第3話 国王と女王

「陛下、ココット・アルコット、無事にセクス殿をお連れしました」


ココットは王の前で跪いて首を垂れた。


 あれからヒュトレイアス王国に着いたセクス達は、どこから聞きつけたのか兵士に囲まれ、馬車に揺られ、あれよあれよと玉座の前まで連れて来られたのだ。


「…久しいな、セクスよ」


「よぉ、おっさん」鼻ホジ


セクスの王への無礼ぶりに周りの大臣たちはざわつき、近衛兵は得物に手を掛ける。


「ちょっ! ちょっとーーー!! セクスさん、何言っちゃってんの!? 

 謝って!! 土下座して! 床に頭を擦る付けるのよ!!

 というか、リタちゃんも何突っ立っててんの!! ほら跪いて!!

 そして頭を下げなさいって!!」


「…よい、こやつにそんなものは期待しとらん」


国王がスッと手を上げそう言うと、近衛兵たちは得物から手を放して姿勢を戻す。


「ケッ、英雄様が久々に帰って来たというのに、歓待の一つもねぇのかよ」


「救国以上の悪行を働いておいてよく言う…あの後、国民たちにお前から被った

 被害の賠償をして国が傾きかけた。それに今回お前を呼び戻すに至っては大臣

 たちの猛反対と、国民の反対デモを抑え込むのにも苦労したのだぞ」


「ああ…それで人っ子一人表にいなかったんだ…」


ココットは王国に着いた時、まるでゴーストタウンの様な城下町を思い出した。


「…チッ。何の見返りもなしに助けても貰えると思ってる方がおかしいんだよ。

 で、俺に何の用だ」


「うむ、それはこの方から説明してもらおう」


 すると玉座の横の空間に縦にスリットが入り、クパッと開くと中から露出度の

高い黒いドレスを纏った、美しい黒い角を持つ妖艶な女性が現れた。


「あーー!! ルルティミシア!! テメェ!!…ブベッ!!」


 セクスはその女性を見るや否や飛びかかった。だが目に見えない魔法障壁に阻まれて顔面を強打し、ズルズルと床に落ちる。


「…相変わらず野蛮で下品な男ね」


艶のある声が玉座の間に響く。その場にいた全ての男たちは魅了され、身震いする。


「女王様!!」


リタがルルティミシアに駆けよる。彼女も壇上から降りると抱き合った。


「お会いできて嬉しいです!!」


「私もよ、リタ。あの男に何もされてはいない?」


「そんなチビに俺が手を出すわけねぇだろ!!」


 セクスはムクリと起き上り、またもやルルティミシアに襲い掛かかる。しかし彼女の張った見えない障壁でまたもや進めず、うおおお!!っと叫びながらまるで爪を研ぐ猫の様に障壁を掻きむしっていた。


「…あの、陛下。あの人は?」


「…サキュ族の女王、「ルルティミシア」殿だ」


「サ、サキュ族の女王!? リタちゃんもそうですけど、彼女たちは

 王国に侵攻して来た魔族ですよね? 敵だったんですよね?」


「…ココット、お主は3年前、王都にはいなかったな?」


「はい。騎士学校の授業の一環で国境の砦に務めていました。

 侵攻の話は後に言伝で…」


「ふむ、なら知らぬのも無理はないな。これは上の者しか知らぬ

 ことだが、王国はサキュ族と同盟を結んだのだ」


「ど、同盟!?」


「人間の国なんて楽勝。なんて思って攻めに来たのにたった3ヶ月で私たちは大敗。

 その男のせいで、円形脱毛症になる娘や鬱になった娘、終いには同性愛に

 走る娘まで出るわで…もうホント最悪だったわ」


 リタとの抱擁が終わったのか、ルルティミシアはいつの間にか壇上に戻っていた。

セクスはまだ諦めていないようで、リタに宥められながらもガルルと唸りながら

彼女を睨んでいる。


「こちらも同じくが甚大だった。なのでここはお互い歩みよろうということに

 なったのだ。この国でサキュ族が人に紛れて娼館を営むことを許可する代わりに、 

 その売り上げを国が貰い受けるということで手を結んだのだ。おかげで傾いた国は

 持ち直し…」


「…サキュ族の娘たちの心の傷も癒えたってわけ」


「なるほど…そんなことが…。それはセクスさんのと言うべきか…

 言うべきか…」


「サキュ族の娼館だとぉ! うらやまけしからん!! 今すぐ視察を希望する!!」


「駄目に決まっているだろう。トラウマを呼び起こすつもりか。お前はこの国のそう

 いった店全ての利用を禁止したはずだぞ。といか話はまだ終わっておらん」


王と女王は表情をキリッと正してセクスを見た。


「――話を戻しましょう。セクス。他の魔族の王たちがこの世界に手を出そうと

 しているわ」


「魔族? そういやバルデなんとかっていう奴の手下が襲ってきたがぶっ殺したぞ」


「もう手を回されていたのか。いや、だが流石はセクスだ。

 ならば話は早い。お前には世界を回って、魔族の侵攻を食い止めて欲しい」


「…あ? 何で俺なんだ? 一度はを騙して辺境に飛ばしたくせによ。

 俺はまだ許してねぇぞ」


セクスの言葉に国王は、ばつが悪そうな顔をした。


「…正直、魔族と渡り合える強さを持った者はこの国ではお前しかおらんのだ。

 酒池肉林の宴を開いて酔いつぶれたお前を簀巻きにして辺境に送ったことは謝る。

 どうかもう一度、手を貸してはくれないか?」


「……」


王が頭を下げる。周りの者はまたもやざわついたが、セクスは渋い顔をしたままだ。


「…ならもう一押し。魔族の侵攻を止めてくれたら、貴方に掛けた「呪い」を

 解いてあげるわ」

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