第9話 小さな騎士
「さあかかってくるですよ!」
狼を見つけたポニーが群れの前へと堂々と歩み出て両手を広げる。
大宮達の配置は先ほど同じだが、渡辺の位置はポニーのすぐ後ろだ。
「さ、さっきの事もあって……気が立ってるんじゃ……」
「大丈夫ですよ。私が守るです!」
狼の数は12頭。先ほどの群れの仲間なのか、前回よりも数は増え、渡辺の言う通り明確な敵意を狼達は放っている。
「きゃぁ!」
渡辺が悲鳴を上げて思わずその場に屈みこんでしまう。
「渡辺さん!」
反射的に大宮は銃を構えようとするが、今撃ってもろくに狙いをつけられず、最悪彼女に誤射してしまうかもしれない。
「大丈夫さ。そんなヤワじゃない」
ルイスがそう言うと同時に、ポニーは手にしていた重厚な斧を勢いよく振り回した。
「そんな単調な攻撃は薙ぎ払ってやるですよ!」
小さな体、さらには片手で振ったにも関わらず、飛びかかった5頭の狼は一振りで薙ぎ払われた。
「まぁ、全部は仕留められないですよねえ」
そのうち2頭は刃が食い込み絶命したようだが、残りの3頭はすぐに起き上がり、姿勢を低くして唸り声をあげていた。
「ま、まだ狼さん達……諦めてくれないんですか……!」
「任せるですよ、アイの事は私が守るですから。ウルフ程度から守れないわけがないですよ」
ポニー達は完全に包囲され、渡辺は泣きそうになりながら周囲の狼達を見ている。
「ルイス、流石にこれはもう……」
「そうだね、助けに――」
「まだ大丈夫ですよ。召喚士になったドワーフをなめるんじゃないです」
大宮達が動こうとした瞬間、ポニーによって制止される。
「ひゃあ!」
「アイ、しっかりくっつくですよ!」
一斉に狼達が2人へと飛びかかり、言われたからなのか恐怖なのからかは分からないが、渡辺は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「吹っ飛ぶですよ!」
ポニーの足元に魔法陣が浮かび、ポニーが斧の柄を地面に叩きつけると同時にその魔法陣は砕け散った。
その瞬間、大きな破裂音と共に、大宮達の元にまで届くような衝撃がポニーを中心に炸裂した。
「うおっ!?」
「ドワーフでこれほどの威力を生み出すとはね……!」
直撃した狼達は、空中にいた為に踏ん張る事も出来ずに吹っ飛んでいた。
そのうちの何頭かは運悪く木へと衝突し、何度か痙攣した後に動かなくなった。
「ざっとこんなもんですよ!」
「す、凄いです……ポニーさん……」
流石にこれ以上彼女たちを相手にするのは分が悪いと感じたのか、生き残った狼達は再び森の奥へと逃げって行った。
「こんなに強い逸材がいるなら召喚なんかしなくてもいいんじゃないのか?」
「それがそうでもないんだよね」
ポニーの強さに疑問を抱いた大宮の問いに、ルビーが答える。
「確かにポニーちゃんは強いんだけど、それでも戦場に出れば戦況をひっくり返すような強さってわけじゃないんだよね。それでいてこのくらいの強さが、今の私達の国の最高戦力。他の国にはもっと強い人って少ないとは言え10人くらいはいるのが普通なんだよね」
「その通り、まともにやり合えば勝てないから召喚に頼る。それが僕達の国のやり方なのさ、恥ずかしいけれどもね」
両手を天へと向け、やれやれとため息をつきながら首を振るルイスは、どうやら異世界召喚にはあまり良い印象を持っていないようだ。
「さて、最後はジンとルビーのペアだ。期待しているよ」
「そういやルビー、お前って戦えるのか?」
「一応はね、でもあんまり前に出てって感じじゃないかな」
ルビーは手のひらに小さな火の玉を作り出して見せた。
「ま、とりあえずやれるだけやってみるか」
大宮とルビーは狼が逃げて行った方へと、歩み始めた。
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