第49話「次へ」

「……と、まぁ、それで松島さんがクビになって、俺が臨時で課長をやってる。そんで人手が足りなくて、お前が呼ばれたと」


 浦郷は心底残念そうに話を締めくくった。


「それはまた……災難でしたね」


 初瀬も思わず苦笑いしながら返す。


 大社と竜冥会のゴタゴタについてはちらりと聞いていた。しかしそこに警察関係者……零課の者が関り、挙句の果てに謀反を起こそうという算段をしていたのは初耳だ。松島が初瀬を誘い、戦力拡充を狙っていたのは、身内の敵に対しての抑止力が欲しかったのだろう。結局のところその計画は災害級の出現によって延期、かつ暴露されお釈迦となった。モズこと初瀬幸嗣がどうして竜脈を奪い取れたのか。それもまたここへ収束するという。


 結界破壊のこともあり、松島は辞職という形で責任を取ったのだという。かの人もなかなかに上に振り回されているようだ、と初瀬は感じた。


「ま、仕方ないな。何がいいのかは分からなくなってきたが……それでもモズが警備を突破できた理由が分かってすっきりした。結局内通者がいたってだけの話だからな」


「そうですね。事件も解決できそうでよかったです。ところで……何故、わたしがまた?」


「あぁ、そうだな」


 浦郷が気を取り直すように小さく咳払いした。


「初瀬を呼んだのは他でもない少し人手が必要になったからだ。今回の件は少し立て込んでいてな。どうしてもそれなりの経験が必要だ。昨年の活躍を見込んだ俺がお前を推薦した。年度末だからな。とにかく人手が足りん。手伝ってくれるか」


「分かりました。一時的な手伝いであればわたしがやります」


「そう言ってくれると助かる。三笠、説明は頼んだ。俺は他の助っ人交渉に行く」


 浦郷はそれだけ言い残して席を立つ。気が付けば後ろ、ドアの方に銀髪の青年が立っている。


「あぁ、あんたか」


「そうだけど……」


 その橙の瞳は「何か不満?」と言いたげだ。


「んじゃ、よろしく」


 その視線を遮るように初瀬は右手を差し出す。


「……あ、うん。よろしく」


 ぎょっとしながらも三笠はその手を握り返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

羊と竜骨 猫セミ @tamako34

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ