第31話「作戦開始」

 目の覚めるような寒さの中、二人は駆け出した。


「とりあえず進めばいいんだよね!?」


 三笠の後ろから初瀬が声を張り上げながら問いかけた。


「そう! 上にな!」


 三笠率いる突入部隊は斥候部隊からの情報を得て即座に仮拠点を発った。


 普段であれば遭遇したスペクターは倒してから先に進むが、今回はとにかく時間が惜しい。消耗も気になるため深追いはせず、先に進むことを優先し放置して行かなければならない。魔界と化した神域を三笠たちはできるだけ早く、と潜り抜けていく。


「! この辺りから先は……」


 事前に聞いていた目印を見つけた三笠は緩やかに速度を落として立ち止まる。宙に漂う風船のようなそれは、斥候部隊が設置した魔道具だった。


「何もないように見えるんだけどな」


 初瀬もその先を見つめながらぽそりと呟く。


(目印から先には、不可視のスペクターがいる……と。慎重に通れと言われても、本当に見えないな)


 春日雨などの広範囲を一気に攻撃できる魔術で一掃するか、とも考えた三笠だったが木立が邪魔で大した効果は得られそうもない。そもそもこんなところで限りある魔道具や魔力を消費するわけにはいかない。数も分からない以上、ここは素直に迂回するか慎重にこの中をすり抜けていくしかないだろう。


「えーと、じゃあここから別れて行くんだっけ」


 斥候の富士たちによるとモズは一定時間ごとに山中を移動しているらしい。竜骨の確認はできたものの、術者である彼を叩かなければその解放は不可能だ。さらにこの山には複数の魔術師が潜伏している。それを炙り出す意味でも創作の手を広げなければならなかった。


(だから向こうが設置した罠を利用して追い込む……か)


 先に突入した斥候部隊と三笠たちのいる突入部隊で挟み撃ちをする形になる。三笠たちもここで待機する者、二手に分かれて進んでいく者というように部隊を分割することになっている。


「……それじゃ。わたしも行くか」


 初瀬は手早く準備を済ませてあらかじめ組んでおいたメンバーとともに迂回路へ向かう。三笠もその背が見えなくなる前に、眼前の地雷原へと足を伸ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る