☆★☆★☆5

 するとその青空の中心に浮かぶアースは空糸そらいと雲糸くもいとくるまれていた。手足から徐々に新たな宇宙服が編み込まれる。

 羽の生えた白い気密靴と手袋。首には白い毛糸のマフラーを巻く。

 胸の中心部には青いマーブル模様の球体が埋没しており、そこから放射状に青いラインが延びていた。脇腹部は群青に染まり背中の純白マントが全体を引き締めている。

 周囲は圧倒的な空のニュークに満たされているのでフルフェイスを被る必要もなく呼吸が可能。ニャンレオもすっかり元気を取り戻していた。


 Newの宇宙服が全身をスマートに包んだとき――アースは目を醒ました。


「ヴァージョン:スカイスーツ」


 黒星卿はそのバトル特化型のコスチュームを見たのち、微塵も理解できないというように問う。


「青い星、そうまでしてなぜ私卿に歯向かってくる?」

「そんなの決まってる」


 神童に言われるまでもなく本当は僕も、そしてきみもわかっているはずだ。

 アースは胸の真ん中に両手を当ててからまっすぐ答えた。


「僕の、がまだ動いているから!」


 そしてアースは自身の胸に当てていた両手を前に開く。するとパンパンと2回打ったのち、結んで開いて、また結んだ――その次の瞬間――超加速した。


「《猫の揺り籠ニャンクレードル:最大速度3000万カイン》」


 黒星卿はアースを目で捉えるのがやっとだった。眼前にキラキラと流れ出たアースに右拳で顔面をぶん殴られた黒星卿は後方にぶっ飛ばされた。かと思えば、その先に一瞬のうちにアースが先回りしており、今度は背後から黒星卿を殴りつける。そしてまた飛ばされた先で黒星卿はアースに殴打されるのを何度も繰り返した。その間、ヴェノコはされるがままの黒星卿の足に尻尾を巻き付けて必死にしがみついていた。

 黒星卿は何が起こっているのかわからぬまま、そのうち【黒鬼丸二星二式】はあらぬ方向に引っ張られて、自身の切り開いた裂け目に落ちていった。


 アースがどうやってこの速度を生み出しているのか。

 それはひとつはこれまで通りの糸を伝う力。

 そしてもうひとつが足下の物質を結び固め、張力ないし垂直抗力すいちょくこうりょくを利用した高速移動術である。一度勢いに乗ってしまえば、あとは流れに身を任せればいい。鏡に光を反射させるような屈折からの屈折飛行。航空力学ならぬ航宙力学を応用したスカイスーツがこの加速を実現させていた。


 黒刀を失った黒星卿にアースは追撃ラッシュを仕掛けた。

 しかし何でもかんでも繋げる能力といっても、その地点に物質がなければ頑丈な糸は作れない。

 でも、この大空は僕の領域だ。

 アースは結んで開いて、手を打ってまた結ぶ。

 まるでひとりで綾取りをするように。


「アース、ちかっぱ食らわしてやりんしゃい!」


 ヴィーナスの黄色い声援が飛ぶ。

 端から見れば、高速で飛び回るアースが黒星卿を翻弄しているように見えた。

 がしかし、当のアースはただしてやられる黒星卿から不気味な気配を感じ取っていた。

 すると突如、黒星卿からとめどなく闇のニュークが溢れだしたではないか。

 そのニューク圧に押し戻されてアースの超加速の勢いは殺された。


 やはりまだ本気を出していなかったか。

 アースは警戒を強める。

 やがて青空に暗雲がかげり、しとしとと黒い雨が降り出した。


「暗黒星・環境:《黒雨こくう》」


 ジメジメとした湿気がムワァンと一挙に押し寄せる。

 黒い雨に濡れないようにアースは空のニュークで球体型のパーソナルスペースを確保した。その包まれた球体の外側を墨汁のような雨粒が滑り落ちる。

 この《黒雨》の環境下では闇属性以外のすべてのスターモンの速度が0・5倍に遅くなり、さらに技の命中率は3分の1に低下する。


「たんと喰え、ヴェノコ」


 黒星卿がそう許可を出すと、ヴェノコは空を這いずり回りながら暗雲をバクバクと摂取した。

 危険をいち早く察知したアースも対抗するために負けじと空のニュークを大放出して晴れ間を作る。ニャンレオは先ほどの極限状態の反動なのか空のニュークを大量に頬張った。


「ニャンレオ、おねがい!」

「ニャンレーオ!」


 その食べっぷりはアースの生成する空のニュークが間に合わないほどであった。

 青空と黒雨。

 二つの環境が争うなか、二匹のスターモンは光に包まれた。

 ――その次の瞬間、むくむくと巨大な進化を遂げると、宇宙にはち切れんばかりの咆哮ほうこうが轟いた。

 そのスターモンは八つの頭を持つ黒大蛇だった。その体躯は山のように大きい。側頭には赤椿をあしらったくしと玉かんざしを刺して漆を塗ったような黒髪を割れしのぶに結わえていた。しかしよく見ればその髪の毛一本一本が細長い蛇であり、チロチロと舌を出しながら蠢動している。極太の胴体部には注連縄が回されており『蛇帝』と書かれた紙垂しでが飾られていた。


最終段階進化ステージファイナル大蛇帝だいじゃていツクモノオロチ」


 黒星卿は八叉のうち中央のひとつに乗り頭頂をやさしく愛撫すると、艶めかしいツクモノオロチの瞳が対峙するスターモンを睨む。


 相対するは空色の毛並みに入道雲のごとき白いたてがみを生やしたスターモン。

 顔の中心には☆型の紋様が彩られていた。口元からは発達した鋭牙がのぞいて虎視眈々と獲物を狙う。前足と後ろ足を羽毛のようなうろこ雲が覆い、尻尾の先には房状の雲が煙突のように雲を吹き上げている。

 そして、その背中には帆のような一対の白い翼が生えていた。


「最終段階進化:獅子王ししおうライカリオン」


 大きな鼻頭にアースは抱きついてから立派になったふわふわのたてがみにしがみつくと、ライカリオンの首に乗った。それはまるで巨大な綿菓子の中に沈み込むようだった。アースの肩にニャンレオが乗っていたいつもとは真逆の構図である。


「ライカリオン。僕と一緒に戦ってほしい」


 アースが大きな耳元に呼びかけるとライカリオンは低い啼き声で「ガオレオ」とだけ唸る。

 百獣の王と怪獣の女王。

 ライカリオンとツクモノオロチは見合って、見合って、見つめ合い、にらみ合う。


「丸呑みにしろ」


 そんな黒星の掛け声と同時に戦いの火蓋が切られた。

 しかし、まずはじめに仕掛けたのはライカリオンのほうだった。

 ライカリオンは一足いっそく飛びに空の雲の上を飛び石の要領で疾走した。ツクモノオロチの眼前に躍り出た――その次の瞬間、空と闇のニュークは激しくぶつかりあった。


 アースと黒星卿は互いから一瞬たりとて視線を逃がさない。


 続けてライカリオンがツクモノオロチの一叉の喉笛に噛みついた。当然ツクモノオロチは悲鳴を上げてうねうねともがき逃れようとした。しかし、ライカリオンはけして離さず息の根を止めようとさらに大牙を食い込ませた。


「シャーッ!」


 だが、ツクモノオロチも黙ってはいない。その啼き声を聞きつけて他の七つの頭がライカリオンに襲いかかった。ライカリオンの前足からするすると這い昇り翼の動きを封じて、ついにはライカリオンの首元に絡みついた。そのあまりの一瞬の絞め技にライカリオンは息を呑む。


「ライカリオン!」


 アースが叫ぶと、肝心のライカリオンは分厚いフワフワのたてがみによってなんとか耐えてはいる様子で、

「ガオレーオ!」

 と、返事をした。


 アースが胸をなで下ろしたのも束の間。

 三叉のツクモノオロチが三つ編みのように絡み合うと、一本の強靱な縄が出来上がり、その縄がライカリオンの首に食い込み絞め殺しにかかった。

 しかしその危険をいち早く察知したライカリオンはその場で凶暴に暴れ回り、宙を浮くツクモノオロチの胴体部は付近に停車してあった夜夜叉の高層ビル群に激突する。バラバラと二号車の高層ビルのほうがひしゃげてしまった。

 そのツクモノオロチが怯んだ隙を見逃さず、ライカリオンは翼を羽ばたかせて入道雲を足場にして大空に飛び立った。


 危機を脱したのち上空からアースはツクモノオロチの八つの頭部に目を配るが、おかしなことにそのどこにも黒星卿の姿は見当たらなかった。


「――《黒歩》」

「ッ!」


 一瞬目を離した隙に黒星卿は刹那で距離を詰め、アースの脇腹に蹴りを入れる。続けざまにラ

 イカリオンから落馬ならぬ落獅子らくじしさせ、離れて横に吹っ飛ばされるアースの脳天に黒星卿は重いかかと落としを喰らわせた。


「グハッ!」


 高速回転しながら入道雲を突き抜けて空から落ちていくアースの残影をライカリオンは必死に追いかけた。青空が終わる前になんとかフワフワのたてがみでアースを受け止める。


「ありがとう、ライカリオン」


 ライカリオンのホイップクリームのようなたてがみにしがみつくアースはそうお礼を言った。

 アースを乗せたライカリオンは黒雨そぼ降るなか急上昇すると、アースたちを見下したように不敵に黒星卿は待ち構えていた。


「さあ、ここで白黒はっきり決着を付けようか」


 その黒星卿めがけてライカリオンは突っ込んだ。

 黒星卿は避けずに肉食獣の糸切り歯を両手で受け止め、びゅうびゅんとさらに加速していく。ライカリオンが急停止すると、黒星卿は慣性の法則の勢いのままに四号車の高層ビルの壁面に叩きつけられた。

 ビル全体にビキビキと衝撃が走る。

 バリーンと窓ガラスが蜘蛛の巣状に弾けて、そのガラスの破片がキラキラと宙を漂った。


「くっつけくっつけ! すこしの間ビル借りるよ、黒星くん」


 アースは勝手に断ってから両手を二回打ち、結んで開いて結んで開く。両手の糸を巻き巻きして内側に引き寄せると連動して四号車と五号車のビルが重々しく動き出した。キギィーッと機関車の連結部分が悲鳴を上げる。


「…………」


 黒星卿が外壁から体を起こしたときにはもう遅い。

 四号車と五号車はたい焼き器のようにぺちゃんこに黒星卿をプレスした。

 それは圧倒的なまでのあつだった。


「これでさすがの黒星くんも身動きが取れないはずだ」


 アースが安堵のため息を吐いた。

 しかしそうは問屋が卸さない。

 それから数秒後、ゴゴゴゴォーと二棟の宇宙専用コンクリートが唸りを上げた。


「……嘘でしょ」


 アースは開いた口が塞がらない。


「黒ビルの修繕費は高くつくぞ」


 なんと黒星卿は腕二本だけでビルを押し広げていた。


「貴様の命で贖え」


 あわててアースは空糸の引き締めを行うが、黒星卿は歯牙にもかけない。どころか今度は逆に黒星卿が反撃に転じる。


「《黒歩》――」


 そうは言ったものの、黒星卿は目の前のビルの間に依然として妖怪のように佇んでいた。

 それをアースが不審に思っていると、突如背筋に巨大な瘴気しょうきを感じ、さらにはフシューと冷たい息遣いが聞こえた。

 黒星卿はネタばらしするようにその愛蛇あいじゃの名前を呼ぶ。


「ツクモノオロチ」


 アースが振り返れば、大蛇がいた。

 もはや見慣れた瞬間移動だったが、ひとつだけ先ほどとは違うことにアースは身をもって知らしめられた。

 今までのは見せ球のストレートだったのだ。


 つまり《黒歩》は対象物にも使えたのだ!


 アースが理解するよりもはやくツクモノオロチの一頭が首を振り鞭のようにアースをなぶった。嬲るといっても相手は大蛇だ。

 当然かすり傷では済まない。

 アースは縦回転しながら吹っ飛ばされてビルの六号車に真正面から叩きつけられ、めり込んだ。

 その一方、ライカリオンはツクモノオロチに絡まれて、全身を緊縛のように締め付けられたせいで行動不能になってしまう。


「イッタタタァ」


 アースは分厚い窓ガラスにめり込んだ体を起こすと、コツコツと高層ビルの外壁を歩く足音が聞こえた。

 顔を上げた瞬間、黒い蹴りが飛んできた。


「ガフッ!」


 その勢いのままアースは月面宙返りムーンサルトを決めてからスタッとビルの壁面に着地するが、惜しくも膝をつく。

 磨き込まれた窓ガラス越しに黒星卿と目の合うアース。

 どうやらこの黒ビルの外壁に向かって局所的な重力が働いているようだ。


「無様無様無様」


 そして間髪入れずに黒星卿はフィギュアスケートのように華麗な足捌きからの蹴り技を仕掛けた。アースはすっくと立ち上がり、黒足の重い連蹴を受け止めながら後方に下がる。するとそのうち窓枠にかかとが引っかかってしまう。

 足下がお留守になった瞬間を黒星卿は見逃すはずもなく、足払いをかけられアースはその場で三回転した。宙に浮かぶ両足を掴まれ、黒星卿がその場で回転してジャイアントスイングするとアースの顔面は外壁に引きずられた。円状の溝が形成されたのち、仕上げはビルの外壁に何度も叩きつけられる。


 またもや顔面からビルに陥没するアースは確信する。やはり先ほどから周辺の重力場がおかしなことになっている。この黒ビルには重力発生装置か何やらが組み込まれているのか、あるいは黒星卿の能力か、はたまたその両方か。

 このビルは黒星卿のフィールドでありホームというわけだった。そんな分析を冷静にしている場合ではないことはアースも重々わかっているが……打開策のアイデアをことごとく潰されてしまう。

 一糸乱れぬ黒星卿は手をかざすと、力の入らないアースはだんだんと引き寄せられた。

 ついにはギュウッと首を絞められる。


「青き星よ、堕ちよ」

「うぐっ……!」


 歪んで散った窓ガラスの中ひとつひとつにアースと黒星卿が反射して映り込んでいた。まるでどんな因果律でもこうなっていたと言わんばかりである。


 僕らはこういう運命さだめなのか。

 いや、そんなのは絶対に認めない。認めてたまるもんか。

 それから首を絞めている黒星卿の手首をアースは両手で力強く握った。



地球ぼくは生きる」



 刹那、青黒い粒子がアースの手元に集まった。その得体の知れない雰囲気を纏う青黒い粒子に対して本能的な嫌悪を感じた黒星卿はパッと咄嗟にアースの首筋から手を離した。そののち黒星卿はピリピリとほつれる残滓の正体を図りかねる。


 拘束を解かれたアースは今度は外壁ではなく、黒ビルの真下に向かって真っ逆さまに頭から落ちていく。なぜとつぜん重力の方向が変わったのかはわからない。

 ひょっとすると青黒い粒子が関係しているのか?

 アースのその疑問の答えは出そうになかった。


 一方のライカリオンはツクモノオロチの一叉に噛みついて怯んだ隙を見逃さず、拘束を振りほどいてからアースの救援に飛んだ。


「ガオレーオ!」


 そんな咆哮が聞こえて目を閉じたままのアースが手を伸ばすと、透明な命綱を掴んだ。ターザンのようにライカリオンに引っ張られながらもアースは糸をたぐり寄せていく。やがてその先のフサフサの尻尾に行き着いた。お尻に飛びついたのち背中を伝って、たてがみにたどり着くアース。

 まるでノミの気分である。

 アースはライカリオンに跨がりながら惑星仲間たちに見守られつつ、三度みたび対峙たいじした。

 一方の黒星卿はツクモノオロチの頭にスタッと降り立つ。背後には高層ビル群が建ち並び、機関車のヘッドライトである鬼瓦の眼が睨みを利かせていた。

 須臾しゅゆ、黒星卿は闇のニュークを全開放した。


「星は互いに殺し合うことでしか輝けないものだ」

「そんなことは絶対にない!」


 それに対抗してアースも空のニュークを編み出しながら応えた。


「星は互いに引かれ合って輝くものたちのことだ!」


 母なる惑星の見守る御前で対決する二星。


「下がれ、ツクモノオロチ」

「危ないから下がっていてくれ、ライカリオン」


 そう気遣いの言葉をかけてから巨獣の頭から勢いよく二星は飛び立った。

 お互いの重力はますます強大になり導かれるように。

 見えない糸に引かれ合うように。


 かれい、ひかってゆく。


 黒星卿は貫手ぬきてに構えると、蛇のような闇のニュークが左腕から左手にかけて螺旋を描きながら這いずった。まっすぐ伸ばした貫手の先端に闇のニュークがたどり着くと、高濃度に圧縮され暗黒の球体が形成された。その暗黒球の周辺では闇のニュークが渦を巻いていた。


づらくがいい」


 一方のアースは両手を結んで開いて、また結んで開く。

 そして再度結んで、拳を作った。


「最大加速度、1億ガル」


 瞬間、幾綛いくかせの糸が紡がれて超高密度となった青白い球体がアースの右拳の先に乗った。その拳を中心として奇妙に糸がうねり、蜘蛛の巣のような幾何学模様を纏っていた。


「何度でも、きみとつむごう」


 グルグルグル。

 シュルシュルシュル。

 グングングン。

 シュンシュンシュン。


 足下にニュークの尾を引きながら二星は互いの顔の見える位置まで接近した。


「太陽系第三惑星――」

「暗黒星――」


 アースは右の拳を繰り出し――黒星卿は左の貫手を突き出した。



「《地球巨星アースインパクト》!」

「《零玉ぜろぎょく》!」


 そして激しく正面から衝突ぶつかった。

 星糸と黒穴。

 白のマントと黒のコートがバサバサとはためくなか、《地球巨星》の星合繊維スターフィラメントがプツンプツンと切断された。その白髪のような糸切れが宇宙に舞い散る。製糸工場のようにある程度の規則性を持ってぎされていた。

 アースの青白い球体から何本も糸を引き、宇宙のみなもとと繋がる。糸かけ曼荼羅のような幾何学模様があたり一面に広がった。


 一方の黒星卿の《零玉》は螺旋状のとぐろによってスターフィラメントを巻き取り、寸断する。それは鋭利なスクリューのように触れるものを見境なく傷つけるようだった。


 そののち二星のニュークはまたたく間に膨れ上がった。


「なんつーニュークの量だよ」


 傍から見ていたマーズは正直引いていた。


「……あいつら新たな星でも創る気かよ」


 それほどまでに異次元のレベルだった。

 そのマーズの横で治療中のサターンは呟く。


「引き裂く力と繋ぎ結ぶ力がせめぎ合っているわね」


 二つの球体の中心では核分裂と核融合が連続して無限永劫に繰り返されていた。


「アアアアアアアアアッッッッスゥァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ブブブブブブブブブブラッブブブブブブブブブブブラァ!」


 天の川銀河の片隅で。

 二星は心の底から叫ぶ。


 闇のニュークと空のニュークが絶え間なく化学反応を起こす。ダークマターが掻き集まって青黒い球体となり、二星を包み込んだ。

 球体の加速膨張に伴い吸引力も凄まじさを増した。

 夜夜叉機関車に連結された黒ビル、ライカリオンやツクモノオロチ、その他の惑星たちは増大する引力になんとか抗う。

 しかしそんななか、ブチブチとジュピターの《蔓延蔓ハビコカズラ》が千切れ、拘束されていたデブリンたちは無念にも青黒い球体に吸い込まれていってしまった。


 青黒い球体に近付くにつれ宇宙塵は引き延ばされた。

 局所的に時間の流れがゆっくりになっている模様が見て取れる。

 そしてついには自らの重さに耐えられなくなり、なお一層重々しい引力が増大して一気に爆縮した。


 その次の瞬間――爆縮の反動により青黒い球体は大爆発を引き起こした。


 同心円状に波動が広がると、あとの宇宙は静寂に包まれた。

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