幼少期の幻

東京都内のギリギリで周辺には畑しかないような所に背の高い色黒の父と平均女性サイズの身長の色白の母により生を受けた。黒と白の遺伝子を持つためブチの子が生まれると猫みたいな事をネタのように言われ続けたらしいが生まれた私は色白でそれはそれは可愛かった。(らしい)



ベビーカーを押す母は通りすがる人が立ち止まって幼き私を見るので外出が大変だったという。盛ってるかどうかは知らないがそんな逸話を聞いた。

そんな私もすくすく育ち2歳の時。指圧師だった祖母は顧客である某有名劇団の偉い人よりお孫さんを当劇団へ…と強めのスカウトを受けたらしい。

いかんせん幼い。当時夢中だった日朝の番組だけはリアルタイムでどうしても見たいと両親と祖母と劇団のお偉いさんを困らせた為入団はしなかった。

生まれて数年で人生を誤った。

楽な方へしか向けないのは幼い頃から変わっていないようだ。


以上が伝聞で聞いた話。

何せ小さい頃過ぎて記憶がないもので…。


人生最初の記憶というのは誰にでもあると思う。

楽しかった記憶とか何気ない景色とか。そこから人生の記憶が飛び飛びでも繋がっていくものだと思う。


私の場合は幼稚園に入る前に父に連れていかれたから始まった。

おかしい…。あんなにも愛らしく産まれたらしいのに何故に人生最初の記憶がコレなんだ。しかしこれも意味のある事だと気づくにはまだもう少しかかる。


更に育ち家の近所にある保育園ではなく私立のミッション系の幼稚園へ通い

そこでマリー(仮)と仲良くなる。

マリーは近所の子で同じバスで通っていたため自然と仲良くなった。

一言で真面目。でもふざける所はキチンとふざけられる幼馴染だった。

当時水が怖くて顔を洗う事もお風呂も大嫌いな私をスイミングスクールへ通わせようとする母にマリーちゃんと一緒だよと言われ泣く泣く通い始めるくらいに常に一緒だった。

母はカナヅチだったので娘だけでも水の事故にもしあったら助かってほしいと泳ぎの技術を学んでほしかったようだが私にとってはマリーちゃんと一緒にスイミングスクールへ通い、帰りに17アイスを食べて一緒に帰るという至福に満たされていた。

その至福の中ではプールなんて些末な事。

元より手足は長いので気づけば泳げるようになり自動的に水も怖くなくなった。

そう。同年代のグループの中で私は人より手足が長かった。

父の遺伝子が爆発し成長期とはいえ身長がぐんぐん伸びて何かの集合写真を撮る時は上級生にしか見えなくなった。

幼稚園の時の集合写真には背の低いシスターと同じくらいになり恥ずかしいやら周りの子との差異がありありと分かり締め付けられるようなもの悲しさがあった。

背の高さも体格も顔の作りも全て子供には見えない。

かわいいかわいいと持ち上げられた数年後にこうなるとは誰も予想はしていなかった。


私は子供でいたかった。子供料金でバスに乗ると運転手さんに毎回止められる事も

お子様ランチを頼んで店員さんに咎められる事も母が毎回説明するのも全てが悲しかった。

成長ばかりは誰も悪くない。けれど当時は納得が出来ず癇癪を起していた。

そして次第に色々と諦めた。


かわいい子供服が着れない事も映画館で真ん中の席で見る事もマリーちゃんと駄菓子屋に行ってお姉さんと呼ばれる事も。

可愛いものが苦手になりピンクからブルーへ、苺から切り干し大根へ、スカートからパンツへと好みが変容した。子供から大人ではなくなぜ女子部分まで嫌になった謎は今でもわからない。


サンタさんからのプレゼントに母が作ってくれた動物たちのぬいぐるみもすごく嬉しいのに周りに誰もいなくなってから遊ぶという一人遊びをずっとしていた。

家の中での人形遊びすら恥ずかしく捻くれた性格の始まりだったと今は思う。


そんな思いを抱えながらもうすぐ小学生。

おばあちゃんとおじいちゃんに買ってもらった赤いランドセル。

マリーちゃんは黒いランドセル。

私は公立の小学校。マリーちゃんは電車に乗って私立の小学校。


ずっと一緒だと思ってたので泣いた。ひたすら泣いた。

学校は別々でもスイミングスクールは辞めないのでそこでは会えるけどメインは競技水泳のため一緒に帰るくらいにしか話すタイミングがなくなり

小学校五年生の時にマリーちゃんが引っ越しを機に辞めた時に一緒に辞めた。

母の願い通りに泳ぎの応用編まで体得したので当初の目的は達成できた。

しかし今まで母と船に乗った事はない。

そして泳げない人を助けるにはルイヴィトンのバックが一番良いという知識だけは残っているが常にあるものではないので永遠に役に立たない知識として残っている。


幼いながらひねくれた性格のまま私は小学生になる。

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四十雀の箱庭 さわこし @sawacocco

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