第8話 ウルフ

 大宮が宿へと来てから3日後、笹島と渡辺と共に戦闘訓練を受ける事にした。


「結構似合ってるねえ」

「そうか?」


 ルビーが大宮の姿を見てニコニコと笑みを浮かべる。

 全員制服ではなく、この世界の衣服を身に着けているおかげで、見た目だけはそれなりに世界に溶け込めているように思える。


「さて、戦いの基礎は僕が教えよう。魔法も格闘戦も任せておきたまえ」

「魔法はともかく、格闘そんなにとちゃう?」

「あ、あくまで基礎だからね。君ほどの格闘家には教える事は無いさ!」


 自信満々に切り出したルイスだたが、笹島のツッコミを受けると冷や汗をかいていた。


「そういえば笹島の能力って何なんだ?」

「ウチ? ウチは身体強化らしいで、シンプルすぎるやろ?」

「でもシンプルなのは強いってよく言うぞ?」


 彼女は両手に籠手を装備している。

 堂々としている事もあってか、非常に頼れる前衛といった印象が非常に強い。


「大宮は武器とかいらんのか?」

「あぁ、自前で出せるからな」

「うわ、銃刀法違反やで!」

「この世界にそんなものは無いぞ? 多分」


 拳銃を握ると、笹島は大宮を茶化した。

 渡辺はと言えば、大宮が銃を出した事に少し怯えているようだった。


「渡辺さん。戦いになれば怖い思いをすると思うけど、頑張ろうな」

「は、はい……」

「カッコええ事言うやんか。大宮に任せれば全部やってくれそうやなあ」

「笹島はむしろ俺を守って欲しいんだけどな、いかにも前衛って感じだし」

「私達も援護するからさ! 頑張ろう!」

「頑張るですよ!」


 ルビーとポニーが右手を空高く挙げる。

 ルイスはと言えば、身長ほどの木で出来たいかにもな魔法の杖をつきながら黙々と歩いている。

 一番この中で異彩を放っているのはポニーだろう。

 重厚な金属鎧を身に着け、左手には大盾、そして右手には彼女の身長と同じほどはある斧を手にしている。


「さて、ここが目的地さ」


 街から歩いて数時間ほどは経っただろうか、道は森の中へと続いており、先頭を歩いていたルイスは道に背を向けるようにして森の方を見ていた。


「この先が、か」

「えぇ、ウルフの生息地です。目標は10頭、目標数を倒した後は出来るだけ見逃せる個体は見逃してくださいね?」

「まー、それは相手次第やろな!」

「やれやれ、レイナさんは血気盛んですね。まぁ最初のお手本はお任せするとしましょうか」

「任しとき!」


 笹島は両手をガンッと鳴らし、道を外れて森の中へと入っていく。


「ルイス、笹島にはもう色々教えてあるのか?」

「あぁ。彼女は呑み込みが早くてね、召喚についてもすんなりと受け入れてくれたのさ」

「悩んでもしゃーないしな、言うてウチも怖かったんは事実やけどな! あったで、ウルフの足跡や」

「んー……よく見つけるなこういうの」


 笹島が指をさした先には、犬の肉球のような足跡があった。

 しかしそれは言われないと気付けないほど薄く、言われてみればなんとなく道のように草がそこだけ少ないような、とても気付くのは難しいようなものだ。


「ウチのお父さんが猟師やっとってな、そん時に教えてもろた事もあんねん」

「猟師って、網を投げたりする方じゃなくてか?」

「こっちの方」


 そう言うと笹島は銃を構えるようなしぐさをする。


「今時珍しいなそれ、頼もしいよ」

「まぁウチは銃なんて触らせてももらえへんけどな! めっちゃ厳しいみたいやで」

「そのぉ……足跡を追いかけるだけで見つかるんですか?」

「大丈夫さ、彼らはそこまで感覚が敏感ってわけでもないからね」

「ウチらのおった世界の動物と似とるけど、あっちに比べると警戒心が薄い感じはすんで」


 笹島は少し先の方へと指をさす。

 そこには10頭はいるだろうか、それなりに規模の大きい狼の群れが何かに群がっているのが見えた。


「流石に多いねぇ、僕も手伝おうか?」

「いや、ここはウチに任せてもらおか」

「危険と判断したら勝手に手伝うからね?」

「おう」


 笹島は攻撃的な笑みを浮かべながら狼の群れへと歩み寄る。

 大宮達は、巻き込まれないように笹島から距離を取り、ルイスが丁度その中間に位置取りをする。

 獲物を横取りされると思ったのだろうか、1頭の狼が笹島へと唸ると、それに対応するかのように他の狼も唸りながら笹島を囲うようにジリジリと移動する。


「いくで!」


 笹島は一頭に狙いを定め、一気に間合いを詰めた。

 狼は笹島から距離を取ろうと後ろへと飛び退こうとするが、笹島の踏み込みはそれよりも速かった。


「甘いで!」


 笹島の拳が狼に叩き込まれるとほぼ同時に、笹島の側面にいた2頭の狼が笹島へと向かって飛びかかった。

 笹島は殴った勢いをそのままに、姿勢を低くしながら体を一回転させて回し蹴りを放つ。


 2頭はまとめて笹島の蹴りによって薙ぎ払われ、勢いよく吹っ飛んでいた。


「お前……凄いな」

「まー、結構喧嘩とかしとったしな。こっちに来てからめっちゃ体動くで負ける気せえへんわ!」

「す、凄いです……」


 あっという間に3頭の仲間をやられた狼たちは、森の奥の方へと逃げて行った。

 笹島が手を付けた3頭は全て即死しているようで、ルイスが証拠となる部位を採取した。


「次はアイのペアか、ジンのペアか。どっちからでもいいから、とりあえずやってみてくれないかい?」

「ペアでいいのか?」

「あぁ、基本的にはペアで戦う事になるだろうからね」

「それじゃ、私達からやってみるですよ」

「えぇっ……!?」


 名乗りを上げたのはポニーだ。渡辺は予想外だったようで、普段は出さないような大きな声が出てしまっている。


「私がどれだけ頼れるか、ちゃんと見せておかないとですから。アイはしっかり私の傍にいるですよ?」

「あぅう……お願い……します」


 今度はポニーを先頭に、さらに森の奥へと歩みを進めた。

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