第7話 決勝でピンチ

「え? ヤッた? ヤッたって…ヤッたの!? でもセクスが今いるのって

 男性闘士がいる所だよね? と、という事は…はわわっ」


「気色悪いこと考えんじゃねぇよ!! 鳥肌が立ったわ!!」


「男ではありません…女の匂いがします」


と、リタが鼻をひくつかせる。そういうところはサキュ族は敏感なのである。


「あ~…ここの掃除婦とな。ゴブリ族と人間のハーフでメメイって娘だ」


「え? 女の人とその…いたしたんですか? でもセクスさんは

 そんなことをしたら死んじゃうんじゃ…?」


「はい。セッ〇スをすれば死んでしまいます。でもそれは本番まで

 いかなければ大丈夫という事でもあるんです」


「うう…小さい子が卑猥な言葉を連発…何だろ、この背徳感…」


「…ちょっと口で奉仕してもらっただけだ。それくらい別にいいだろ」


 まるで女癖の悪い男のクズい言い訳の様に、セクスは頭をガリガリと掻きながら面倒くさそうに答える。


「ええ、それは別にいいです」


「あ、いいんだ」


「ただ、時と場合を考えてください。セクス様の「リビドー」は性欲の高ぶり

 で強くなります。しかし性欲を解消してしまう…つまり「賢者タイム」など

 に入るとセクス様の強さは下がり続けるのですよ」


「「リビドー」にそんな弱点が…だから不味いって言ってたのね。でもそれじゃ

 また頑張ってその…せ…性欲を溜めればいいじゃないですか」


「目の前にそういうことしてくれる女の子がいて、セクス様が我慢できると

 思いますか?」


「あ…うん、無理だわ」


ココットはすごく深く頷いた。


「だーかーらー、他の奴は雑魚ばかりだ。俺が後れを取るはずがない。大丈夫だ。

 問題ない。楽勝で常勝だ」


「…でもまたその女の子とヤるつもりですよね?」


「……」

「……」

「……」


三人の間に沈黙が流れた。


「だああああ!! 大丈夫だと言ってるだろ!! お前らは黙って俺に賭けて

 おけばいいんだ!! ほら、今日はもう帰れ!! また明日来い!!」


 闘士たちは参加したトーナメントが終わるまでは闘技場から出られないことになっている。二人を追い出したセクスは自分の控室に戻った。すると部屋の前でメメイが

待っていた。


「あ、あの…何か私に出来ることがあるかなって…掃除とか洗濯とか…」


「………ぐふふ。ああ、是非やって欲しいことがある。こっちに来い」


「あっ」


 メメイの腕を掴むと自分の控室に連れ込む。久しぶりの女の体に目がくらんいる

セクスは、このあと滅茶苦茶ハッスルした。


 その日からセクスは日中はトーナメントに出場。夜はメメイとのお楽しみを

繰り返した。そしてたった今、準決勝に勝利した。それを見ていたココットは

ホッと胸を撫で下ろす。


「どうなるかと思ってましたけど、セクスさん順調に勝ち進んでますね。おかげで

 懐も大分暖かくなりましたよ。ね、リタちゃん」


「……随分と力が衰えてます。今までは運よく相手が弱ったから無事だった

 だけです。明日の決勝戦はどうなるか分かりません…」


「リタちゃん…」


一方、観客の一角にある特別室で、セクスの試合を見ている者がいた。


「今の試合の勝った方…名前は何と言う?」


 派手なスーツに指や首にはゴテゴテの宝石や貴金属。周りには自分好みの

奴隷の女たちを侍らして、上機嫌に葉巻をふかしている大男が部下に目をやる。

この男こそこの闘技場のボス、「ガ―メッツ・アブラミド」である。


「……セクスという男です。ヒュトレイアスから流れて来たようですね」


部下は素早く資料を調べて答える。


「あいつ…ずっと手を抜いてやがるな。あれじゃあ盛り上がらん」


「…この男、ガ―メッツ様が掃除婦にしたゴブリ族の奴隷の女を自分のモノと

 振れ回り、夜な夜な自分の相手をさせているそうです」


ガ―メッツは葉巻を根元まで思いっきり吸い、ブハ~~と吐き出す。


「……舐めたマネをしとる奴にはお仕置きが必要だな。なぁ?」

 

「…はっ、手配しておきます」


「グヒュヒュ。明日が楽しみじゃのう…」


 奴隷の女たちに果物を口に運ばさせながら、ガ―メッツはいやらしい笑みを

浮かべた。


その夜。セクスはいつも通り楽しんだ後に、メメイと共にベッドで横になっていた。


「うむうむ、やはり女体布団はいい。ムニムニのホカホカだ」


裸のメメイを密着させ、セクスはご満悦だった。


「…セクスさん。明日…決勝ですね」


「ん…ああ、そうだな。俺なら楽勝だ。わはは」


「決勝が終わったら…私は…」


「ん? 何か言ったか?」


「い、いえ! …明日は頑張ってください」


「おう、まかせろ。さ、寝ようぜ」


 そう言ってセクスは目を閉じる。しばらくしてガーガーといびきを掻き始めた。

その顔をメメイは悲しそうで、諦めたような顔でじっと見つめた後、キュッとセクスを抱きしめて体に顔を埋めて目を閉じた。


 次の日、決勝戦。舞台でセクスが相手の登場を待つが一向に現れなかった。

観客席からも何事かとザワザワしだす。


「どうなってんだ? ここまで来て不戦勝か?」


すると、魔法スピーカーからアナウンスが流れた。


《皆様のご連絡します。現在行われているトーナメント決勝戦ですが、セクス選手の

 相手の闘士が急遽棄権されました。ただ、決勝戦で不戦勝というのは皆様もご納得

 出来ないと考え、代役をご用意しました》


 闘技場の扉が開き、代役の人物が舞台の中心へ歩いてくる。


「うわぁ~、見てよリタちゃん。ちょっと変わった格好してますけど美形ですよ! 

 イケメンです!!」


 その者は、尖った長い耳に翡翠色の総髪。着流しに腰には刀を差した人物だった。


「あれは「エノレフ族」のサムライ!!」


 エノレフ族。大陸の遥か北にある「ヴェジタブール大森林」に住む種族である。

長命で独自の文化と言語を持つ。特にエノレフ族だけのスキル、「刀術」や「忍術」

をもつ「サムライ」や「ニンジャ」という戦士たちはかなりの実力者ぞろいで、他国

から警戒されるほどである。


「…拙者、エノレフ族のサムライで「萵苣ノちしゃのは レスタ」と申す。此度は代役として貴殿と仕合うこととなった。まだ修行の身なれど、全力を尽くすことを誓おう」


そう言うとレスタは深々と頭を下げた。


(妙な喋り方しやがって…しかも俺には劣るがいい面してるのもムカつく。

 コイツはボコボコ決定だ。顔面強制整形の刑だ)


《それでは…決勝戦。セクス闘士VSレスタ闘士の試合を始めます。それでは……

 はじめ!!》


 ドラの音がなり、大歓声が上がる。レスタは片足を少し引き、少し屈んで腰の刀に

手を掛けると、そのまま動くことはなかった。


(何だあの構え…決勝だしもう逃げ回ってオッズを調整する必要もない。一気に決めるか)


セクスは地を蹴りレスタとの距離を一気に縮めようと駆ける。


「い、いけない!! セクス様!!」


 リタは叫ぶが、セクスの耳には届かない。セクスがレスタの間合いに足を掛けた。

その瞬間、レスタがゆらりと動く。


「うっ!!」


 セクスの首筋に悪寒が走る。戦士としての勘が働いたのか咄嗟に上半身を思いっ切り反らす。するといつ鞘から抜いたのか、レスタの刀の剣先が鼻の先にあった。

セクスはゴロゴロと地面を転がってレスタと距離を取った。


「ほう…大抵は今の居合で終いなのですが…これは血沸きますなぁ…」


「ぐっ…コイツ…!!」


セクスはこの闘技場で、初めて危機感を覚えたのだった。

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