第37話「劣勢」
少し遠くで三笠がよろけるのを見た富士は、無意識のうちに幸嗣へ肉薄していた。守らなければ、その一心で腕を振るう。残り少ない魔力を使って薄刃を形作って斬りかかる。
富士にとってはもはや、彼の生存は問うべきところではなかった。強化された動体視力が彼の口の端がつり上がるのを捉える。
光り輝く白刀はすぐに暗闇に飲まれた。
反射的に距離を取る。
(あぁ──手を違えたな)
後悔時すでに遅し。容赦なく命を刈り取ろうと、黒が手を伸ばす。
「いつの間に!」
その手を止めたのは一発の銃弾だった。撃ったのはもちろん初瀬だ。彼女は冷や汗を流しながら立ち上がり、拳銃を構えていた。
思わぬ刺客に幸嗣は唇を噛む。その僅かな時間の間に、三笠がふらりと立ち上がった。チャンスだ。二人の脳裏にそんな言葉が駆け抜ける。幸嗣はとどめをさすべくそちらへ目をやる。
「こっちを忘れてくれるなよ! 縛符『天下一遍、林立縁起』!」
時間稼ぎと言わんばかりに富士が仮初の術式を展開する。淡い光を纏った赤い糸が青年の身体を捕まえに行く。
「三笠!」
鋭い声と共に、三笠へ反撃の一手となるものが差し出された。いつの間に、立ち上がっていたのだろう彼女はその手に拳銃を持っていた。それを受け取る。
「信じてるから」
小さく聞こえたその言葉を背景に、無我夢中で三笠はそれを構える。
不思議と痛みは感じなくなっていた。気の昂ぶりのせいだろうか。補助用の魔術式を展開していく。駄目になったのはいわゆる砲身に当たる部分だ。照準補助や火力増強に使われる術式は生きている。炉心が、心臓が大きく高鳴った。
引き金を引く。
通常のソレとは違う、光速に近い速さで放たれた弾丸は、うち一発は風を裂いて幸嗣のその隣を行き過ぎた。弾丸が纏っていた魔力はその距離と威力をぐっと伸ばす。衝撃波にも似た激しい気流が軌道に沿って発生する。対抗するようにして撃ち出されたもう一発は大きな蛇をその弾丸は真正面から射抜く。勢いを維持したまま、最後の弾丸は幸嗣の肩を撃ち抜いた。
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