第11話 筋トレ

 晴天が広がる平原で、大宮、渡辺、ポニー、ルビーは街道を走っている。

 ポニーは鎧を身に着けておらず、ウルフとの戦闘で見せたような重厚な動きではなく、軽々とした走りを見せていた。


「はぁ……はぁ……ポニーさん……少し……休憩」

「そうですね、一回休むですよ」


 渡辺は崩れ落ちるように街道のすぐそばの草むらへと仰向けに倒れる。

 やはりと言うべきか、召喚のおかげで大宮も渡辺も前の世界にいた時に比べれば、全体的な身体能力は強化されているように感じる。


「大体今2キロってところです。装備無しなら10キロは走れるようになりたいところです」

「大幅に……自己ベストは更新……してるん……ですけど……」

「俺もだな、持久走は苦手な方だったし」

「ジンはこのペースなら最低50キロは走れてほしいところですよ」

「案外ペース速かったように感じるんだけどなあ」

「アイ達の世界じゃどうかはわからないですけど、こっちだと私たちみたいな戦士系はそれくらいやれて普通なのですよ」


 全力疾走とまではいかないが、長距離を走るにはかなりペースが速いように大宮は感じていた。

 渡辺は息が上がり限界といった様子だが、大宮はまだ息は乱れていない。

 ルビーとポニーは全く疲労を見せておらず、まだまだ余裕そうだ。


「全身の魔力を感じながら走るですよ」

「つってもなぁ……」

「多分だけど、ジン達は魔力を感じないんじゃないかな?」

「レイナは感じてそうですが、召喚者も色々と違うということですかね」


 魔力だとか気だとかの流れというのは、少なくとも大宮は感じていない。

 大宮が渡辺へと視線を投げると、どうやら彼女も感じないのか首をふるふると横に振った。


「ジンとアイ、そしてレイナとジンの間にも大きな差がありそうです」

「やっぱり別々で特訓する?」

「でも物理的な近接戦闘は私くらいしか心得が無いですよ」


 ポニーは少し顎に手を当てて考え込み、少しすると何かを思いついたようだ。


「ジンがアイを背負って走ればいいですよ。アイは休めるですし、ジンにはいい負荷をかけられるですよ」

「わ、私を背負うん……ですか?」

「普通の走り込みはジンには優しすぎる気もしますですから」

「えぇと……大丈夫なのか?」

「ジンなら何もしないですよね? まぁ何かするつもりなら私がぶっ飛ばすですけど」

「そんな事するつもりはないけどさ」


 重い甲冑を着込み、重厚な斧を振り回すポニーの筋力で殴られれば無事ではいられないだろう。


「そうと決まれば背負うですよ、アイもいいです?」

「えと……はい」


 ポニーは軽々と渡辺を抱き上げ、まるで小動物でも渡すかのように大宮の背中へと押し付ける。


「お、重くない……かな?」

「ん、思ってたよりずっと……いやなんでもない」


 大宮が想像していたよりも渡辺は軽かった。

 しかし、それを口に出せばもっと重そうだっただ。と言っているようなものだと思った大宮は言葉を呑み込んだ。


「や、やっぱり重いよね……」

「違う違う! 逆だ逆!」

「そ、そう?」

「いくら女子とは言っても、健康ならそれなりには重いって聞くしさ」

「ジン、もうちょっとこう、男の子なら気遣いとかさ」

「そうです。アイがかわいそうです」

「こっちの世界はそういうのあんまし無さそうだと思ってたのに!?」


 ポニーとルビーが軽蔑するような目で大宮を見る。

 あくまで召喚者と召喚士として、命を預け合う間柄だからこそ一緒の部屋で生活をしているだけであり、そういった部分に疎いというわけではないようだ。


「ま、とにかく走るですよ。短期間で体を作った上で動き方も覚えないとですから」


 ポニーは軽くストレッチをして、駆け出す。


「そうだ大宮君。今日……晩御飯私が作るね」

「お、ついにか」

「あんまり期待しないでほしい……けど、できるだけ向こうの味に近くするように頑張る……から」


 背中の渡辺が大宮に体重を預け、走りながら他愛のない話をする。

 大宮はあまり走るのが好きではなかったが、それは自分に体力がそれほどなかったからなのだろうと感じる。

 走りながら会話が出来るだけの余裕があるのであれば、こうして走るのも悪くはないと思える。


「期待してるよ、渡辺さん」


 時々渡辺にも自分で走ってもらいつつ、トレーニングを続ける。

 こうして何事もなくランニングを終える――そうなればよかったのだが。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「わ……私も……もう……む……」

「まぁ、無理だろうなあとは思ってたですよ」


 流石に召喚者として強化されていても、最初から50キロを完走するという事は叶わず、大宮も渡辺も完全に息が上がっていた。

 その後、少しの休憩の後に、さらなる筋トレに悲鳴をあげた2人だった。

 

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