第2話 究極回避

「たの……むっ!!」

「うがあああああああああああっ!!」

「……。当たった。こんなに……。簡単に……。あはは。あははははははははははははっ!!勝てる、勝てるっ!」


 この好機を逃すまいと放った俺の双剣は1撃目で深く傷を付け、2撃目でボスの腕を1本切り落とした。


 元々の俺の攻撃力、それにボスのHPが膨大だということもあって倒し切ることはできなかったが、そのゲージは既に半分。


 俺が、雑魚モンスターからドロップする小さい小さい魔力結晶を集めてなんとか生活できるだけの日銭を稼いでいたこの俺が、5階層のボスを……しかもほぼ1人で……。


「うがあああああああああああああっ!!」


「まずい! 第2形態か!? 全員で援護! ラストキルは譲らないつもりで溜めていた魔力を解放――」

「駄目ですよ。手を出すのは。だってこれはもう共闘とは言えませんから。それに……あの人の実力を見るにはいい機会ですもの」

「あなたは……」

「不甲斐なく『こっち』のダンジョンでいきり散らかすようになったのね、あなた。まぁでも『あっち』の攻略が進んでいないからそんなあなたでも連れ戻すメリットはあるかもね」

「そ、それは……」

「とにもかくにも、まずはあの人よ。報告用に撮影しておかなきゃ。あー、退屈な仕事かと思ったらなかなか楽しめそうね」


 戦ってる俺の後でごちゃごちゃごちゃごちゃ楽しそうに会話ですか?


 よく聞こえないけど、余裕があるなら手伝えっての。


 というかあの女の人、誰?

 なんで攻略班のリーダーあんなに汗かいてるの?


「まぁいいや、あいつらに手伝う気がないっていうなら、また俺1人で頑張るってだけ。おい、その辺は攻撃飛んでくるかもしれないからできるだけ離れてろよ。ただ、勝てなかったらそんなことした意味なんてなくなるだろうけど……。あれ、強いよな……。どう見ても」


 一緒に前衛として戦った探索者たちに注意を呼び掛けると、俺はまたボスに向き合った。


 黒茶色の毛は逆立ち、赤色に染まっている。


 目も信じられないほど充血していて真っ赤。

 ばっきばきになりすぎて飛び出しそうなんだが。


「わ、ぼぉおおぉ……」


 しかも筋肉を膨張させ始めた。


 さっきまでは痛いっちゃ痛かったけど致命傷になることはなかった。


 だけどあれはもう無理だ。

 丸太どころの太さじゃな――


「わぼおっ!」

「来たっ!」


 恐ろしく静かな準備から一転、ボスのジェノサイドコボキングはその脚で地面を抉り、砂と土と小石による派手な礫攻撃兼目眩ましを仕掛けてきた。


 それを回避するために俺は、というか究極回避というスキルは信じられないくらい高く飛び上がった。


 だがそれは想定済みなのだろう。


 ボスはそんな俺と同じタイミングで飛び上がりながら背後をとってきた。


 そうして空中で俺に仕掛けようとする技はおそらく膝と肘での挟み込み。


 既に俺の目の前にはその膝、見上げれば肘が見える。


 普通こっちの攻撃、例えば前蹴りを脚を挟んで受けたりする受け技だと思うが、俺の回避力を鑑みて確実に当て、かつできるだけ威力が高いこの技を選んだのだろう。


 技名は確か『交差方』だったかな?


 とにかくこいつ、見た目以上に頭が切れてやがる。


「だけどこれも究極回避で……避けられるよな?」


 次第に迫って来る膝と肘。

 焦燥感が沸き上がって来るとついに俺の身体が動き始めた。


 双剣の重みを利用しつつ、くるくると高速回転。

 あっという間に打点からずれてみせた。


 そして今度はダメージを受けないように、横から立てに身体を転がして受け身をとろうとするのだが、この回転を利用して、俺は若干身体のいうことがきくこの間に双剣を持つ手をグッと伸ばした。


 すると……。


「ぐがああああああああああ!!」


 今度は腕と右脚を切断。



 ――ドスン。



 痛みのせいもあってうまく着地できなかったのか、ボスは俺とは違い尻から落ちると、地面に這ってのたうち回る。


「これで……たったこれだけでおしまいか。でも、こんなに呆気なくて感じても、しっかり殺させて貰う。特大の魔力結晶。俺の今月の家賃と飯代……さっさと寄越しやがれ!」


 強くなった自分をまだまだ試したい気持ちを圧し殺して、あっという間に俺はボスをたった1人で倒すことに成功してしまった。


 これが覚醒ってやつか。

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