第4話 始まり

 それから二日間、四年間通った小学校や町中を見て回ったり、家があった場所を片付けたりと忙しく過ごしていた。妖怪とはなんなのかも聞いたが、普通の人には見えず霊力が高い人のみ見え、人など生き物を食べて強くなると聞いた。ここら辺は元々神域があったため、妖怪が近付かなかったようだ。

 町中は無人で、滅んだと言われてもピンと来なかった。まるで別世界に来たかのような不気味さと新鮮さで実感が沸かなかった。ところどころ壊れていたり、血痕が残っているのは妖怪がたくさん襲ってきたからだろう。町中にいた妖怪は玄弥と共に来ていたメンバーが掃討したようだ。


 家はほとんどが焼けてしまったが、少しの思い出の品などは残っていた。それを真白に保管してもらいながら作業を続けていた。因みに刀も真白に預けている。意外と重い上に貴重品だ。鞘が地面に当たるだけでびくりとしてしまうので早々に真白に預けた。




「真白、もうこれくらいにしよう。ちゃんと探したし、もう大丈夫」


「そうか、我がちゃんと預かっておこう」


 作業を一旦終えて水を飲む。家族で撮った写真も一枚だけ残っていたのは泣いてしまったが嬉しかった。今日は玄弥が迎えに来て、新しい家に行くらしい。最初はここを離れるのは嫌だったが、何もないこの町で暮らすわけにもいかない。


「久しぶりだな、迎えに来たぞ」


 そう言って玄弥が現れた。二日前の玄弥も疲れた雰囲気を醸し出していたが、今日はクマも目立って更に疲れているようだった。


「車でしばらく移動することになるが大丈夫か?あとご両親への報告もちゃんとしとけよ」


「うん、お墓に行ってくるね」


 少し離れたお墓へと小走りで向かっていく。石を置いた簡単なものだが、自分にだけわかればいい。親族なんて会ったことない人ばかりだ。お墓参りをしたいと言い出す人なんていないだろう。


「また来るからちゃんと見ててね」


 言葉少なくお別れの挨拶をする。区切りがついたわけではないし、寂しくて毎晩泣きそうになるのは変わりそうにない。それでも、少しでも変わりたいと思うのだ。今がチャンスなのは間違いない。


「じゃあ、行ってくるよ」


 お墓から立ち去る。後ろ髪引かれる思いを我慢して真白や玄弥がいる方へと向かう。白い息が頼りなく消えるのを見ながら空を見上げた。




「坊主、今日はほとんど車での移動だ。ここ栃木県から群馬県にある花山院家所有の別荘まで向かう。かなり長くなるからできれば寝ておけ」


「車!あまり乗ったことないから楽しみ!」


「我も知識しか知らないのう。どんなものか楽しみじゃ」


 神社は年中開いており、家族でゆっくりと過ごす時間も少なかった。家族で遠出する機会もなく、学校の遠足や社会見学などでバスに乗ったくらいだ。わくわくとする自分を、玄弥が可哀想なものを見る目を向けてくる。


「あー……人目を避けるためにほとんど山中を移動する予定だ。揺れるしそんなに楽しくないぞ……坊主は酔い止めを飲んでおけ。真白さんは……酔うのか?」


「恐らく大丈夫じゃ。周りの警戒は任せるがよい」


「そりゃ助かるよ、寝不足だから少し寝させてくれ。運転は俺じゃなくて別の奴がやる。昼は適当に買ってきたもの摘んで、夕方には目的地に到着する予定だ」


「わかりました。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げ、車へと向かっていく。中には一人の男性が運転席に乗っており、玄弥が扉を開けてくれたので後部座席へと座った。


「よろしくお願いします!」


「ああ、あなたが久遠朔くんですね。よろしくお願いします。私、鹿島誠一が安全に目的地まで送りますよ」


「お前はかたっくるしいな。気を抜きゃあ良いのに……」


「あなたは気を抜きすぎなんですよ……いつもいつもご当主様から注意されてますよね?」


「あー、わかったわかった」


 白い手袋を付けた誠一からは優しそうな雰囲気と共に、玄弥と同じような猛者のような印象を受けた。玄弥とは気の知れた仲のよう で談笑をしている。真白は車の周りをぐるっと回って観察すると、朔の横へと乗り込んだ。


「で、我は周りに妖怪を近づけないようにすれば良いのかの?人間にも注意した方がよいかの?」


「ああそうだな、頼む。人間は通行止めやらこっちの警備で会わないからそっちは大丈夫だ。なにかあれば連絡が入る」


「了解じゃ」


 真白が何かを唱えると清浄な空気へと変わっていく。家の跡地にいるときも、これをずっと使ってくれていたのだ。自分たちが去るとあそこは妖怪の溜まり場になるとは真白の言葉だ。


「新しい場所では霊力の使い方教えてくれる?」


「うむ、望むのなら教えよう。これからは力があって悪いことはなかろう」


「俺も教えるぞ。あとは刀術だな。あと数年で妖怪とか悪霊が目に見える形で一般的になる。素養があるなら力は必要になる」


「あれ?妖怪ってあまり人に見えないんじゃなかったの?」


「今はそうじゃな。数年経つと地球上に霊力が満ちて普通の人間でも見えるようになるのじゃ。霊力が満ちると人間、妖怪などが力が底上げされることになるからの。力の扱い方は重要じゃ」


 つまり、お墓参りに行くにも大変だということになる。お墓周辺の妖怪はちょっと力をつけたくらいでは太刀打ちできないだろう。安全に暮らすためにも、両親と顔を合わせるためにも力は必要だということだ。


「二人ともお願いします!」


 ぺこりと頭を下げると、玄弥は口元に笑みを浮かべていた。




 昼を途中で食べ、変わり映えしない風景の中で眠くなって寝ていると起こされた。まだ少し眠いのを我慢して体を起こした。


「朔、着いたようだぞ」


「ふわあ……真白ありがとう。鹿島さんもありがとうございます」


 運転手をしていた鹿島が扉を開け、車を降りていく。すると、目の前には古めかしい和風の門が見えた。案内されるがままに中へ入ると、大きな建物とよく手入れされた庭が目に入った。池もあり、水面が揺れている。恐らくなにかを飼っているのだろう。教科書に載っているお寺のような庭だ。物珍しさにキョロキョロと周りを見渡してしまう。


「久遠朔様ですね。ようこそいらっしゃいました。まずは体をゆっくりと休めてください」


 玄関前にいた一人の女性から言葉をもらった。ここで暮らしていくのだ。襲われてなにもできなかった悔しさから成長できるだろうか。

 部屋に案内されると、一人ではかなり広い畳張りの部屋だった。生活に必要なものは揃えてあるようで、パソコンやテレビなども置いてあった。霊力の扱い方は早速明日から教えてくれるらしい。今までの生活とはガラリと変化することに不安が大きいが、戻る場所がないのだ。全部真白に頼るようなことはしたくない。


「明日から頑張らなきゃ……」




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プロローグはこれで終了です。明日は閑話を一つ挟んでから本編を更新していきます!よろしくお願いします。

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