第21話 お風呂回

 花房姫麗は美少女である。


 そのせいで女子には疎まれ、振った男子には逆恨みされて孤立した。


 オタク文化はボッチを救う。


 孤独な姫麗は順当にオタクになった。


 アニメ、漫画、ゲームにラノベにVチューバー。


 様々なオタク文化に触れる内、誰もが思う欲求を抱く。


 憧れだ。


 自分もこんな風になりたい、こんな世界に生まれたい、こんな風に生きてみたい。


 そんな風に思っていた時に出会ったのがコスプレである。


 切っ掛けはツイッターで流れてきた一枚のコスプレ画像。


 推しのキャラが現実に飛び出したような光景に姫麗は感動した。


 早速姫麗はメルカリで中古の衣装を購入して家で着てみた。


 安物の衣装は作りが甘くサイズだって合っていなかったが、それでも世界が一変したような気がした。


 ちょ~~~~気持ち良い!


 だが、出来合いの衣装を買うのは金がかかる。


 欲しい衣装が見つかるとは限らないし、サイズやクオリティーの問題もある。


 そこで姫麗は自作する事にした。


 幸い家にはミシンがあった。


 両親も塞ぎ込んでいた姫麗に前向きな趣味が出来たと喜んで材料代くらいは支援してくれた。ユーチューブを開けば分かりやすい教材がいくらでもある。


 そして姫麗は次から次へと着たい衣装を作りまくった。


 勿論コスプレは衣装だけあればいいという物ではない。


 装備があれば欲しくなる。


 髪型だって再現したい。


 顔面を近づけるにはメイクも必要だ。


 コスプレ映えする肉体作りも欠かせない。


 そんな事をしていたら姫麗はますます綺麗で可愛くなってしまった。


 ある意味では、コスプレは美の探求でもあるのだから当然だ。


 ともかく姫麗は学んだのだ。


 可愛いは作れる!


 カッコイイも作れる!


 その気になればロリでもショタでも渋いおじさんでも人外でもなんにでもなれる!


 だって姫麗がそうだから。


 そして周りのレイヤー達がそうだったから!


「だからアッシーをイケメンにするぐらいお茶の子さいさいってわ~け」


 両手に持ったプロっぽいハサミをチョキチョキさせながら姫麗は言う。


 見た目を変えるにはまず髪型からという事で、芦村家の風呂場に来ていた。


 髪の毛がつくので直樹はパンイチでお風呂椅子に座っている。


 同じ理由で姫麗はTシャツと超ミニの短パンだ。


 どうやら直樹が浮気相手と自分を比べて落ち込んでいるのに気づいていて、最初からそのつもりで持って来ていたらしい。


「……いや、ちょっと髪型変えたくらいで俺なんかをイケメンにするのは無理があるだろ……」


 姫麗の勢いに負けて従ってしまったが直樹としては懐疑的である。


 千春と付き合えたのはたまたま幼馴染だったからだし、それ以外にモテた経験などただの一つもない直樹だった。


「シャッタ、ファック!」


 姫麗の拳骨が炸裂する。


 別に痛くはなかったが。


「もう一回俺なんかって言ったらチンチン切り落とすからね! てか、あ~しが出来るって言ってるんだから出来るの! あ~しのコスプレテク舐めないでよね!」

「姫麗を疑ってるわけじゃないけど……」


 疑わしいのは自分の顔面偏差値である。


 昔から美少女の千春と比べられてきた直樹だ。


 その辺の自信が根元からへし折れている。


「じゃあ泣き言言わない! てか金城だっけ? あ~しに言わせればあんなのただの量産型雰囲気イケメンでぜ~んぜん大した事ないし? むしろ素材の伸びしろで言ったらアッシーの方が全然あるから!」

「そんな事ないだろ――イデッ」


 また殴られた。


 後ろ向きな事しか言えない自分が悪いのだが。


「そんな事あるの! お世辞じゃなくてだよ? これでもあ~し、中学生の頃からレイヤーやってるし? 素材を見る目は養われてるわ~け。ぱっと見アッシーは無個性系のモブ顔だけど、それって髪型とか眉毛の形に影響されやすいって事なの! 食べ物で言ったらおかずを引き立てる美味しいご飯! なんにでもなれるオールマイティーキャラって事!」

「大抵ゲームだと器用貧乏の弱キャラだよな――イデッ」


 水を差されてむくれる姫麗に「悪かったよ……」と謝る。


「まぁ、変身した自分を見たらそんな口も聞けなくなるでしょう。そんじゃ始めるよ~」


 そう言うと、姫麗は霧吹きで直樹の髪の毛を濡らし、ヘアクリップを使って幾つかのブロックに纏めていく。


 芦村家の風呂場は一般的なサイズである。


 洗い場にハイティーンが二人は当然狭い。


 パンイチで椅子に座る直樹のすぐそばを姫麗が動き回る度、むわっとした体温と共にエロい体臭が舞い踊る。


 お互いの身体が触れ合う事も少なくない。


 姫麗の太ももは見た目の白さ通りにモチっとしてすべやかでヒンヤリしていた。


(……ヤバいぞ、これは……)


 直樹の意思に反して直樹の直樹が立ち上がりはじめていた。


 というか基本的に男の子の男の子は本人の意思とは無関係に立ち上がるものなのである。


 しかもこうなるとめちゃくちゃもどかしくなる。


 神経が先端に集中してむず痒いような感覚に陥るのである。


 姫麗は真面目に作業をしている。


 そんな時に勃起しているなんてバレたら恥ずかしい。


 というか、どんな時だろうとエッチの時以外に他人に勃起していると知られるのは恥ずかしい。


 隠したいが、そんな事をしたら勃起してますと宣言するようなものである。


(……鎮まれ、鎮まれぇ……頼むから鎮まってくれぇ……)


 正座した膝の上でグッと拳を握り直樹は必死に祈った。


 だが無駄だ。


 そんな事で納まる程十代の勃起力は甘くない。


 大体千春に仕返しされてから直樹はシコっていなかった。


 直樹のお袋さんには数日分のリビドーが蓄えられている。


 勃起を鎮めるどころか暴発の危険すらあった。


(い、嫌だ! それだけは絶対に嫌だ! 勃起だけでも恥ずかしいのに、そんな事になったら絶対に嫌われる!)


 女の姫麗には男の勃起の事情など分からないだろう。


 真面目に頑張っているのにエロい目で見られていると勘違いされたら地獄だ。


(なにかないか……なにか……)


 必死になって直樹は解決策を探った。


 それでまずは学校の授業を思い出してみた。


 難しい数学や歴史の授業なんかを思い出してみる。


 だが効果はない。


 ヘアクリップを止め終えた姫麗がハサミを入れ始めたからだ。


 お風呂椅子に座った直樹の周りで中腰になってハサミを動かす。


 必然的に距離は近づき、巨大なペェが顔の近くで静かに揺れる。


 甘い体臭がピンク色の霧のように淫靡に香った。


 もう、直樹の直樹はガチガチだった。

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