第6話 花火
花火会場に着くと、辺り一帯超満員といった具合に人で溢れていた。
俺達は出店の屋台を周り、小腹を満たしながら立ち見出来る場所を探して歩いていた。
「あ、出流君! あっちなら遮蔽物が無さそうだよ!」
「マジか!」
徐々に薄暗くなっていく中、二人手を繋いで歩く。
平岡が見付けた場所にも人は居るが、無料の立ち見ならこれ以上は無い所だった。
「さすが花火マスター」
「へへんっ」
胸を張って嬉しそうにする平岡。
が、急に表情を暗くした。
「……出流君ってマスター好きなの……?」
「んなわけあるか!」
「でも普通実のお姉さんとあんな関係になるとかおかしいって」
「あーあれは……」
ミリヤのドあほうが……ややこしい事しやがって……!
平岡は返事に困っている俺を見て苦笑する。
「ごめんごめん言わなくて良いよ。何か訳アリなんでしょう?」
「……あぁ」
「だと思った。その訳、いつか聞けると嬉しいな」
「……」
問い詰めようと思えばいつでも問い詰められる筈だ。何故そうしないのか。
平岡は気にならないのだろうか?
1ヶ月も行方不明だった人間がどこで何をしていたのか。
そして俺が戻って来たと共に現れた、異国の風貌を持つミリヤが何者なのか。
何と言うか、平岡は興味がないように見える。
まるで、聞いた所で意味が無いとでも思っていそうな……。
「本当に……聞けたら良いな」
「平お──」
ポツリ、と呟いた平岡の言葉に反応した瞬間だった。
夜空に一筋の白い線が立ち上る──。
「わっ!花火、始まったね出流君!!」
「あ、あぁ」
唐突に打ち上がった花火は、パッと輝いて、既に暗くなった夜空を照らす。
それを皮切りにして、次々に花火が打ち上がっていく。
咲いては消えて、夜空をキャンパスに光の筋を描いている。
「綺麗だね……」
あぁ、本当に綺麗だな。
この美しい光景を見ていると、あの異世界での日々が遠くに感じる。
泡沫の幻ではないのか、そう思う自分も居るが、残念ながらあれは厳然たる現実だった。
うぅ、泣きそう……。
俺が一人物思いに耽っていると、今までで一番大きな花火が打ち上がった。
遅れてやってくる心臓にまで響く轟音が、今から咲く花火の大きさを予感させる。
数秒の後、それは今日一番の大きさで咲き誇り、会場を白く輝かせた。
「出流君と見れて良かったぁ……」
ふと、平岡の方を見ると彼女の頬をすっ、と涙が伝っていた。
「平岡……?」
「ねぇ、出流君──」
平岡はずっと握っていた手を、更にぎゅっと強く握った。
「ずっと、出会ったあの日からずっと、私は出流君が大好きだよ」
「え……?」
花火が映した僅か数瞬。
平岡の表情は満面の笑みで、それは愛の言葉と伴ってこの世で一番美しい光景だったと思う。
だが、それも花火のように一瞬で消える。
「あぁ……やっと言え……た……」
「平岡……!?」
彼女は俺の手を握ったまま、地面に倒れ込んだ。完全に意識を失っている。
俺は平岡の体を抱き抱え、強めに揺さぶった。
「お、おい……!平岡……平岡っ!!!」
近くの観客が『何?熱中症?』『救急車呼んだ方が良いんじゃない?』など言っているが、今の俺の耳には入らない。
「クソ……!」
俺は平岡の体を抱いたまま、
自由を与えてもあいつが俺の下を離れる訳がない。
何せ異世界から俺を追い掛けて来るしつこさだからな。
「何してるっ!!ここに居るんだろ早く出て来い──ミリヤっ!!!」
いきなり平岡が倒れるなんて、明らかな異常事態が起こっているのに、一向に姿を見せないミリヤ。
痺れを切らして強く名前を呼ぶと、背後から彼女の声が聞こえてくる。
「聞こえてますよ。うるさいマスターですね」
「遅いぞ!!」
俺は後ろに振り向き、ミリヤを睨む。
「病院に行くよりも治癒魔法を使った方が早い!お前の転移魔法で一旦移動する!!」
「こんな人目のある所でですか?マスターの知能がここまで低下していたとは」
「……~っ……!! お前とくだらない問答をしている時間がないってのが分かんねぇのか!?」
周りの目なんて気にしない声量でミリヤに怒声を浴びせた。
ミリヤはこう見えても従順な奴隷だ。
俺の指示にここまで素直に従わないのは初めてかも知れない。
そう、まるで急ぐ事に意味を為さないという態度──。
「……お前、平岡の症状が分かったのか……!?」
俺の言葉にミリヤは視線だけを寄越した。
そして、俺から奪い取るように平岡を抱き抱えて立ち上がる。
「頭が冷えたようで何よりです。時間がないのは間違っておりませんので、とにかく人気の無い所に移動しましょう」
「……分かった」
俺達はすぐに会場から離れ、人の視線が無い所でミリヤの転移魔法を使った。
転移先は平岡と待ち合わせしたあの神社だ。
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