第69話 【番外編:デビュタント参加者の気持ち】

―――ワトソン伯爵一家が慌てるように帰ったあと。


「ざ、残念だったな…」

「ええ…すぐに帰られてしまいましたね…」

「私共も、ぜひご挨拶したかったのだが…」

「しかし、ご令嬢はお体が弱いと聞いているし、仕方があるまい。」


『『『『ハァァ…』』』』


会場内で、

しょんぼりする他領のお貴族様達がいた。


突如現れた、輝き溢れる美形集団ワトソン伯爵一家。


その当主と夫人、ご子息の美貌は、

社交界でも有名な事だが…

まさかご令嬢もあれ程までに美しいとは。


病で伏せっていた噂を聞いていたので、

皆驚きを隠せないでいた。


うちの自慢の息子をいまから仲良くさせ、

ぜひ婚約者候補にと誰もが思ったが、

どうやらワトソン伯爵のガードは固いようだ。



―――一方。


「ワトソン伯爵のニコル穣が、まさかあれ程までに美しいとはな…病であったのは誠なのか?」


「ええ、本当のようですよ。その間に美容アイテムや健康グッズを開発されて。わたくしもそれを使用してから、こんなに肌ツヤがよくなったのですから!」


「最近では、料理や菓子のレシピも販売し、医師たちには、自らの体験をもとにした健康計画書を公開し、医療の発展に協力しているようです。」


陛下と王妃、宰相の3人は、

ニコルの噂話で持ち切りであった。


『同じ歳の第3王子と仲良くさせたいと考えたが、あの子煩悩なワトソン伯爵である。

なかなかそううまくは行くまい…』


陛下はすこしばかり残念な気持ちになった。

それに…


『第3王子は、ひとつ上のカレン侯爵令嬢に夢中であるからな…』


先程までニコル穣に見とれている様子の第3王子ではあったが、

あれは単に綺麗なものを見て感動しているだけの目であった。


婚約者候補のひとりであるカレン侯爵令嬢を

密かに慕っているのは耳にしている。


『そういえば…ニコル嬢は、定期的にカレン嬢ともお茶会を開いているそうだな。

ニコル嬢の作る菓子を、私も思う存分味わってみたいものだ…』


そう思いながら大の甘党な陛下は、

イケ渋な顔をシュンとさせ、ゴクリと唾を飲みこんだ。

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