第7話 ワトソン伯爵邸の大騒動

新年早々、ワトソン伯爵邸は大騒ぎになっていた。

病床に伏せっていた皆の宝物であるニコルが、目を覚まさないと侍女から知らせがあったためだ。


伯爵も、夫人も、ニコルの兄も血相を変えて部屋を飛び出した。

侍従たちも、すぐさま医師への連絡やらなんやらで屋敷を駆けずり回っていた。


ニコルはいまだに、

皆がいくら声をかけても反応しない。

眠っているだけに見えるその美しい顔は、

青白く染まり一筋の涙のあとが残っていた。


信じられない。

信じたくない。

眠る時も傍についていれば…

いや、まだ望みを捨てたくは無い。


家中の者が皆、辛く苦しい思いでニコルを見つめていた。


必死で祈りを捧げながら、

力を合わせて懸命に声をかける。


「「ニコ!」」

「ニコル!」

「「「ニコルお嬢様!」」」


どれほど呼びかけただろうか。

この部屋に来てから1時間も経っていないのに、随分と長い時間に感じた。


すると間もなく

連絡係のメイドが駆け足で近づいてきた。


「旦那様!!医師が到着します!」

「すぐに通してくれ!」


焦る気持ちは止まらない。

ようやく待ちに待った医師が到着するとの知らせが入ったまさにその時。



―――ガバッ!!!!



「やばいっ……バイトに遅刻する~!!!」



『……………………!?!?』



いまのいままで、

全く反応のなかったニコルが……

突然起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る