第3話 土下座

――ゴトッ。


 地面に落ちた特大の魔力結晶。


 普通のコボルトの場合、1つ100円程度。

 俺の見立てだとだいたい……3桁万円届くかどうかってところかな?


 強さに対して報酬はショボく映るけど、ボスを倒したことでより潤沢な資源のある層に進むことができる。


 現在その動力源を魔力結晶に切り替えよう、さらには海外から注目を浴びて国交取引の話が出ていたが、これでその動きも本格的になる、と思う。


 そんな社会経済的話はよしとして、それよりも今はこの魔力結晶が貰えるかどうかが問題だ。


 これまるごと貰えるなら家賃の支払いどころか――


『レベルが25に上がりました。6階層ご解放されました。コボルトキラーの称号を得ました。HPの上昇分が攻撃力に変換されました。スキル【怒気変換】を取得しました。ステータスを表示します』


名前:荷軽井一重(にかるいかずしげ)

レベル:25

HP:10

攻撃力:380

防御力:155

スキル:【究極回避】、【怒気変換】、【火事場の馬鹿力】

スキルレベル:1

称号:コボルトキラー(コボルト種へのダメージ増幅)


 報酬の分配を心配しているとホログラムのように空中でステータスが表示された。


 さっきまで23レベルだったのがもう25……。


 やっぱりボスは経験値も多いか。

 ラストキルどころかほぼ全部俺だけで倒した影響もあるだろうけど。


 とにかく、これだけの攻撃力ならいつも1、2階層でしている雑魚狩りなんて止めて3階層……なんなら6階層で魔力結晶を――


「あいつなんで最初から今みたいに戦わなかったの?」

「もったいぶって自分強いですよアピールじゃない? 他とは違います、みたいな」

「ちっ。そこそこダメージ与えてからちゃんと死ねよ」

「作戦と違う。これじゃあレベルも上がんないじゃん」


 ……ひどい言われようだな。


 折角ボスを倒したっていうのに、しらけるったらありゃしない。


「大した実力ね。一体全体あなたみたいな探索者がどこに隠れていたのかしら?」

「別に隠れていたつもりは――」

「強すぎる……。なぁ、聞こえてくる通りここはお前みたいな探索者がいていい場所じゃない。攻略班なんて名前ばかりで本当は攻略よりも自分を認めてほしいとか、とにかく承認欲求を満たしたい、それかあわよくば金や経験値を掠めとりたい。そういったことで頭がいっぱいな集団なんだ。かくいう俺もその1人で……なぁ頼む。俺は『あっち』に行きたくない。だからお前が代わりに、俺の分もあっちで戦ってくれないか?」


 饒舌に語り出したな、この人。


 でも代わるだの代わらないだの……俺は別にこの人のためになりたいわけじゃないんだよな。


 それに……。


「『あっち』ってなんのことかも分からないから――」

「頼む! この通りだ! それに……攻略班から外れた、というか外されたって方がそっちにとっても都合がいいんじゃないか?」


 唐突に土下座をしたリーダーがそっと視線を逸らす。


 その先には俺の陰口を呟き、ゴミでも見るような視線を送る探索者たちが……。


 今回の報酬はきっと俺の総取り。

 今後も似たような状況になったら困るといったところだろう。


 まったく。国のため、人類のための攻略班の本質がこれだったなんて……できれば知りたくなかった。


 クズだよ、こいつらは。


「分かった。あんたら攻略班から外れて、外されてやるよ。それでもって魔力結晶もボス討伐の報酬もくれてやる。どうだ?これで満足か?」

「あ、ありがと――」

「ただし、俺はもうお前らとは関わらないし擁護もしない勿論助けることもしない。何かあっても文句だけは言うな。いいか?」

「……分かった。約束する」

「と、いうわけです。そっちのお姉さん、俺を『あっち』? に案内してくれるんですよね?」

「うんうん! これから上に報告したら直ぐに連れていってあげるわ。よろしくね、これから私に『限っては』仲間だから。あ、自己紹介が必要よね。私は花咲朱里(はなさきあけり)。Sランク第12位の探索者よ」

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