第68話 侯爵令嬢ライラ

―――ザワザワ…


社交界デビューのために、

豪華に着飾ったご子息ご令嬢、

その父兄たちで賑わう会場。


今日は12歳になった我が子の記念すべき日ということもあり、両親たちは特に気合いが入っているのであろう。


ひときわ目立っているご令嬢がいた。


「ね、ねえ…ご覧になって。カーター侯爵令嬢のライラ様よ…」

「まぁ…相変わらずド派手…あ、いえ。華やかですわね。ふふ、ふ…」


真っ赤なフリフリのドレスに、

顔より大きな真っ赤なリボンを頭に着けたご令嬢が、注目を浴びている。(色んな意味で)


きっちり巻かれたご自慢の縦ロールの束を揺らしながら、これ見よがしに会場内を闊歩していた。


『ふふふ…みんながわたくしに夢中だわ!

どう見ても今日1番の美女はわたくしね!』


これまた真っ赤なフワフワの扇子を取りだしゆったりと腰をかけ、勝ち誇った顔を見せるが…


―――わぁぁぁッ…


何やら突然、歓声が上がった。


『どうしたのかしら…』

何があったのかと辺りを見回すと、

どうも反対側の出入口が騒がしい。


人だかりに入ってみると、

皆が口々に感嘆を漏らしていた。


「なんて美しい…」

「本当に冬の妖精みたいだ…」

「まるで女神様のようですな」

「どこのご令嬢様かしら…素敵だわ…」

「初めて公にお披露目されると噂の、ワトソン伯爵家の宝玉姫様かしら…」


『ワトソン伯爵家の宝玉姫?

フンッ…随分な呼び名じゃない。

ま、わたしには適わないでしょうけど。』


そう思いながらも気になるので、

前の方まで進み出てみると…

なんだかものすごく眩しい。


「なん、なの………」


目の前の光景を見て、

ライラ侯爵令嬢は口をあんぐり開けて絶句した。


そこには、ワトソン伯爵とその夫人、そしてご子息のキース様。

そしてご令嬢と思われる超絶美少女が立っていたのだ。


―――ペカー!

しかもなぜか4人は自発光している。

ついでに護衛騎士と侍従まで眩しい。


『な、何なのよ!人間が…光るわけないでしょう!』


装いは華美すぎず、むしろシンプルなのに

レベル違いの輝きを見せていた。


「あの方も、学園に来られるんだろうか?」

「それなら毎日が幸せに違いない」

「ご、ご挨拶に行ってみましょうか?」

「いえ、恐れ多くて行けませんわよ!」


周囲のそんな会話で

ハッと意識を戻す侯爵令嬢ライラ。


『そうだわ、デビュタントに来ているということは、学園にも来るということ…』


―――クッ…


それ以降、あの令嬢が気に食わなくて仕方がなかった。


今日は自分が1番注目を集める予定であったのに…


ダンスの時なんか、

王家の方々まで、

あの自発光娘をウットリ見つめていた。


『ワトソン伯爵様は、それはそれは麗しいお方だけれど…!キィィィ!』


このデビュタントは、

彼女のプライドがズタズタに引き裂かれた最悪の日となった。

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