第1話 【閲覧注意!】リアル5等分の男をご覧ください……。

「さて、どれにするものかな」



大量のライブラリを物色しながら、俺は今日の記事に使うブツを選定する。


俺は三島宏樹(仮名)。ダンジョンで起こった事件・事故をありのままに伝えるサイトを運営している。


ダンジョンではネタに困らない。魅力的なコンテンツが氾濫するこのインターネットにおいて、ダンジョンの刺激的かつ非常識的な記事は飛ぶように見られるからだ。


陸で溺死した人だったり……30cmしかない段差を降りたら何故か……強く好奇心を惹かれる激ヤバな事件事故が日常茶飯事なのだ。



お陰様で、色々あってマトモに就職できないような人間だった俺が、少なくとも日々暮らすには困らない程度には稼がせてもらっている。


世間では俺みたいな人間ははぐれ物だのアウトローだのクズだの叫ぶ人間がいるが、正直、そう言う奴らに言いたいことがある。


お前らは正しい。


当たり前だ、死体だの事故現場だの撮ってアップするような人間が道徳的に正しいわけがない。惨劇をポップ且つ下世話に、コンテンツとしてパッケージングしてるような輩だ。どんなことを言われても「いやもう、おっしゃる通りですわ」としか言えない。


でもまあ、それはそれとして俺はこの腐れ稼業を止めるつもりはサラサラない。

結局「需要」があるんだから稼げてるわけだし。


自宅に卵とか石とか投げたり、馬糞を送りつけたり、玄関開けたら不審者が5人ぐらいいたりしたがまあ……態々こんな辺鄙なトコまで来て、ご苦労な事だ。名が売れたと受け取ろう。


わざわざ見にきてコメント欄で文句言ってるやつも、

「見てるお前も同罪じゃ!」としか言いようがない。


遺族の感情も弁えろと言うなら、最初から見なければ良いのに。


それに俺はその感情をやってる訳だしな。


まあ、そんな貴方が頑張ってコメント書いても、結局ただの1pv。

書いてる時間僕はいけしゃあしゃあとグロ記事をアップデートして、今日の昼食にありつけるわけで、むしろ感謝したいぐらい。



「よし、これでアップ完了かな。」



そして今この瞬間もそう。今日の記事は尿路結石サイズのマイクロ・ドラコに焼かれた探索系配信者の最期の配信、無修正完全版。

さらにその動画に、ダンジョン内警の公式情報や、一緒に配信していた仲間の配信も合わせたエクステンデッド・バージョンである。


“アップロード完了”の文字を確認し、俺の労働は終わりを告げる。

時刻は昼の12時ジャスト。半日しか働いていないように見えるが、

編集や現場調査、および情報収集とネタの裏付け等も含めると、

深夜から働き始めるので結構拘束時間は長め。

意外にラクじゃない。つーかきつい。


サイトの規模的にも、そろそろアシスタントを雇う必要があるな。

できれば道徳「1」のやつが欲しい。



「ふう……ちょっと寝たらまたネタ集めするかぁ」


———


「画像を見るにこの辺りか。本当なのかね」


数時間寝て、俺は新ネタ探しに通称「サキシマ・ダンジョン」へ到着した。

カタカナで少し読みにくいが、これは元々初期に出現したため、国連の組織が接収していたためである。


さて。


このダンジョンは最古参のものの一つで、魔族もスライムとかちゃちい連中しかいない。

外装もおどろおどろしい訳でもなく、繰り返し整備されたため、もはや公民館にしか見えない。


そんなビギナー向けの評判に全く似つかわしくない、とある目撃情報が今回の調査目的だ。


“中層から底層に、時折手足と胴体が綺麗に寸断された死体が出てくる”


あのサキシマで? そろそろ政府が青少年ダンジョン基礎教育用に改装しようとまでしてる、あの雑魚ダンジョンに? 

そんな疑問と好奇心を胸に、俺は深くダンジョンを潜った。



————


「う〜〜ん、いないな!」


探し始めて30分、ちょうどダンジョンの中層あたり。血の匂いも、腐った死骸の匂いも無い。


入り口と違ってそこまで整備されいない通路はカビ臭く、視界の隅でスライムが蠢いていた。


——


探し始めて2時間。ウダウダ歩いていたが全く見つからない。歩いても歩いてもスライム、スライム、スライム……。


……やっぱりガセだろうか? ひとり諦めムードの中、惰性でとりあえず歩いていたその瞬間、転機は訪れた。


それはスライムすらない、鉱物もない、旨味のない空白地帯に差し掛かった頃だった。


「……!! まさか!」

血と肉の匂いだ! 少しだが死臭も感じ取れる……!


匂いの濃さから察するに何処か切られて大量出血してるぞ!


「やっぱり本当か……!」


匂いの元をたどり、注意しながら、しかし素早く早歩きで移動する。期待だけじゃなく、やはり不安も大きい。人が意味不明な殺され方をしているからだ。


「そろそろ……あった。」


枝道を曲がって進んだ先でついに遺体を見つける。

情報通り手足を切断され、

5等分されたその遺体の断面は

まるで機械にでも斬らせたかと思うほど均等で、歪みもなく直角。

不審なのはそれ以上何もせず放置されていたことだ。


「酷い匂いだ。まさかこの状態で、そのまま……?」


それじゃまるでだろ。

俺の知る限り、そんな魔族は知らない。


普通は原型がわからなくなるまで食べるか、ミイラになるまで「魔力」を吸収するはず。何もせずトロフィーのように放置するなんて聞いたことが無い。


そもそも大前提としてこのダンジョンにそんなヤバい魔族が自然発生するのも無理がある。


あまり信じたくないが‥‥考えられる可能性は一つ。


写真を撮りながら嫌な想像をしていると、後方から何かを鉄のような物を擦るような音と、が聞こえた。


「あぁ……的中しちゃったよ、嫌な予感が」


振り向いてそれをみた僕は、諦めのため息をつく。


このヤバい遺体をこさえたのは魔族じゃない……。



「斬らせろ……斬らせろ……ぐ、ギギッ」




スキルを持った異常な人間だ。

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