☆★☆★4
一方、ブラック企業にスポイルされたアースの妹――ムーンは社長室に通された。
ウサボンとともに黒革のソファにちょこんと座って部屋を見回す。
壁には黒星卿のアベックであるヴェノコの魚拓ならぬ
そして、なぜか短冊の掛けられた季節はずれの笹が立てられていた。
その前には『秘書』と書かれたプレートの置いてある机。そこではモノクロの生物が電話番を務めている。カラフルな短冊の腕章を嵌めた手にはダイヤル式黒電話の受話器を持ち、丸い耳に押し当てると、コードをくるくると案外するどい指に巻き付けていた。
「ブラックホール缶を20ダースパンね。かしこまりパン」
目元、四肢、胸部は黒く、それ以外は白い毛並みという実に奇妙なカラーリングである。
「じゃあ期日までに納品するパン」
そう言って、ガチャリと黒電話の受話器を置いてからその生物はムーンに挨拶をする。
「パンにちわ☆!」
元気がいい。
しかし、今ありえないことが起こっている。
ムーンは堪えきれずに驚きの声を漏らした。
「スターモンが……喋ってる!?」
「そりゃあ、スターモンだって喋るパンよ」
電話番のスターモンは白黒と目を丸める。
「ボクの名前はマルパン☆。きみたちの名前は?」
マルパンと名乗ったスターモンは表情豊かに愛想よく尋ねる。
スターモンと言語を介すという初めての経験に戸惑いながらも、ムーンは答えた。
「私は太陽学校衛星組の月ムーン。こっちはアベックのウサボン」
「ムーンパンとウサボンパンね」
ウサボンは特徴的な前歯を出してからピンキーブーツのヒールで地団駄を踏み、マルパンを睨みつけ威嚇した。
「おっと別に危害は加えるつもりはないパン。怖い思いをさせて悪かったパン」
意外にもマルパンはあっさり謝罪する。
「でも、本当にお兄さんにそっくりパンね。同じ匂いがするパン」
「え?」
ムーンは聞き捨てならなかった。
「わたしのお兄ちゃん……
「知ってるパンよ」
微笑みながらマルパンは立ち上がると、横の棚から大量の小袋を腕に抱える。
「お兄パンが憶えてるかどうかは知らんパンけど、そのへんの話も含めて説明するパン」
そのままムーンの目の前の机に山のように小袋をうずたかく積んでから、対面のソファにドスンと座った。
その小袋には『笹の葉パン(占い短冊入り)』と明記されている。
「お好きにどうぞパン」
「どうも」
どれだけ勧められてもムーンは食欲など起きるわけもない。
だって誘拐されているのだ。
そんなムーンに構わず、マルパンは小袋を鋭い爪で引き裂いて笹の葉パンを食べる。
「ぽふもふ。絶品パン☆」
本当にスターモンなのか怪しくなってきた。
実は着ぐるみを着ただけの星なんじゃなかろうか。
ムーンは疑念を募らせる。
「あー間違って、パンの中に入ってた占い短冊まで食べちゃったパン」
てへぺろパン☆、と茶目っ気たっぷりに言うマルパン。
「マルパンはこう見えて占いとか信じるタイプなのパン」
「知らないけど……」
「大吉が出るまでまぁーた笹の葉パンを食べなくちゃいけなくなったパン」
「……食欲旺盛なんだね」
「そうパンよ。マルパンの胃袋はブラックホール級パン」
「はあ」
ムーンは話を元に戻す。
「それはそうと、マルパンはわたしのお兄ちゃんとどこで知り合ったの?」
「あっ、そうパンそうパン」
すると、マルパンは腹部をまさぐりどこからか一葉の白黒写真を取り出した。
「…………」
ますます着ぐるみ説が濃厚になってくる。
今おなかのあたりから引き出したように見えたが……。
白いジト目を向けてからムーンはその白黒写真をのぞき込むと、驚愕する。
「これは……そんな、ありえない」
「懐かしいパン」
絶句するムーンを無視して、愛おしそうに白黒写真を眺めながらマルパンは回顧した。
「あれは例年よりも暑い七夕の日だったパン」
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