第22話 ムッツリ処女はお年頃

 直樹の直樹は打ち上げ前のロケットみたいになってボクサーパンツを突き破ろうとしていた。


 姫麗が気付かないのは奇跡だった。


 余程集中しているらしく、真面目な顔でハサミを動かしている。


 だからこそ勃起がバレた時が怖い。


(ちくしょう! どうすりゃいいんだ!)


 ビッグなリトル直樹の疼きも高まる一方だ。


 触りたい。超触りたい。先っちょをぎゅっと握って疼きを鎮めたい。


 だがそんな事は許されない。


 バレたらそれこそ散髪中にシコっていると誤解される。


 李下に冠を正さずだすももの木の下で冠を直したら泥棒と間違われるぞ


(そうだ! 古典の馬場先生を思い出すんだ!)


 馬場先生は太ったヒキガエルみたいな中年女性でいつも防虫剤の臭いがした。


 男のプライドにかけて、これなら直樹の直樹も鎮まる事だろう。


 そう思ったのだが……。


(――効果がない、だとぉ!?)


 馬場先生の水着姿をもってしても目の前にいるセクシーギャルの色気には敵わなかった。


 むしろ馬場先生で勃起しているような気がして気分が悪くなってきた。


「ん~。流石あ~し。イイ感じぃ! ワルなイメージにしたいからちょっと刈り上げちゃってもいい?」

「あ、あぁ! 好きにしてくれ!」

「じゃあ好きにしちゃいま~す。ちょっと頭借りるね」


 左手で直樹の額を押さえると、姫麗は小型のバリカンを使ってもみあげを剃り始めた。


 肩から後頭部にかけてもっちりとした感触がむにょんと触れる。


(や、やばいっ!?)


 童貞なら既に三度は発射しているだろう。


 非童貞の直樹でもこれはきつかった。


 相棒の猛る音がミチミチと聞こえそうな程である。


(……こうなったら最後の手段だ……)


 これだけは使いたくなかったのだが。


 直樹は体育の剛田先生を想像した。


 剛田先生は毛むくじゃらで汗臭い中年男である。


 夏場は腋の下に汗染みが浮いて酸っぱい匂いがする。


(……やったか!?)


 さしもの相棒もこれには怯んだ。


 だが発射の心配がなくなっただけで依然垂直状態である事には変わりない。


(……なら、これでどうだ!)


 直樹は剛田先生と馬場先生が水着姿でイチャイチャしている姿を想像した。


 吐き気がした。


 いやマジで。


 二人とも良い先生ではあるのだが。


 ともかく、この様子なら暫くすれば直樹の直樹も落ち着くだろう。


 ホッとして顔を上げると目の前に立つ姫麗と目が合った。


「「あっ」」


 若い男女の体臭が混ざり合った風呂場に二人の声が反響する。


 いつの間にか姫麗は散髪の手を止めていた。


 今はびっくりした表情で斜めに持ち上がった直樹の直樹を凝視している。


「……ぃや、その、これは……。納めようと努力はしたんだが……」


 涙目になって直樹は言い訳をした。


 恥ずかしさに耳まで赤くなる。


 その癖相棒は鎖から解き放たれた猛牛みたいにブルンブルン暴れている。


 姫麗の顏も赤くなった。


 口元が三日月型に笑う。


「……ふ~ん。アッシー、人が真面目に髪切ってあげてるのにエッチな気分になっちゃったんだぁ?」


 嬲るような声に相棒が起立する。


「……ごめん、なさい」


 直樹は死にたい気分だった。


 それなのに、相棒は痛いくらいに張り詰めている。


「まぁ、仕方ないよね。あ~しはこの通りスタイル抜群のエロエロ美少女だしぃ? 生理現象なんでしょ?」

「……はぃ。スイマセン……」

「あははは! も~! そんな謝んなくていいって! 裸見せ合った仲じゃん? アッシーがなんもしないのは分かってるし、それくらいあ~しが魅力的だって事でしょ? 悪い気はしないから」


 爽やかに笑うと姫麗は作業を再開した。


「……もう、アッシーってば本当可愛いんだから」


 なんて呟きつつ。


 想像したような展開にならずに済んで直樹はホッとした。


 緊張が解けると相棒の強張りも少しは楽になる。


「……そう言ってくれると助かる」

「うむ」


 しばらく無言で手を動かす。


「……それってさぁ、辛かったりするの?」

「……まぁ、それなりに」

「……ふ~ん」


 どんなつもりで聞いたのか。


 不思議に思っていると、また間を置いて姫麗が呟く。


「……もどかしいなら、ここでしちゃっても別にいいけど」

「……は?」


 平静を装ってはいるが、姫麗の顏はムッツリスケベのそれだった。


「と、特別授業の一環って事で。誰にも言わないし。お風呂なら流しちゃえば済むでしょ?」

「……変態」


 ジト目になって直樹は言った。


「ち、違うし! 勉強熱心なだけ! ただの好奇心だから!」

「そんな事言って、俺がシコってる所見たいだけだろ……」


 言い訳する姫麗の顏は完全にエロガキのそれだった。


「だって気になるじゃん!」


 言いながら、姫麗がもどかしそうに太ももを擦り合わせる。


「……まさか、お前もか?」


 直樹の反応にビクリとして、姫麗の顔が一気に赤くなった。


「わ、悪い!? 男子と同じで女の子だって興奮する事あるんだから! アッシーが変なの見せるからぁ!?」


 涙目になって姫麗が言い訳する。


 多分パンツの中が似たような危機的状況になっているのだろう。


「俺が悪かった。とにかく早く終わらせるよう。このままじゃ間違いが起きる」


 直樹は風呂場のドアを開けて換気した。


 男女の熱っぽい体臭がなくなると少しは気分も楽になる。


「あ、アッシーがエッチなのが悪いんだからね……」


 赤い顔で姫麗がむくれる。


「どこがだよ」

「全部! パンイチだし、エッチな匂いするし、反応もエッチだしぃ!?」


 まったくもって理解不能である。


 だが、それはお互い様なのだろう。


 むしろ処女の姫麗の方がこういうシチュエーションには弱いのかもしれない。


 エッチな気分になって思考がバグっているのだ。


「わかった。携帯でVの動画でも流そう。そうすりゃ少しは気も紛れるだろ」

「……だね。このままじゃあ~し、どうにかなっちゃいそうだよ……」


 目をグルグルさせると、姫麗は火照りを鎮めるようにシャツの胸元をパタパタと仰いだ。

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