第28話 レイヤーチート

 今回のデートの舞台であるファンタジーランドについて簡単に解説する。


 千葉県にあるネズミ王国のファンタジー版、あるいはドラクエ的なコッテコテのRPG版だと思って貰えれば分かりやすい。


 入場ゲートはファンタジーランドへと通じる異界の門になっており、その先は牧歌的な始まりの村へと繋がっている。中心には巨大な王城のそびえる王都エリアがあり、周囲にはエルフの住む古代の森エリア、ドワーフの住む鉱山エリア、魔法学園のある魔法エリア、人魚の住む海エリアやピラミッドのある砂漠エリア、未来世界と繋がった未来エリア等、いかにもファンタジーな各種エリアが取り囲んでいる。


 それだけでも十分魅力的なファンタジーランドなのだが、最大の特徴はコラボイベントの多さである。


 異界の門を通じて別世界と繋がったという設定で、一年中なにかしらのコラボイベントを行っているのだ。


 角川異世界転生コラボでは各エリアに大人気異世界転生作品のキャラが登場し、コラボグッズや施設内アナウンスの吹き替えを行ったりしていた。


 それだけ聞くとオタク臭いテーマパークなのだが、ARアプリでランド内を闊歩するポケモンを捕まえられるポケモンコラボ(捕まえたポケモンはゲームに転送する事が出来た)や、額に稲妻みたいな傷のある主人公で有名な海外ファンタジーコラボ、エジプトやメキシコといった実際の国のお祭りや料理を再現した外国コラボ等、ライト層や一般人も取り込むような幅広いコラボイベントを行っているのが特徴である。


 直樹も好きな作品のコラボがある度にいきてぇええええ! と思っていたのだが、オタク嫌いの千春は嫌がるだろうし、かといって大事な彼女を置いて一人遊園地に行くのも違う気がした。


 確かにファンタジーランドはオタク系コンテンツに強いテーマパークだが、その辺のバランスをうまく取って一般層の人気も両立している。各エリアのイベントステージを使って人気アーティストのライブを行ったりもしているのだが、直樹が好きな物=オタク系でダサいと決めつけている千春には言っても無駄だろうと諦めていた。


 なので、姫麗がファンタジーランドを希望した時は正直やった! と思った。


 二人とも根はオタクだし、どうせ行くなら楽しみたいので、趣味と実益を両立できるこの場所を選んだという事らしい。


 今回のデートの趣旨は同じ学校の人間が遊びに来そうな一般人向けのデートスポットでイイ感じになってる姿を見せつけ、噂になって千春を悔しがらせてやろうというものである。


 ワンチャン千春が対抗心を燃やして浮気相手と遊びに来る可能性もあるので、昼食時にそれとなく情報をばら撒いておいた。


 服装についてだが、あの後色々話し合った結果「テーマパーク行くなら制服デートが熱くない?」と姫麗が言い出したのでそれに合わせる事になった。


 制服なら余計な出費を抑えられるので直樹も助かる。


 そう思っていたのだが。


「どうせ着るなら普通の制服じゃつまんないし。不良カップルをコンセプトにしよっか?」


 コスプレイヤーの血が騒いだのだろう。


 大はしゃぎでそんな事を言いだす。


 直樹としてはいつもの制服でよかったのだが、普段からお世話になっているのでここは姫麗の意思を尊重した。


「別にいいけど、あんまり高い服は買えないぞ」


 ファンタジーランドでデートする時点で結構な出費である。勿論直樹も楽しみにはしているのである程度は覚悟の上だが、別の制服を購入するとなるとかなり高くつく。下手したらそれだけで数万程かかるのではないだろうか。


「わ~かってるって。お金ないのはあ~しも同じだし? そこは上手くやるからさ」


 パチッとウィンクして、放課後二人で買い物に出かけた。


 やってきたのは商店街の裏通りにある怪しげな古着屋である。


「新品は高いけど、古着ならちょ~安いし!」

「なるほど……。って、マジで安いな!」


 甘い匂いのする古着屋には取り出すのに苦労するぐらいぎっちぎちに商品が吊るされていた。


 なんとなく値段を見ると、安い物は数百円、高くても数千円といった価格帯である。


「でしょでしょ? ここ、ちょ~穴場なんだ!」


 驚く直樹に得意そうに告げると、姫麗は慣れた手つきで衣類を物色し、洒落た校章入りのブレザーとチェックのズボン、斜めストライプのネクタイを持ってくる。


「これとか崩して着たらかっこよくない? おぼっちゃま学校の不良って感じで!」

「お、おぅ」


 生憎その辺のセンスは直樹には分らないが。


 姫麗が言うならそうなのだろう。


 そう思って改めて衣類を確認するのだが。


「……いや、俺の身体には大きすぎないか?」


 それくらいの事は直樹にも分かる。


 姫麗の持ってきた服は上も下も明らかにオーバーサイズだ。


「わかってるって。ここ、海外輸入の古着屋さんだから大体みんな大きいの。だから安いんだよね」

「へ~」


 どうやらイギリスとかの海外系の制服の古着らしい。


「って、サイズが合わないんじゃダメじゃないか?」

「へいアッシー! あ~しが誰か忘れてな~い?」


 当然の疑問を発する直樹に、姫麗はニヤリとして両手をチョキチョキさせる。


「……もしかして、こいつを弄って着れるように出来るのか?」

「と~ぜん! 普段は1から衣装作ってるんだよ? 既製品のお直しくらい楽勝ってわ~け。不良っぽく見せるならサイズは大きい方が良いし。小さいのを大きくするのは無理だけど、大きいのは小さく出来るしね」


 ふふんと姫麗が得意気に胸を張る。


「すげぇ……」


 直樹は感心するばかりである。


 という訳で姫麗の見立てで一式購入し、後日直した物を受け取った。


 家で着てみたらあんなにぶかぶかだった衣服がイイ感じにお直しされている。


 全体的にダボッとしているがお洒落の範囲に収まっており、鏡で見るとそ~いう着こなしですが何か? といった感じがする。


 悪ぶった髪型ともマッチしていて、それこそ不良漫画に出て来るエリート高校のワルといった雰囲気だ。


「大変だっただろ。手間賃出すよ」


「いいよいいよ! あ~しがわがまま言って併せて貰ったんだし! 普段作ってる衣装に比べたら全然大変じゃないから!」


 姫麗は全身をフルに使ってお断りの意思を示した。


 ブンブンと首を振り、少し遅れて大きな胸がブルンブルン。


「だとしてもだ。それじゃ俺の気が済まないから」

「本当良いから! こんなんでお金取ったら逆に申し訳ないし!」


 手間賃を押し付け合った結果、デートで何か奢るという事で決着した。


 †


 一方その頃、下着姿の千春は鏡の前で勝負服選びを行っていた。


「クソッタレビッチの事だから絶対直樹の服も選んでくるわよね。あたしに見せつける為にペアルックコーデの可能性もあるし。なんか面白がって当日ファンタジーランド来る子多いみたいだし。この勝負、絶対に負けられないわ! ていうか絶対勝つ! あたしの圧倒的な可愛さを見せつけて叩き潰してやるんだから!」


 隆に買って貰ったブランド物の洋服をあれこれ試すと、千春は不意にハッとした。


「って、あたしだけお洒落してもしょうがないじゃない! 向こうがペアルックコーデで来た時の為に隆にもテーマを合わせて貰わないと!」


 隆にお願いをすると虚無セックスをしなければいけないので気が引ける。


 が、どのみちデートしたら帰りにヤル事になるので諦めた。


 適当に理由をでっち上げて格好を指定すると、程なくして隆からラインが返って来る。


『それはいいけど。僕の方からも一つお願いしていいかな?』


 どうせセックスの誘いだろう。


『金城さんのお願いならもちろん』

『嬉しいな。ところで千春ちゃん。羞恥プレイって知ってる?』


 安請け合いした事を千春は後悔した。

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