第6星 白黒写真
☆1
三億年ぶりに、黒星卿とアースは対峙した。
目の前のこの
両者、視線を交錯させて火花を散らすと、先に口を開いたのは黒星卿だった。
その視線は白星に向けられている。
「二星のみで落ち合う約束のはずだ、シロ」
「うん。そうだったんだけどさ」
白星はあっけらかんと答える。
「来る途中で面白そうな星を見つけたから誘ったんだ。これもラッキーな縁だと思ってさ」
「
難色を示す黒星卿はアースに向き直る。
「おのれの星に帰れ」
「あまり歓迎されてないみたいだし僕は帰るよ、自分の星に」
「あっ、待ってってば!」
シュワッチと飛び立とうとしたアースの手を白星は掴む。
「離してよ、白星くん」
「いいや離さない」
二星はすったもんだやっていると、見かねて黒星卿も加わる。
「離せ」
「離さない」
「離してよ」
「いやだ、離れたくない」
「離せってば」
「離れない」
「この聞き分けのない愚星が」
アースと黒星卿の二星がかりでもけっきょく白星はアースから離れなかった。
いつの間にか、三星は小惑星・秘密星の周りの宇宙空間でくるくると回っていると遠心力により徐々に足が浮き上がって三枚のプロペラのような格好になる。
それを夏の大三角が遙か遠くから見守っていた。
「アハッ」
突如、噴き出した白星。
「アハハ! アッハッハッハッハ!」
それがあまりにも楽しそうに笑うので。
つられてアースと黒星も笑ってしまう。
「あはは。あっはっはっはっは!」
「ブブブ。ブラッブラッブラッ」
あーあ、おかしい。
「……なぁに笑ってるパン」
一方、真っ白い図体をしたマルパンはドン引きしていた。
「おまえらバカなのか?」
「きみこそ、語尾のパンをすっかり忘れてるよ?」
どんだけ引いてんだよ。
アースが白い目を向ける隣で白星は寛容に言う。
「まったく語尾のパンを忘れるなんてマルパンはおっちょこちょいだね」
「いやぁ~それほどでもないパン」
マルパンにはとことん甘い白星だった。
なんだかこのアベック怖い……。
天然でやってそうなのがまた。
アースがそう思っていると、黒星はすこし距離を置いてそっぽを向く。
「ブブ。実にくだらん」
すると白星がポンッと手を打つ。
「よぉし。みんな仲良くなったところで――」
「なったのかなぁ」
「悪い冗談だ」
アースと黒星が同時に言った。
「ほら二星とも息ぴったし」
そう言って白星は笑うと、アースと黒星はバツが悪くなった。
「じゃあ計画どおりに」
白星がパルムフォンを操作する。
瞬間、ヘッドライトがピカッと光ってから両手で印を結んだ。
「えっと白星くん、きみは忍者だったのかい?」
「あはは、そんなわけないだろ。これは影絵をハンドジェスチャーに設定してるんだ」
「はあ……影絵」
「タロウは心配しなくてもダイジョウブイだよ。これで来るはずだからよく見てなって」
白星は無邪気に笑ってから、
「狐、猫、蝸牛、兎、蛇、蛙、蝶」
と、器用にパルムフォンを嵌めた手で影を結ぶ。
ヘッドライトは星間物質の雲に散乱して巨大な影絵が投影された。
すると前方からなにやら白くて巨大な丸い物体が推進してくる。
どうやら霊魂の類いではなさそうだ。
白星はそれを体全体でやさしく受け止めた。
「どう? すごいでしょ? この日のためにこしらえたのさ」
「だいぶ奮発したね」
それは電波望遠鏡だった。直径306メートルのパラボラアンテナはUFOを思わせ、上方には三本のマストでアンテナが吊り下げられている。
アースはつい目を奪われた。
「こんな大層なものどうやって用意したの?」
「とある神童に造ってもらったのさ」
「……神童」
この時代のイヴ星の神童といえば、アースはひとりしか思いつかない。
「ガリレオ・ガオレイ」
「おっとラッキー。タロウはガオレイを知っていたんだね」
「そうだね。ラッキーだった、ほんとうに」
もし第一村星として彼に会っていなかったと思ったら、アースはゾッとする。
「ちなみにこのパルムフォンも宇宙服も彼が発明したものだよ」
白星は同輩を自慢げに紹介した。
アースはふと尋ねる。
「で、その
「うん。呼びには行ったんだけどね。宇宙服を着装するのが面倒臭いらしい。実験報告さえしてくれればいいってさ」
彼は気まぐれだから。
と、白星は残念そうな表情をしたのち、一転瞳を星のように輝かせる。
「でも、その帰りにタロウに会えたんだからラッキーだったね。タロウはラッキースターだ」
「それは果たしてラッキーなのかな」
アースが戸惑っていると黒星が冷徹に言い放つ。
「いつまで
「うん。クロの言うとおりだ。じゃあさっそく始めようか」
「え? 始めるって何を?」
白星に訊くアース。
「そういえばまだタロウには言ってなかったね」
そして白星は満面の笑みで答えた。
「これから宇宙に向けてスターノウト・メッセージを送る。宇宙を旅する仲間を募集するんだ」
「スターノウト・メッセージ?」
アースはオウム返しした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます