなかったが、ウルフは絶命していたようでぐったりとしてそのまま動く気配はなかった。


「そろそろ目標達成してるんじゃないか?」

「多分ね、まぁ向こうが分かってくれるまでやるしかないよ」


 笹島達の倒した数も含めればもう目標である10頭の討伐は達成している。

 しかし、ウルフの数は減っているようには感じず、倒すたびに増援が来ているような印象を受ける。


「なら分からせて――」

「待って、こっちからやり合う必要はないよ」


 唸るウルフに銃撃をしようとした大宮をルビーが制する。

 ウルフは唸ってはいるが、こちらに飛び掛かるようなことはせず、威嚇をしているだけのようだ。


「ま、そろそろ頃合いだろうね。ルビー、君に任せるよ」

「オーケー。任された」


 いつの間にかルビーの隣までルイスが近付いており、何やら小さな巾着袋のようなものをルビーへと手渡した。

 ルビーはそれを握り締め、それをウルフ達の方へと向かって投げた。


「なんだよ、あれ」

「んー、ナワバリを主張する為の粉。ってところかな」


 巾着袋からは僅かに煙が出ており、ウルフ達はその匂いを嗅ぐと森の奥の方へと駆け出して行った。


「そんなのがあるなら最初から使えばいいんじゃないか?」

「なんの見せしめも無しに主張をしてもムダさ。力を見せて言うことを聞かせる。野蛮だけれども動物との揉め事にはこうするのが結局一番なのさ」


 ルイスはやれやれと言った様子だ。


「とりあえず仕事もこれで完了。課題も大体見えた事だし戻るとしようか」

「あの……ルイスさんは何ができるんですか……?」

「おっと、僕だけ何も見せていなかったね」


 ルイスは杖を構え、近くの木へとそれを向けた。


「穿て」


 ルイスの杖の先端が青白く光を放ち、魔力の塊が発射される。

 それは木へと命中すると弾け、貫通はしなかったが大きく幹を抉っていた。


「本気でやれば本当に穿つことも出来るけれども、無駄に消費はしたくなくてね。まぁ大体の事は出来ると思ってくれたまえ」

「あわわ……凄いです!」

「これでも僕も僕なりに訓練をしているからね。アイも強くなれるさ!」


 ルイスは前髪をたくし上げてキメ顔をする。

 渡辺は苦笑いするしかないようだった。


「とりあえず大宮と渡辺さんは鍛えんとやな。ウチはなーんか召喚の特典なんかその辺不自由しとらんけど」

「俺も多分多少は強くなってると思うんだけどな」

「うぅ……」

「まぁ渡辺さんはその必要が無いようにすんのがええんやけどな、でも万が一ん時考えると必要やろ? 特に大宮はその辺ちゃんとしとかんと死ぬかもしれんで?」

「が、頑張ります……」

「前線コースって思っていいだろうしな……」


 ある程度近接戦もこなせるようになっておかなければ、簡単に死んでしまうかもしれない。

 少なくとも笹島の目に冗談めいたものは感じなかった。


「私も頑張るよ。ジン達をもとの世界に帰すためにも……ね」


 後ろからルビーが大宮の手を握る。


 もしもこれが前の世界であれば浮かれるような状況ではあるが、今の大宮にはそういった感情は湧いてこなかった。

 ウルフの死骸を処理した大宮達は、街へと戻った。

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