第83話 第3王子のお菓子作り

「「で…できた!!!」」


オーブンの前には、瞳をうるうるとさせ

嬉しそうに喜ぶ第3王子アルバート様と、

ゲッソリ疲れ果てたわたしの2人が立っている。


―――遡ること3時間前。


王城に無事についたわたしと護衛たちは、

招待状にあったとおり城の従者に案内され

食堂までやってきた。


そこで驚いたことはふたつ。

ひとつは、食堂の広さと豪華さ。

そしてもうひとつは…


そこに陛下と王妃と宰相がいたことだ。


『えーっ…なにこれなにこれ聞いてないよ。なんで食堂にいるの?』


予想外の出来事に思わず口が開いたが、

ひとまず顔を伏せ深々とカーテシーをした。


その時、呼び出した本人である殿下に助けを求めたかったが…

その本人を含めた4人共が、キラキラとこちらに微笑みかけていたのだ。


「ニコル嬢、楽にしなさい。

やっとこうして会えたか!それにしても今日も美しいな!今日はそなたの菓子が食べられると聞いて楽しみにしていたぞ。」


「ニコル嬢、噂は聞き及んでおりますわよ。

私も貴方の商品を愛用してますの。

今日は新たなお菓子をご提供くださるとか!」


「わたくしは、ついでに味見…いえ念の為の毒味係でございます。」


「ニコル嬢、まずは例のサンプルをたのむ。

その引き換えに菓子が作れるからな!」


―――とまぁ、こんな事があり…


(この件について、ぜひ殿下とは後日ゆっくり話をしたいと思っている)


念の為大量にチョコ菓子サンプルを用意してきたことが幸をなし、

手土産のハーブティーも渡したことで

なんとかその場は乗り越ることができた。


王家の皆様は大喜び。

1時間半程ティータイムを楽しまれたあと…

(たっぷりたのしんでた)


「また楽しみにしているぞ!」

という1番聞きたくなかったお言葉を残し、

陛下たちは満足そうに颯爽と去っていった。



―――はい!で、つぎ!(ヤケクソ)


その後厨房に移りお菓子作りを始めたが、

殿下は殿下で初心者なのにもかかわらず

「どうしてもガトーショコラを作りたい」と言い出した。


熱意がすごかったので根負けし、

ひとつひとつ教えながら進めたものの…


やっぱりちょっと初心者には難しさもあり、混ぜることくらいしかやってもらえることがなかった。


というわけで、

結局ほとんどわたしがつくることになり…


いまやっと完成したところである!

汗水染み込んだガトーショコラが…!


「は、はじめて菓子を作ったぞ!バレンタインデーに渡せるぞ!」


誇らしげにそう言う殿下を横目に、

少々あたまを小突きたくなったが

まぁ仕方ない。


『喜んでるみたいだし、いっか!』


結局、純粋無垢な美少年に甘くなってしまうわたしだった。

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