☆★☆3

 日はとっぷりと暮れていた。

 ニャンレオの眼がギラッと光る。


「太陽先生も眠りについた頃合いか」


 それからアースたちは星混みの中を遅々として進んでいる。

 通りすがりの星々をムーンがメロメロにさせるのをアースは呑気に眺めていた。


「お兄ちゃん、こっちこっち」


 すると、ムーンに手を引かれた。

 手に温もりを感じながらアースが黙って付いていくとお面屋の前に出る。


「わたしからお兄ちゃんに卒業祝いのプレゼントをさせてほしいの。好きなお面をどうぞ」

「好きなお面、ね」


 ひょっとこ。般若。昆虫仮面。エイリアン。ロボットと多種多様のお面が取り揃えられているが。


「でもせっかくだし、ムーンが選んでくれよ。そのほうがきっと記念になる」

「えーっと、じゃあそうだね」


 妹はお面たちとにらめっこを繰り広げる。

 そしてその中でもついつい口元を緩めて負けてしまったお面を手に取った。


「じゃあ、お兄ちゃんにはこれをプレゼントします」


 そう言って、ムーンが手に取ったのは――猫面だった。

 鼻から上が隠れるタイプの面で白地に赤ヒゲが伸びている。おでこには肉球、こめかみ部分には黄金の鈴が鳴る。装着の際は紅緒で結ぶタイプのようだ。


「ありがとう。大事にするよ」


 ありがたく受け取ってからアースは試しに付けてみる。


「どうだ? 悪くないだろう?」

「うーん。なんか怪しい」

「……まあ、お面ってそういうもんだからね」


 しかし、アースはなかなかに気に入った。

 なんだろう、この何でもできる感じは。

 言うなれば正義の味方。あるいは匿名の変態にでもなった気分だ。


「ムーンが僕の妹でよかったよ」


 だから、こんなことも言えてしまう。


「僕はムーンの兄であることを誇りに思う」

「お兄ちゃん」


 その言葉に頬を紅潮させて顔を伏せるムーン。


「私もお兄ちゃんが――」


 そしてムーンが何か言いかけたところで。

 ヒュ~~~~~~と、鏑矢かぶらやのような音がした。

 その次の瞬間。

 

 ドッカーン!


 と、祭りの風物詩である花火が爆散した。

 アースは猫面を外してからカラフルな炎色反応に思わず眼を細めると、花火は続々と打ち上がった。

 長大なナイアガラ花火。夜空を覆い尽くすほどのぺェニックス花火。そして惑星花火プラネットファイアーフラワーが百花繚乱と咲き乱れ、その合計九つの惑星花火を包み込むようにして黄金の大玉花火が夜空に大輪を咲かせた。

 なんとも嬉しい卒業祝いサプライズだ。


「そっかぁ。僕は本当に卒業しちゃったんだ」


 アースが途方に暮れていると、夜空に一際大きな火のタマゴがヒュ~と打ち上がる。


 ドッカーン!


 そして暗黒世界に火の龍が出現したかと思えば、うねうねと夜空を飛び回り星座を喰らう。

 本日目玉の龍花火りゅうはなびだ。

 そんな昇り龍の迫力に地上のアースは圧倒されていると、夜空にとある未確認飛行物体を発見した。

 ためつすがめつアースが目を凝らす。

 花火を背景にして黒い星影シルエットが浮かんでおり、火龍はその星に牙を向けて襲いかかったではないか。


「あぶないっ!」


 アースが夜空の黒い星影に叫んだ――刹那。

 

 夜空の空間が歪んだ。


 同時に、火龍はグニャグニャとスパゲティーのように引き延ばされたのち、フォークで突き刺されたようにとぐろを巻く。そしてなんと最後には消滅してしまったではないか。あとには満天の花火に埋め尽くされる夜空にドス黒い穴がポッカリと空いていた。


「いったい……何が起こってるんだ?」


 その黒い穴をのぞいてアースはいやな胸騒ぎを覚えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る