☆★☆3
時を進めよう。
三億年後、イヴ星。
ついに八つの惑星が集結した。
マーキュリー。ヴィーナス。マーズ。ジュピター。サターン。ウラヌス。ネプチューン。プルート。
しかし末尾の惑星三兄弟については戦闘不能状態である。
マーズは後頭部で両手を組みながらにやつく。
「怒らせるといちばん怖い星がやっとお出ましか」
「それはいったい誰のことを言っているのかしら?」
最後に到着したサターンはネプチューンとプルートの兄弟を並べて寝かせ、さっそく救護に取りかかった。
「デビタン、お願いするわ」
サターンにお願いされたデビタンは「デビデビ」と足を踊らせる。サターンから放出された土のニュークを貪ると、
ちなみに漏斗はデビタンをデフォルメした際に口として描かれがちだが、実は水を噴射させたり、墨を吐いたり、排泄を行う器官である。本来の口はデビタンを真下から見たときに八本の触手の根っこの中心にあるのだ。
サターンは横に一本線の入ったヌメヌメの卵を受け取ると、手の中でビキビキと割れる。
「
茶色い黄身が漏れだしてうねうねと形を変えた――次の瞬間、うねうねの物体はデビタンの各腕に絡みつき、そして合計八本の輪っかを形成した。
「【
サターンはデビタンから三つの【天使の輪っか】を受け取ると、ウラヌスとネプチューンとプルートに向かってそれぞれ投げつけた。そのリングは三星の頭上に留まり軌道を固定したかと思えば三星は謎の光に内包された。
「太陽系第六惑星――《
そしてなんとキングブラザーズはみるみるうちに傷が癒やされていくではないか。
「すごいもんな! 無敵のスター状態やもん!」
「そんな使い勝手のいいものじゃありませんけれどね」
楽天的にうらやむジュピターにサターンは説教じみた口調で注意する。
「エンジェルハイロウは驚異的な回復力を施す反面、長時間使用すると患者はそのまま昇天して帰らぬ星になってしまいます」
「怖っ」
「そういうことだ。すでに生と死のカウントダウンが同時に始まってるんだぜ」
マーズは同意して腕を組む。
便利な能力なのでひっぱりだこだが、ハイロウを外すタイミングを見誤れば患者は簡単に死ぬ。敵に使用すれば故意に葬ることも可能なのだ。
エンジェルハイロウは毒にも薬にもなるし、天使にも悪魔にもなる能力だ。
知識や経験の浅いものが扱える代物じゃない。
「ということですので、私はこの二星から片時も目を離せません」
「ああ、わかってるぜ」
マーズは他の惑星に目配せした。
「おまえら、サターンたちを死守するぞ!」
「「おう!」」
と、惑星たちは気炎を上げたものの正直打つ手がない。
デブリンとやり合っても消耗戦になるのが関の山だ。
そんなふうに思考を巡らしていると、マーズの宇宙服を引っ張るちいさな手があった。
水星マーキュリーである。
「どうした? 名案でも閃いたのか?」
「うちゅ」
マーキュリーは頷く。
「なんだ? 言ってみやがれ」
マーズが促すとマーキュリーはモジモジしてから答えた。
「エッグ、わってもいいりゅ」
「いいのか? 本当に?」
「うちゅ」
えらい気の変わり様だったが同級星が二星もやられているので当然なのかもしれない。
あるいは必死の救護活動に勤しむサターンに感化されたか。
何にせよ、マーズは願ってもなかった。
「どうせ割るんならはじめから割ればよかったもん。そしたらネプチューンとプルートもむぐぬぐぐ……」
余計なことを口走るジュピターの口をヴィーナスが両手で塞いだ。
「マーキュリーの気が変わったらどがんすっと、このバカッパ」
「むぐぬぐぐ……ちょ、息のできんもん!」
「……うちゅ」
それなりに責任を感じてはいるらしいマーキュリーの肩をマーズは叩く。
「やっちまいな、第一星」
「うちゅ!」
マーキュリーは大きく首肯するとウォタゴンの長い首を撫でる。
「おねがいっちゅ」
するとウォタゴンは待ってましたと言わんばかりに水のニュークを大量に食べる。ムクムクと体が大きくなり突如ウォタゴンは光に包まれた。
「あれは……|第Ⅱ段階進化じゃねえか」
マーズが呟くと同時にその姿があらわとなる。
「ステージ
首長竜は一回り大きく成長して顔と四つのヒレは甲冑に覆われており、堅牢な雰囲気を纏っていた。
「ありがとちゅ」
マーキュリーは舌足らずなお礼を言うと、すでに手に持っていたマーキュリーエッグがビキビキと音を立てて割れる。
「マーキュリーエッグ、ハッチュアウト!」
流麗な黄身は流れるようにマーキュリーの足に纏わり付いた。それは綺麗な尾ビレに変身する。しなやかなで美しく硬質な鱗の一枚一枚が宝石のように光り輝いた。
【
マーキュリーが
時を同じくして、チャージ完了したデブリンたちは火車を一斉掃射した。
「うげっ! また火車の来るとばってん!」
「うちゅ。まかしぇて」
マーキュリーはヴィーナスにそういうとなんと宇宙を泳ぎ出したではないか。しかも尾ビレを振るたびに鱗の隙間から大量の水が
「太陽系第一惑星――《
マーキュリーは辺りをぐるぐると旋回するとあっという間に水のリングが広がった。それが防火堤の役割を果たしてデブリンたちの吐く火はバシューッと見事消火された。
しかし、そこで一匹のデブリンが満を持して前に出る。
バチバチッとイカヅチを含んだ口を醜く歪ませたのち、カミナリデブリンは水車に向かってイカヅチブレスを吐き出した。
直撃すればマーキュリーはネプチューンの二の舞になってしまう。
誰もがそう思ったまさにそのとき。
「スイギドラ――《
マーキュリーがスイギドラに指示を飛ばす。
スイギドラは「スイギスイギ」と鳴いてから長い口に水銀を溜めると、一気に吐き出した。
「ばかやろう! 感電するぞ!」
マーズが怒声をあげるが、マーキュリーカノンは止まらず一直線に稲妻と激突した。
宇宙で水と油のように反目しあう。
しかし、マーズの予想に反して感電は起きなかった。
「どうなってやがんだ?」
首をかしげるマーズにサターンが解説を加える。
「たぶんだけど、金属‐絶縁体転移が起こったんじゃないかしら」
「なんだそりゃ?」
「要するに水銀砲はHgでしょ? だから電撃と衝突した際、膨張・蒸発して気体となる寸前に臨界点を突破したんじゃないかって。そして臨界密度が減少して超臨界流体となり絶縁体に転移した」
「……それをあのマーキュリーが計算でやったってのか?」
「私に聞かれても知らないわよ、そんなの」
戦況から目線を切って患者に向きなおるサターン。
ともあれ、
「さあて、そろそろおいらの出番やもんな」
すると、この短時間で何があったのかしわっしわに枯れたジュピターが前に出るとヴィーナスは白目を剥く。
「なんかめっちゃ枯れとるとばってん!?」
ジュピターはよぼよぼのお爺さんのように腰を曲げてフラフラと宇宙空間を漂っていた。カッペエがメロンソーダをジュピターの頭の皿にかけてなんとか一命を取り留めている状態である。
「しかもガチでバリハゲとるやん……」
「水さえ浴びればフッサフサだもん」
そう言って、ジュピターはおもむろに皿の頭から水車に突入した。河童の川流れのように水のリングプールを一周する頃には元通りにピッチピチに戻っていた。
「水、うんめえ! 星三つだもんな!」
甲羅の大樹も息を吹き返し、水中でジュピターは水かきのピンと張った拳を打ち鳴らす。
「これで生き返ったもん!」
スイギドラが足止めしている隙にジュピターは両手を大きく広げると、それに呼応するように甲羅から生えた大樹が胎動する。
「惑星直列・
瞬間、大樹から幾本もの蔓が勢いよく伸びて交錯しながら動きの鈍いデブリンたちをがんじがらめにして、あっという間に拘束した。動けば動くほどに蔓は絡まり締め付ける。
こうして厄介な邪魔者を封じることに成功した。
「あとはおまえだけだぜ。社長さんよ」
マーズたち惑星は奥に構える黒星卿を見つめる。
「ブブブブブ。よかろう」
黒星卿は柄尻に束ねていた両手を解き、左手で黒鬼丸を構えると刀身が鈍く黒光った。
「
今、最終決戦の幕が切って落とされた。
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