第41話 近所のマックで女子高生がチンポの話をしていた件

「だからよぉ! やっぱあのドチンポ野郎は女の敵で、最低最悪のクズ野郎なんだって!」


 ダダンダンダダン!


 激しい台パンと共に、近所のマックに女子高生の魂のシャウトが響き渡る。


 言ったのは180くらいありそうなムッチムチの金髪黒ギャル、大山リンダだ。


 ボックス席の向かいには丸々太った贅肉中背のポッチャリ美人丸井美兎まるい みんとと、盛りギャルの仮装をした女児にしか見えないちびっ子の堀宮小南ほりみや こなんが座っている。


 三人は姫麗の親友で、取り巻きのギャル軍団と呼ばれる勢力の古参メンバーだった。


 三人とも孤立している所を姫麗に救われた過去を持つ。


 リンダは恵まれ過ぎた体格と人相の悪さから不良扱いされて周りから恐れられていた。


 美兎は優しすぎる性格と太りやすい体質のせいで美豚びとんと呼ばれイジメられていた。


 小南は高飛車な性格と幼女体型のせいでロリ宮と呼ばれてバカにされていた。


 他のメンバーもみんな訳ありである。


 それが今は、姫麗のお陰で友達も沢山出来き、イジメられることなく平和な学校生活を謳歌している。


「リンちゃんっ、パブリックスペースで男性器の名前叫んじゃだめだよっ」

「そーよリンダ! アンタのせいでみんなドン引きしてお店がお葬式みたいな雰囲気になっちゃってるじゃない!」


 両手にギガマックを構えながら美兎。


 隣ではハッピーセットのオマケで遊んでいた小南が呆れている。


「あぁん!?」


 リンダは猛獣みたいな顔で眉間に皺を寄せると、ドチンポ発言に凍り付く店内をギロリと見渡した。


「「「ヒィッ!」」」


 ストリートファイターの新キャラみたいなガタイのリンダである。


 凶悪な人相も相まって目の合った客や店員が慌てて視線を逸らしていく。


「……確かにその通りだ。マックの皆さん! ごめんなさい!」


 ドスの効いたハスキーボイスで謝ると、リンダはガツンと山盛りのメニューが並んだテーブルに頭突きをした。


「謝れて偉いっ!」

「ふんだ。やればできるじゃない」


 美兎がパチパチと小さく拍手をし、小南は謎の上から目線で後ろ髪を撫で上げた。


(バカなのかな?)

(バカなんだろうな)

(なんだバカか)


 店内の人々は納得してそれぞれの日常に回帰する。


「って、そんな事よりヤリ村だよ! あんな奴花ちゃんの彼氏にしといていいのかって話!」 


 テーブルをドカドカ叩いてリンダが声を荒げる。


 リンダは以前から直樹の事を気にくわない奴だと思っていた。


 だって大好きな姫麗の彼氏だ。


 その時点で気にくわない。


 しかもヤリチンだ。


 論外である。


「それはわたしも思ってたけど……。姫麗ちゃんが選んだ相手だし……」

「そうよリンダ! 姫麗だって心配しないでって言ってたじゃない! 姫麗の言う事が信じられないって言うの!」

「そうは言ってねぇけどよ……。でも、花ちゃんだって間違う事はあんだろ?」

「それはそうね!」


 あっさり小南が掌を返す。


「小南ちゃん……」

「なによ? 文句あるわけ?」

「ぅぅん。お口にソースついてるなって」


 美兎がハンカチを取り出すと、当然のように小南がロリ顏を差し出す。


 大人しく顔を拭かれている姿はまるで母子だ。


「うん。これで綺麗」

「ありがと美兎! 褒めてあげるわ!」


 ニコニコでむにゅ~っとKカップおっぱいのくっついた特盛ボディに抱きつくと、小南は小さな指先をリンダに向ける。


「ていうか! そもそもリンダが色んな男とセックスするなとか言うからこうなったんじゃない!」

「小南ちゃんっ!? しぃっ!」


 慌てて美兎が人差し指を立てるが。


「どうしてよ! セックスは保健の授業で習う真面目な言葉でしょう?」

「そ、そうだけど……」


 真面目な顔で言う小南に美兎はタジタジだ。


 他の客も幼女にしか見えない小南のセックス発言に複雑な感情を抱いている様子である。


「だって! 花ちゃんが知らない男とヤリまくってたら嫌だろ!」


(どういう状況なんだ!?)


 リンダの言葉に店内の客達は興味津々である。


「そりゃ嫌だけど……」

「それが姫麗なんだから仕方ないでしょう? 誰にだって欠点はあるわよ」 

「そりゃそうだけどさぁ……。てか、オレだってまさかヤリチン野郎とくっつくとは思わねぇだろ! てか、誰ともくっついてなんか欲しくないし! むしろオレの女彼氏になって欲しいし!」

「なによ女彼氏って」

「決まってんだろ。女の子の彼氏だよ!」

「なにそれズルい! だったらあたしも姫麗の事女彼氏にしたいわよ!」

「落ち着いて小南ちゃんっ!。そんな言葉ないからっ!」

「ないの!? 騙したわねリンダ!」

「騙してねぇし! 無きゃ作ればいいだけだろ!」

「確かに! あんたにしては冴えてるわね!」


(なんなんだこのカオスな会話は!?)


 ツッコミ不足に客達は悶々とした。


「てか、美兎だって姫麗が本当にヤリマンなのか疑ってただろ? だから意地になってヤリ村なんかと付き合ったんじゃねぇの?」

「えぇっ!?」


 急に矛先が向いて美兎が慌てる。


「だ、だってぇ。他の子の恋愛相談にのってる時の姫麗ちゃん、なんか様子おかしかったんだもんっ。エッチなアドバイスもわたしの知ってる話と違ってたし……」

「それ、美兎がいつも読んでるエロ本の話だろ? 作り話なんだから違ってて当然だろ」

「おっきな声で言わないでっ! それに、レディコミはエロ本じゃないもんっ!」

「もごもがっ!?」


 美兎の鋼鉄の肉の爪アイアンミートクローがリンダの顔を鷲掴みにする。


 普段は温厚だが、潜在的な戦闘力はリンダ以上の美兎である。


「やめなさいよ二人とも! あたし達は友達なのよ! 喧嘩したら……うぇ、えぐ、嫌なんだから! うぁあああああん!」

「ご、ごめんね小南ちゃんっ!」

「お、オレが悪かった! ほら、仲直りのハグだ!」


 テーブル越しにリンダと美兎が抱き合う。


 特大おっぱいのぶつかり合いに男性客の喉ぼとけが揺れる。


「う、うぅ……。あたしも混ぜなさいよ……」


 小さな鼻をスンスン鳴らしながら小南もハグに加わる。


 謎の儀式が一段落すると。


「とにかくだ。誰のせいとかこの際どーでもいいだろ。問題はヤリ村だ! あの野郎冴えないオタクの振りして元カノ騙して、裏で女食いまくってたドチンポ野郎なんだよ!」


 昼休みに偶然出会った千春から聞いた話である。


 学校では急に直樹がイケメンになったように思われているが、あれこそが直樹の腐った正体なのだ。直樹はどこぞの女子大生と浮気して、あっさり千春を振ったのだ。それだけでも酷いのに、その女子大生も振って今度は姫麗と付き合っている。直樹は優しいふりとセックスを武器に相手の女を虜にし、いきなり振って絶望させるのが大好きな歪んだ性癖を持つサイコパス野郎なのである。それで千春は次の標的にされている姫麗を心配していたらしい。


 どうにかしたいが姫麗は直樹にぞっこんLOVEだ。


 それでリンダは仲間であり親友の二人に相談したというわけだった。


「それが本当なら絶対に許せないわよ!」


 ポカポカと小南がテーブルを叩く。


「本当に決まってんだろ! 本人が言ってたんだぜ!」

「そうかなぁっ。その人、ヤリ村君の元カノさんなんでしょ? 実は浮気したのは元カノさんの方で、姫麗ちゃんと付き合ってる元彼君に嫉妬して嘘ついてるって可能性もあるよ? ヤリ村君がヤリチンってのも元カノさんがでっち上げた嘘で、姫麗ちゃんは傷心のヤリ村君を助ける為に彼女の振りしてるの。姫麗ちゃんも本当はヤリマンの振りしてる処女で、嘘がバレないように二人でヤリチンとヤリマンの振りしてるんだよ。これなら全部つじつまが合うんじゃないかな?」

「いやいや、流石にないだろ。エロ本の読みすぎだって」

「そうかなぁ。意外にいい線行ってると思うんだけど……」

「うぅ~、どういう事? 難し過ぎて全然意味がわかんないわよ!」


 小南が目を回しながら頭を抱える。


 昼ドラも真っ青の展開に聞き耳を立てていたギャラリーも興味津々だ。


「なんだよ美兎。やけにヤリ村の事かばうじゃねぇか」


 不愉快そうにリンダが目を細める。


「ヤリ村君を庇ってるわけじゃないよ……。わたしはただ、姫麗ちゃんを信じたいだけ。あの姫麗ちゃんがそんな下衆い男に簡単に騙されるとは思えないし。姫麗ちゃんがヤリマンっていうのもやっぱり違うんじゃないかと思うの。もし二人が真剣に付き合ってるなら、邪魔したら悪いよ。ヤリ村君と付き合ってからの姫麗ちゃん、すっごい楽しそうだもん」

「毎日のように家に入り浸ってパコパコパコパコ。やってらんねぇよ! オレは気に入らねぇな!」

「よくわかんないけど、姫麗が幸せならそれが一番よ! あたし達はみんな姫麗に助けて貰ったんだから、今度はあたし達が姫麗を助けてあげなきゃ!」

「だ~か~ら~! ヤリ村なんかと付き合ったままにしておけねぇって言ってんの!」

「わたしはそっとしておいてあげた方がいいと思う……。その元カノさんが嘘ついてる可能性もあるわけだし……」

「それで手遅れになったらどうすんだよ!」

「わたし達が余計な事して二人の関係が壊れたら責任取れないよっ!」

「喧嘩はだめええええええ!」


 小さな体を目一杯使って小南が二人の間に割って入る。


「ようはヤリ村が姫麗の彼氏に相応しいかどうかって話でしょ? だったらあたし達で確かめたらいいじゃない!」


 小南の言葉に二人はハッとする。


「それだよ小南!」

「小南ちゃん、天才っ!」


 褒められて、小南は平らな胸を張った。


「ふふんっ。それ程でもあるけど? ご褒美に頭を撫でさせてあげるわ!」

「よしよ~し」

「いい子いいこ~」


 そういう訳で作戦会議が始まった。

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