第40話「現状」
「状況を整理しよう」
鷦鷯は裏紙に書き込んだ情報を眺めながらそう言った。
側にいた東、春河は頷く。主力となるであろうメンバーが一人もいないという状況だが、少しでもできることをと思い自ら集まった者たちだった。
「モズ、もとい初瀬幸嗣は確保した。これは確実。竜脈の制御も取り戻せるはずが──」
「実はモズだけではなく、大型のスペクターが竜脈の制御権を握っていた、と」
東がため息をつきながら付け足す。
「恐らく何かしら利用するつもりだったんだろうな。わざわざ離反してまで乗っ取り続けたわけだし。それが制御下を外れて勝手に泳ぎ回っていると。竜脈とのパスが残っていれば押さえ込めたんだろうか……その場合だとモズ自身の対処法が無いからな。どのみちこうなったと言えるか。狙い通りって可能性もあるな」
「竜脈を安全に乗っ取った上で、そちらの制御を上手くするためにたくさんの魔力が必要だったというわけね。確かにそれなら、たくさんの魔道具が必要だった理由も分かるわ」
彼女の言葉に鷦鷯は頷いて返す。
三笠はおそらく、魔道具起動の後にクッションとして使うつもりだったのだろう。生身で竜脈に接続するなんて、正気の沙汰ではない。向こうの方が流量が多いのだ。人の身体は大量の魔力に耐えられない。
「……それよりオレはこれからどうしたらいいか知りたい、です」
考察を重ねる二人に、春河は神妙にポツリと呟いた。
東と鷦鷯は顔を見合わせ、話を切り替える。
「そうだな。これは後でいくらでもできる。……対処はできるだろうな。恐らくは不完全なものだ。完全であれば、もうこの辺りに上陸しているだろうし。問題は──時間制限の有無だな」
「時間制限……明るくなる朝まで待ってちゃダメなんですか」
「そうね。難しいと思う」
東が口を開く。
「大型のスペクターは存在すること自体に魔力を使うから。要するに時間が経つほどアレが暴れる確率が上がっていくってことなんだけど、分かる?」
「なんとなく……? 被害を最小限にするには、早めに叩く必要があるってことですか」
「そうだ。だがこれには問題がいくつかある。まず、相手の全容が不明なこと。それから霧と取り巻きが邪魔。出現したのがアレ単体ならよかったんだけどな。とにかく正体が不明で、弱点も分からない。有効打があればいいんだが……今のところまるで分からん」
そう言いながら鷦鷯は顔を伏せた。
結局のところ、巨大であること以外に何も判明してはいない。こちらが取り巻きの存在に気が付いたのはその正体を探るために出た偵察隊が連続で遭遇したためである。既に三つ目の偵察隊が出ているが、夜間であることと濃霧が発生していることを踏まえるとその結果に期待はできない。
「じゃあ……叩きに行くとしても、いくつか策を用意して臨機応変に対応しなければならない。しかも時間制限があるってこと、ですか?」
「そうなるな。これから用意をしたとして、夜明けがデッドラインになるだろう。さて、どうするか……相手が何をしてくるのか分からないのも困る」
そう言いながら鷦鷯は腕時計を見やる。
時刻は二十時半──夜明けを七時とすれば、あと十一時間だ。
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