第75話 新年早々、大騒動 1

―――新年も明けた冬休み。


今日は家族でお買い物!

真冬に必要なものを買い足しつつ、

ついでに自分が販売している商品の売れ行きもチェックをしに来た。


(もちろん顔隠し用のローブ着用は必須)


わたしの商品を取り扱ってくれている商店は王都にいくつかあるが、

その中でも今回は、

近くにある大きい商店の視察をしようと思う。


他に用事のあるお父様とお母様と一旦別れ、

わたしは、お兄様と護衛のカイと共に

お店に入った。


―――「いらっしゃいませ」


様々な美容アイテムや健康グッズを取り扱うそのお店の中は、

たくさんの女性客で賑わっていた。


その中でも盛り上がっているのが左奥の一角…

先月末に発売したばかりの、わたしの『ひきこもり令嬢シリーズ』のコーナーだ。


「あ!新商品のひきこもり令嬢シリーズよ!この美容パック気になってたのよね!」


「石鹸もまた新しい香りが出てるわ!

この値段で買えるのが助かる~!」


「ねえ、この美容液の乾燥肌用、冬にぴったりじゃない?」


お貴族様だけでなく、

一般の方にもなるべく手に入りやすい商品を…と思い、大急ぎで開発を進めたのだが。

ちゃんと町娘たちにも好評みたいだ。


『よかったよかった。

いろんな人に楽しんでもらえてるみたい…』


しかし、

そうホッと息をついたのもつかの間。


―――キャー!!!


突然、店内から悲鳴が上がった。


「む、虫よ!この美容クリームに、虫が入っていたわ!」


その騒ぎを聞きつけ、急いで駆けつけると、

わたしの高級美容シリーズの棚の前で

なにやら一人のご令嬢が激怒していた。


「どうなってるんですの!?こんな商品を売ろうだなんて!わたくしが見つけなければ大変なことになっていたわよ!この開発者にクレームを言いなさい!」


―――おや?

そう叫ぶご令嬢には見覚えがある。

あれは同じクラスの…


「ライラ…様…?」


そうポツリと呟くと、その声が届いたのかライラ様が慌てたように商品を隠した。


「な、なぜアナタがここに…!」


「いえ、ちょっと視察に…

そういえばそちらは、わたくしが開発している商品でございますわ!

虫が入っていたとか…

申し訳ございません、ご確認しても?」


本当だったら大変だ。

ここは責任者としてしっかり対応せねばと思い、ローブのフードを下ろし近寄る。


周りからは「ま、まぶしい…!」と言う声が聞こえるが、今は聞こえないふりをする。


『商品は一つ一つ丁寧に確認しているけど…これが本当であれば至急商品を回収し、

すべて再検品と返金交換対応をしないと!』


わたしはそう思いライラ様が持つ商品を受けとろうとした。


―――ところがしかし…

なぜかライラ様は

必死に商品を隠しながらモゾモゾしている。


なかなか渡してくれないので

怪しく思い、ライラ様の手の中の商品をつかんだが、向こうも手を離さない。


「ん…?あら、ライラ様…あの、責任者として検品せねばならず…あの、商品をこちらに。」


「い、いえ少々お待ちに…ちょ、ちょっと、お待ちなさい。引っ張らないで…待ちなさい…ってば!」


しばらく謎の引っ張り合いが続いた。

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