第13話 さてはサイコパスだなオメー
「………………直樹君が花房さんと付き合ってる?」
友人の報告に唖然とする。
(ありえないでしょ!)
というのが千春の感想だった。
直樹は千春一筋で、付き合っている時だって浮気は勿論他の女に色目を使う事もしなかった(アニメキャラを除く)。
まぁ、それについては千春は学校でも一、二を争う美少女なので当然だが。
ともかく直樹は千春にぞっこんだった。
なんの根拠もなく、将来は千春と結婚するのだというような雰囲気すら出していた程だ。
それに直樹は千春の為なら男らしい所を見せるが、自分の事となるとヘタレで繊細な面がある。
そんな直樹だから、こんな風に振られたらしばらくは凹んで新しい彼女を作る気なんか起きないはずなのだ。
大体、直樹と姫麗の間には接点だってなにもない。
精々、千春が目の敵にして悪態をついているのを隣で聞いていた事があるくらいである。その時だって俺には宇宙一可愛い彼女がいるからあんな女興味ねぇよと真顔で言っていた。
だとすれば姫麗の方から直樹を口説いた事になるはずだが、それも解せない話だった。
千春的には直樹は冴えないフツメンである。隆と比べて勝っている所は優しい所と楽しい所とエッチが上手い事くらいだろう。それだって付き合っていなければ分からない事だ。
学校の外でイケメンとヤリまくり、金持ちの親父相手に援交しまくっていると噂の姫麗がわざわざ直樹を狙うだろうか?
NOである。
それに二人はエッチしただけでなく付き合っていると言う。
直樹は千春に浮気されて女性不審になっている筈だし、ヤリマンビッチの姫麗が特定の男と付き合ったなんて話は聞いた事がない。
直樹にも姫麗と付き合う理由がないし、姫麗を落とせるような魅力もない。
おかしい。
不審だ。
すっごく嫌な感じがする。
そんな諸々を瞬時に計算しての(ありえないでしょ!)だった。
それとは別に、直樹が別の女とエッチしたという話も不愉快だった。
お互いに処女と童貞を捧げ合った仲なのに!
髪の毛からつま先まで、勿論直樹の直樹だって、全部ぜ~んぶあたしの物なのに!
浮気しておいて不思議だが、千春は裏切られた気分だった。
あるいは神聖な聖域、大事な宝物を穢されたような気分だ。
直樹も直樹だ! あたしに浮気されたのにすぐに他の女と寝るなんてどういう神経してるの! それもあんな下品な淫売のメス豚となんて! 汚らわしい! あんたそんなやっすい男じゃなかったでしょ!? あたし以外の女には興味ないって言ってたの嘘だったの!? もうマジ信じらんない! てかあんたがそんな事したらあたしの価値まで下がるじゃない! 勘弁してよ! と、内心はぐちゃぐちゃで、意味不明な涙まで込み上げる始末である。
(折角だから利用しとくけど)
そこは腹黒な千春である。
とりあえず大袈裟に泣いて見せて悲劇のヒロインポイントを稼いでおく。
「清水さん知らなかったの?」
清楚ぶって泣く千春を慰めながら意外そうに友人が言う。
正確には友人ポジというだけで、千春はこんな奴友達だなんて思っていなかったが。
元いじめられっ子の千春である。人間の醜さはよく知っている。信じられるのは自分だけ。あとは精々お人好しの直樹くらいである。
「う、ぐひゅ、あぅ……。知らないよ……。直樹君が他の子と付き合ってたなんて……」
「そうなんだ? 浮気されたって言ってたから、てっきり花房さんの事なのかと思ってた」
(やっべ)
言われてみれば、ここはヤリマンビッチに罪を擦り付けた方が得策だったかもしれない。
自分とした事が、直樹が別の女と寝た事がショックでそこまで頭が回らなかった。
(落ち着くのよ千春。とにかく冷静にならないと)
思っていた以上に千春の中でも直樹の存在が大きかった事を思い知らされる。
考えてみれば当然だ。
千春にとっても直樹は初めての彼氏で処女を捧げた相手でもあるのだ。
だからと言って未練があるわけではないが。
湧き上がる感情はどうにもならない。
大事なのは振り回されず、理性で上手くコントロールする事だ。
とりあえず、当初の話の通り直樹は別の知らない女と浮気していたという事にしておく。
姫麗との事を知らなかったのは問題ない。
向こうがどういうつもりか分からないので、下手に嘘に組み込むとボロが出る可能性がある。
ここは素直に知らない事にしておいた方が直樹ヤリチン説の信憑性が増すだろう。
直樹と千春は仲良しカップルで通っていたので、二人を知る者の中にはあの直樹が浮気をするなんて信じられない! という者もいた。
この通り千春は表面上パーフェクトな清楚系で通しているので疑う者はいなかったが。
そういう意味では、今回の出来事は千春の嘘を補強する追い風になるはずである。
(……バカな直樹。黙って大人しくしてればその内みんな忘れるのに。あんな淫売なんかと付き合ったら余計に不味い事になっちゃうじゃない)
もしかすると直樹はそれを承知で姫麗と付き合ったのかもしれない。
やけっぱちの自暴自棄になって千春の言う通り誰とでも寝る男になろうとしたのかも。
そういう不器用な所のある男なのである。
(……本当、バカな奴)
哀愁が千春の胸をチクリと刺した。
別に千春は直樹の事を嫌いになったわけではない。
将来を考えて切っただけなのだ。
今だって誰よりも愛しているとさえ言える。
だからと言って助け舟を出す気は特にないが。
(……まぁ、自業自得よね)
あたし以外の女と寝るからそういう事になるのだ。
むしろその件に関しては痛い目を見て欲しいとさえ思う。
(……他の女ならともかく、よりにもよってあんな女とくっつくなんて)
以前から千春は姫麗が大嫌いだった。
直樹だってその事はしっているはずなのに。
「じゃあ清水さん、気を付けた方がいいよ。芦村の奴、花房と一緒になって清水さんの悪口言い触らしてるみたいだから……」
(……ありえない!)
千春の中で警戒アラームが鳴りまくった。
やはりおかしい。
直樹は根っからのお人よしで、他人の悪口を言うようなタイプではないのだ。
(しかもあたしの悪口なんて……。絶対におかしいでしょ!)
そんなのあたしの知ってる直樹じゃない。
あたしの知ってる直樹はそんな事しない。
とにかく異常な事が起こっている。
(……これはちょっと調べてみる必要がありそうね)
冷静に判断すると、千春は得意のウソ泣きを披露した。
「そんな、酷い! あたしは何もしてないのに……。う、うぅ、うぁああああん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。