第2話 英雄は犯罪者!?

ぶっ飛ばされた魔族は、顎を押えながらジタバタと地面を転がっている。


「えええええ!? ホントに強くなってるー!!」


「ったくよぉ…三年ぶりの胸なんだ、じっくり味わわせろっての。

 いいか? 胸を揉んでる時はな、誰にも邪魔されず、自由でなんというか、

 こう掬われてなきゃあ、ダメなんだ…」


「何言ってんですか!! というかいつまで揉んでるんです!!」


ココットは自分の胸からセクスの手を引っぺがす。


「あ、俺の胸がっ!!」


「私のです!!」


「セクス様~! お待たせしました~…きゃあ!!」


 リタが家からセクスの剣を抱えて走ってきた。と、思ったら躓いたて転んだ。

剣はリタの手を離れ、中に弧を描きながらこちらに飛んでくる。


「うむ、ご苦労」


 セクスはパシッと飛んできた剣をキャッチすると、転がっている魔族の

ところまで行って喉元に抜いた剣先を突きつけた。


「おい、俺を殺せとお前に命令した奴がいると言ったな。どんな奴だ?」


「…ククク、我らディモン族の王、バルデザイン様さ。だが粋がっているのも

 今の内だぞセクス。ディモン族はこれからもお前を襲いに来るぞ。それこそ

 寝ている時や飯を食ってる時、クソしてる時もそうだ。精々気を付けるんだ

 な」

 

「…あっそ。名前からしてお前らの王は野郎っぽいな。つまらん。

 あ、そうだ。お前、家族に姉か妹はいるか?」


「え? いや。オレは一人っ子で…」


「じゃあ用は無い! 死ねぇぇぇっ!!」ズバーーー!!


「グギャアアアア!!」


 真っ二つに切られて消滅していく魔族。その様を邪悪な顔でゲラゲラうセクス。

それを見たココットの頭の中で光が弾けて記憶が流れ込んできた。いや、正確

には思い出した。


 英雄セクス。3年前、確かにヒュトレイアス王国を魔族の進行から救った。救っ

たのだが、その内容が酷かった。返り討ちにした女魔族をお仕置きと称してセク

ハラをしたり、その場で犯しまくったりと鬼畜の所業。それだけでなく、国民に

も助けた礼として女や金を要求するなど、好き放題に暴れまわったのだ。戦いが

終わった後、事態を重く見た国王は、セクスを第一級犯罪者として王国より追放、

侵入と脱出不可の結界を張った辺境に閉じ込めたのだ。これが英雄セクスの真実

である。


「――セクス様、大丈夫ですか?」


リタがセクスの傍に駆け寄り、心配そうに体のあちこちを見る。


「問題ない、楽勝だ」


「お、思い出した! 思い出しました! 何で今まで忘れていたんでしょう! 

 セクスさん! あ、ああああ貴方ってばド変態です! 色情狂です! 

 大犯罪者です!!」


「あん? 何だいきなり。揉むぞ」


「ああ、記憶操作の魔法が解けたんですね。簡単なものでしたから放って

 おいてもすぐ解けると思ってました」


「き、記憶操作? ええ~…何で私そんなことされてたんです?」


「おそらくここに女性を送る為だと思います。セクス様の事を知っていて

 ここに来ようと思う女性はいませんから…」


「そういえば王宮に呼び出された時に、いきなり王宮魔術師に何かされた

 ような…。あんのジジィ…後で絶対しばk…あれ? リタちゃんその頭…」


 ココットはリタの頭を凝視する。そこにはこけた拍子にカチューシャがずれて、

隠れていた小さな黒い二本の角が見えていた。


「リ、リタちゃん貴女…魔族だったの!?」


「こいつはサキュ族という男の精力を吸って生きる女系魔族さ」


「サキュ族って3年前、ヒュトレイアス王国を襲った魔族じゃないですか!!」

 私たちの敵ですよ、敵!!」


 「こいつはポンコツだから害はねぇよ。本来サキュ族ってのは男を惑わすボン、

 キュッ、ボン!!の体系してるんだが、こいつはちんちくりんで生まれちまっ

 たんだ。その代わり精力を吸える容量が他のサキュ族より半端ないらしくてな。

 俺の力を抑制する為に傍に置いて精力を吸い続けさせてんだよ」


 セクスはリタの頭をポンポンしながら説明する。


「力って…さっきのセクハラすると強くなる謎原理のアレですか?」


「セクス様の力が暴走しない様にずっとお傍にいるのです。ココットさんと会った

 時は流石に苦しくなっちゃいました」


「ああ~…さっきの「うう…」とか言ってたやつね」


「フッ、3年ぶりのいい胸だったからな。ついムラッとしちまったゼ☆」


「…はは」


「…さて、じゃあ行くか」


「え、どこへ?」


「迎えに来たんだろ? 帰るんだよ、ヒュトレイアスへ」


「い、いや~…セクスさんという人物を思い出した私としては、王国に連れて

 行くのはちょっと…」


「もう俺をここに縛る結界は無くなったんだ。お前が案内しなくても俺は

 ヒュトレイアスへ行くぞ。おい、リタ」


「はい、お供します」


いつの間にか荷物をまとめて背負ったリタを連れてセクスは歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 置いて行かないでください~!!」

 

こうしてセクスは、約3年ぶりとなるヒュトレイアス王国に戻るのであった。

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