第6話 森の中で

 ルフトの首都は東部にある。反対側の西部は進めば進むほど田舎になってゆき、森が多くなっていく。


(何だ何だ!!)


不規則に立ち並ぶ森の木々。その枝から枝へ、蝶のように飛び移っていく影があった。


(あの男は何なんだ!?)


 アナスタシアだ。

 両腕いっぱいに矢の束を抱え、深い色の葉を散らしながら森の奥へと進んでいく。


––––〝君は僕の命ではなく、〝矢〟が欲しいのかい?〟


「何故分かったんだ……!?」


 あまりに驚きすぎて、アナスタシアはまるで逃げるように去ってきた。

 エリスの言葉は当たっていた。アナスタシアはこれらの矢を求め、伯爵家の軍を襲った。自分を見た人間は、必ず弓矢で攻撃してくると知っていたから。



––––〝初めまして〟


––––〝また会おう〟


––––〝次は花を贈るよ〟



 蘇る言葉の数々。無意識に、体に力がこもった。矢の束がミシミシと音を立てる。


「ふざけたことを……伯爵家の人間のくせに……っ! もしも〝次〟があったならお前の口を潰して、二度と喋られないようにしてやる!」


 赤い瞳に憎悪を宿らせ、アナスタシアは叫んだ。


 不意に、一本の矢がするりと抜け落ちそうになった。アナスタシアはハッとして足を止めて、それを掴む。


「……ふぅ、よかった」


 安心するとともに、冷静さを取り戻した。クリアになった脳裏に映るのは、たった1つの宝物。

 

「待っていて。もうすぐこれを持って帰るから」



––––〝寒い森の朝、大切な家族のために、暖炉にくべる薪を必死に集めている少女のようだよ〟



「……っ!」


 あの男が言った別の言葉を思い出してしまったが、アナスタシアは無視をして、さらに奥へと向かっていった。

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