第44話「真相と独白」

 三笠たちが出て少し経った頃の大社。その入口で初瀬はようやく腰を落ち着かせることができた。悲鳴を上げている身体をいたわるように優しくさする。雪はすでに止んでいた。


「調子はどうだ?」


「……浦郷さん。お疲れ様です」


 初瀬はしゃがみこんだまま顔を上げた。声をかけてきた浦郷もどこかくたびれた顔をしている。疲労は一様に、確実に皆を蝕んでいるらしい。仕方のないことだ。結局浦郷も市内警備から外れてこちらへ来なければいけなくなったらしい。


(本当なら休みの人もいただろうしな)


 年末年始、数少ない祝日が連なる時期だったのだ。異様な光景の街は、それを微塵も感じさせない。少しの参拝客はいるものの、交通規制等の影響かいつもの年末のような賑わいは一つも感じ取れない。例年であれば夜明けとともに初詣に行こうと大勢の人が押し寄せるのだが。


 ──寂しい寂しい、参道入り口だ。


「さすがに疲れたな。あとは見守るだけというのも、また疲れるものだな」


 初瀬の隣に腰掛けながら浦郷はそう愚痴を吐いた。


「それもそうですね。何もできないというのは……やっぱり疲れます」


「難しいもんだ」


 ため息が一つ空に溶ける。


「そうだ。お前の兄から手紙を預かっている」


 少し黙り込んだのちに浦郷は懐から封筒を取り出した。味気ない茶封筒だ。差し出されたそれを初瀬は受け取る。封筒口には糊すらされていない。


「悪いが中身は確認させてもらった。なにか仕掛けがあっても困るからな」


「あ、それは別に……」


 そんなに大したことも書いていないのだろう。コピー用紙に鉛筆でびっしりと書かれた、素朴な文面に目を通す。


「──ッ」


 初瀬は勢いよく立ち上がる。そのまま暗い、街灯のない参道へと駆けこんでいく。浦郷は我関せずといった様子で、空を見上げた。



 ※※※



 古い記憶だ。


 それが数少ない、妹との記憶でもある。とにかく母は渚から魔術師を遠ざけた。それは実兄である僕も例外ではない。彼女の前で妹と話すことは、まず、許されなかった。それでも交流が無かったわけではない。家は狭かったし、部屋は隣だった。ある時から妹が無断で僕の部屋に入り込むことが増えた。なにをしているのだろうと思って調べてみれば、僕の部屋に魔道具を隠しているようだった。どこから持って来たのだろう。立派な竜食いだった。


 なんの実害もなく扱えているのは明らかだった。


 やっぱり妬ましい。それと同時に、手の届かない存在であることは理解していた。母もそれが分かっていたから、妹を魔術師にしたくなかったのだろう。そうすれば確実に、母の望んでいた普通の幸せは手に入らないだろうから。


 妹は何を思ったのか、母にそれを持っていることを悟られないために僕の部屋に隠しに来ていたのだ。変な話だ。隠す場所ならいくらでも……と、思っていたが、そうでもないか。彼女の部屋は無い。家が狭いから、母と相部屋だ。隠す場所なんて最初からない。仲のいい友達ももういないのだろうか。



 悪くない、そう思えた。

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