第47話 最終回書いてから続き書くスタイル

「……という夢を見ていたのだった」


 翌朝。


 目覚めた直樹は呟いてみた。


 もう何度も呟いた台詞だった。


 千春の浮気、地獄のようなデマと迫害、姫麗との出会いやそれからの事。


 冴えないオタクの直樹からすると、どれもこれも夢みたいな出来事ばかりだ。


 その中でも昨日の出来事はとびきりだった。


 不安になって携帯を見る。


 ラインには昨日の夜寝落ちするまで姫麗と話した一時間程の通話履歴がしっかり残っていた。


 その前の『おやすみアッシー。大好きだよ』『俺も大好きだ』『……ちょっとだけ通話してもいい?』というやり取りも。


 確認してホッとする。


 温かな幸せと少しばかりの恥ずかしさに口元が笑った。


「まさかこの俺が、花房さんと本当に付き合う事になるとは……」


 内心直樹は、姫麗との関係はいつか終わるものだと思っていた。


 向こうが飽きるか、彼氏が出来るか、こちらから終わりを切り出すか。


 なんにしたって恋人の振りなんか永遠に続くはずはないし、あんなにいい子が自分なんかと付き合ってくれるわけはない。


 そう思って高望みはしないようにしていた。


 千春に浮気されて愛する人を失う痛みを嫌という程思い知らされた。


 こんな思いをするくらいならもう恋なんかしたくないとも思った。


 それなのに、まだ付き合ってもいない姫麗と別れることを考えると心が引き裂かれるような気持ちになった。


 いつの間にか自分は引き返す事が出来ないくらい姫麗に惹かれ、恋に落ちてしまっていたのだ。


 そこに飛び込んできた昨日の珍事だ。


 修羅場の勢いを借りてつい告白してしまった。


 上手く行くとは思っていない。


 ダメならダメで、姫麗がギャルズと仲直り出来るならそれでいいと思っていた。


 いや、本音を言えば千春に浮気された時以上に傷ついただろうが……。


 一世一代の大博打のつもりだったのだが、蓋を開けて見たら姫麗はあっさり告白を受けてくれた。


 それどころか、恋人ごっこを終わらせようとしただけでも泣いて縋りついてきた。


 どうやら姫麗も同じ気持ちだったらしい。


 自分なんかのどこにそんな魅力があるのか分からないが……。


 いや、もう俺なんかは禁止だ。


 だって直樹は本当に姫麗の彼氏になったのだ。


 これまで以上にちゃんとして、姫麗に相応しいイイ男にならなければ姫麗が笑われる。


 携帯にラインが届く。


『おはよう。もう起きてる?』

『おはよう。今起きたところ』

『そっか』

『うん』


 直樹は不安になった。


 やっぱりなかった事にして欲しいとか言われたらどうしよう。


 この期に及んでそんな事を思ってしまう。


 それっきりラインが途切れて余計に不安になる。


 なにか打とうと思うのだが、怖くて何も打てやしない。


 朝の支度がなにも手につかず、携帯を握りしめてベッドに釘付けになる。


 しばらくしてメッセージが届いた。


『……あたし達、本当に恋人同士になったんだよね?』


 直樹の頭の中では後悔を含んだ言葉で再生された。


 深呼吸すると、直樹はパンパンと頬を叩いた。


 そんなのは弱気な自分が見せる幻影だ。


 姫麗は美少女だが、中身は恋愛経験のない初心な女の子なのだ。


 不安なら、向こうの方がずっと大きいに違いない。


 ここは経験者の自分がリードしなければ。


『当然だろ。今更嫌だって言っても遅いからな?』


 ハズレだったらどうしよう。


 ドキドキしながら直樹は返した。


 返信が来るまでの時間が酷く長く感じられる。


『言わないし! アッシーこそ絶対逃がさないからね!』

『逃げないよ。だからちゃんと告白しただろ?』


 しばしの間。


『バカ』


 続けて姫麗からのメッセージ。


『大好き』

『俺も』

『ちゃんと言って』

『俺も姫麗が大好きだ』

『幸せ過ぎて死んじゃいそう』

『俺もだよ』


「……本当に夢みたいだな」


 もう一日のノルマを達成したような気持ちになりながら、直樹はいそいそと支度を開始した。


 早く学校に行って姫麗に会いたい。


 †


 昼休みを知らせるチャイムが鳴る。


 直樹は授業中も上の空で、ずっと時計を気にしていた。


 姫麗とは違うクラスだから、中々顔を合わせる機会がない。


 中休みでたまにすれ違っても、お互いに恥ずかしくてゆっくり話す雰囲気にはなれなかった。


 教室の入口に視線を向けると、ダッシュでやってきた姫麗と目が合う。


 姫麗は一年ぶりに彦星と再会した織姫みたいな顔をすると、直樹の名前を喉に詰まらせて硬直し、スススッとドアの影に身を隠した。


 直樹は挨拶の為に掲げた右手で頬を掻き、幸せな苦笑いを浮かべる。


 まったく、ビッチの名が聞いて呆れる恥ずかしがり屋だ。


「おら花ちゃん! なに恥ずかしがってんだよ!」

「ぼやぼやしてると折角のお昼休みが終わっちゃうよっ?」

「芦村~! 一緒にお昼食べるわよ!」


「ちょ、みんな!? わ、分かったから、押すなし!?」


 ギャルズに押し出される形で姫麗が教室に入って来る。


「バカ、小南。空気読めよ!」

「ラブラブなんだから、邪魔しちゃ悪いよっ」

「え~! あたしも一緒にお昼食べたい~!」


 リンダが駄々をこねる小南の首根っこを掴んで連行する。


「また今度な!」


 直樹が手を振ると、美兎が意味深な目で「お幸せに~っ」と片目を瞑った。


「ちょ、みんな!? おいてかないでよ!?」


 取り残された姫麗が困り顔で右往左往。

 直樹は立ち上がって姫麗を迎えに行った。


「俺と二人じゃ嫌か?」


 ニヤリとして笑いかける。


 姫麗はビクリとして赤くなると、蕩けた顔で直樹に見惚れた。


「……なわけないじゃん。言わせんなし」


 へにょんと肩にパンチする。


「じゃあ行くか」

「……ん」


 しおらしくなった姫麗を引き連れて教室を出る。


「ヒュー!」


 茶化す鷲也に背中で中指を立てた。



――お知らせ――


 完結にすると続き書けないってマ?


 エタってばっかだから知らなかった……。


 連載状態に戻すね……。


 とりま最終回書いたからこれからはのんびり続き書いてくんでよろしく~。


 最終回と違う流れになったら分岐したんだなって思ってちょ。


 あと、「……という夢を見ていたのだった」は最終回が夢落ちだったって意味じゃないから念のため。

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